○鑑定コラム



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36)東急文化会館

 渋谷駅の東口の前を走る明治通り沿に、SRC造8階建の東急文化会館という建物がある。

 プラネタリウムと映画館等の建物である。

 星というものは夜になれば天空に有り、仰げばまばゆい天の川があり、白鳥座もカシオペアもいつも自然に見てきたし、見られるものと思っていた。

 東京にきて人工の星空というものがあるというので、どんなものかと思い、初めてプラネタリウムなるものに入った。
 東急文化会館の五島プラネタリウムであった。

 暗室の部屋で仰向けになって天井の人工星を見ていたら、星がグルグル回るため気持ち悪くなってしまった。
 「文化というものは何だ」となかなか説明出来ないものであるが、これが「文化」を具体的に体現させるものかと、自らを納得させようとしていた。

 仕事が忙しく多くの映画を見ることは出来なかったが、ビル外壁に垂れ下がるロードショーの広告幕にひかれて、洋画の映画館にも足を運んだ。

 その東急文化会館が来年(2003年)6月で取り壊されるという。(日経2002.5.28)

   この建物の所有者は東京急行電鉄であるという。

 渋谷に文化のにおいを提供してくれた建物の一つが無くなるのは寂しい。
 都市の魅力である賑わいの場所を提供してくれた建物でもあった。

 都市の魅力とは「さまざまな階層の人々が集い賑わう混在」があることであると云ったのは、東急不動産会長の安藝哲郎氏である。
 自らが渋谷の街造りに携わってこられた人である。

 東急文化会館に替わる渋谷という都市の魅力を演出する建物の出現を期待したい。

 同建物が築造されたのは昭和31年(1956年)である。建築存命期間は47年である。
 一つのSRC造の建物の命は47年であった。

 奇しくもこの耐用年数は税法の事務所ビルの耐用年数50年に近い。

 不動産鑑定評価は土地の評価のみでなく、建物の評価も行う。
 その時に重要な要因の一つに経済的耐用年数がある。
 当該評価建物の全経済的耐用年数と残存経済的耐用年数の把握が要求される。

 木造、鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄筋コンクリート造の建物の構造によつて、それぞれの経済的耐用年数が異なっている。

 それら経済的耐用年数の具体的年数の把握には、税法の耐用年数を採用するのが多い。
     税法の耐用年数=不動産鑑定の経済的耐用年数
というものでは本来ないと思われるが、経済的耐用年数を具体的に調査し、発表したものが無いため、税法の耐用年数を使用している。一種の責任転嫁である。

   経済的耐用年数は不動産鑑定にとつて、大切な商売道具の一つである。
 他人任せにせず自前で自分の商売道具を整えるのが筋ではないのか。
 多くの建物の滅失除却データを集め、地域ごとにかつ構造ごとに分析し、データに基づくしっかりした経済的耐用年数表を持つべきではないだろうか。

 まして残価率10%を鑑定評価に受け入れる根拠がどこにあるのであろうか。

 以前木造家屋の「朽廃か否か」の鑑定を行った。
 借地上の建物が朽廃にあるか否かは、借地権者、土地所有権者双方にとって大変重要なことである。
 建物が朽廃にあるとなった場合、借地権は消滅し、数千万円の価格をしていた借地権が一瞬にして0円になってしまう。
 地主はそれに相当する財産を手にすることになる。
 得るか失うかという戦いは半端なものではない。

 激しく争っている中に、のこのこ乗り込んでゆき、あやふやな考えで判断だ、意見だと言って鑑定評価しても、争っている当人達に通用するものではない。
「その判断及び考えを担保するものは何か、根拠もたいして無くかつ担保するものが無くて鑑定するな、何が専門家だ」
と反撃を食らい、論理が薄弱だと云って袋だだきにあってしまう。

 案件では、床の波打ち、抜け落ち、土台、大引き、壁、柱、基礎等の痛み具合をそれぞれチェックし、それぞれの柱の傾き具合を計測し、腐り状況を千枚通しで確かめ、建物の捻れ等も計測後検討して朽廃か否かを判断した。

 それらの検査のほか他の側面からの検討も行った。

 当該地域の建物の存在期間はどのくらいあるものか調査してみた。
 同一町名のおよそ500棟の建物の建築年を調べ上げ、各年ごとに何棟の建物が現存しているかグラフ化してみた。
 築80年の建物もあったが、築20〜25年の建物の数が最多であった。

 評価対象建物の築後年数が、地域の建物の中にあってどの位置にあるかを知ることによって、当該建物が今後何年位の使用が地域の現存する建物の築年数から可能か判断するためであった。

   建物現存年数の調査は、都税事務所の家屋課税台帳を片っ端から閲覧して建築年を調べた。
 その当時は一冊いくらの閲覧料であったためそうしたことは出来たが、現在は一戸いくらでかつ所有者の閲覧委任許可が必要であるため、実質的に出来なくなってしまった。

 一つの方法として滅失除却登記の建物を調査することにより、建物の存続期間の調査は出来る。

 不動産鑑定士の為に、他人が都合良く経済的耐用年数を調査し、データ発表してくれるものでは無い。
 自分の飯の種である。
 自らが汗水を流して、多くのデータから実証的に調査分析し、信頼出来るデータ分析結果を手にすべきではなかろうか。
そうしたことの職務の積み重ねによってこそ信頼が得られるのではないだろうか。


 建物の経済的耐用年数についての記事は、下記鑑定コラムにもあります。
  鑑定コラム337)経済的耐用年数とは


 なお本鑑定コラムには多くの記事があります。経済的耐用年数の言語で関係記事を検索する場合は、

   経済的耐用年数 site:www.tahara-kantei.com

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