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399)賃料減額請求時の支払賃料

 賃料の下落が続いている場合、賃借人側から貸主に賃料値下げを要求する場合が多い。
 その場合、貸主が値下げに応じてくれなかった場合、賃借人が支払う賃料についての判例(東京地裁平成10年5月29日 判例タイムズ997、P221)を紹介する。

 判例の事件の内容は、約7700万円(詳細金額省略 以下同じ)の月額賃料を支払っていた賃借人が、周囲の賃料が下がっているのかどうした理由か知らないが、賃借人が相当と思う約3000万の賃料に値下げしてくれと賃貸人に申し出たが、賃貸人はこれを拒否した。

 すると賃借人は、それ以後3000万円の金額を賃料と称して、賃貸人の銀行口座に振り込んできた。

 3ヶ月そうした状況が続いたため、賃貸人は未払賃料の差額約1億4千万円の賃料支払と10%の遅延損害賠償金の訴訟を提訴した。

 東京地裁の判決は、減額請求の場合の相当と認める賃料は、貸し主側が相当と認める賃料であって、裁判が確定するまでの間は、従前合意賃料を支払わなければならないと判断して、原告・賃貸人側の請求を全面的に認容し、1.4億円の賃料不足分の支払と10%の遅延損害賠償金の支払いを賃借人にするように命ずる判決を出した。そして判決は確定した。

 賃借人から賃料減額請求された場合、その減額の意思表示が到達した時に、賃料は適正額に減額されたことになる。

 しかし、賃借人が提示した減額請求額が「適正な賃料」であるという保証は何もない。賃借人が、自分の提示賃料が適正であると主張したとしても、それは一方的な主張である。

 借地借家法32条3項は、減額「請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる」と規定する。

 即ち、減額請求を受けた者とは賃貸人であるから、賃貸人は自分が相当と認める額の賃料の支払を請求することが出来るのである。

 賃借人の提示する減額賃料が、賃貸人である自分の考える「相当と認める額」でなければ、その賃借人の提示する減額賃料は、賃料ではない。

 賃料として契約しているものは、従前合意賃料であるから、その賃料の提供であるならば、それは「貸主が相当と認める額」となりうる。

 従前合意賃料以下の金額は、契約した賃料額ではないことから、賃料とはいえない。賃料の一部という主張も成りたたない。
 ただ単なる金銭にしかすぎない。

 「賃貸人が相当と認める額」とは、従前合意賃料と解釈される。従前合意賃料を上まわっての賃料であれば、それも「賃貸人が認める額」になろうが、賃料減額請求者が、従前合意賃料を上まわった賃料を提供する行為などありえないであろう。

 「賃貸人が相当と認める額」は、従前合意賃料であるから、その金額以下の賃料の支払は、その金額は契約賃料に満たない金額であることから、賃料不払ということになり、賃貸借契約の解除の要因となる。

 本件の賃貸人の請求は1.4億円の未収賃料の支払を求めたものであって、賃貸借契約の解除を求めたものでは無かった為、賃貸借契約の解除の判決には至らなかったが、もし、賃貸人が賃貸借契約の解除の請求訴訟であったならば、賃貸借契約解除と多額な損害賠償金の判決が出されたのでは無かろうかと、私は推測する。

 賃料減額訴訟において、賃借人が賃貸人に提示支払う賃料額は、賃借人が相当と思っている賃料額ではなく、裁判が確定するまでは従前合意賃料を貸主にまず支払っておく。
 そうしてから、賃借人が相当と思う賃料額で、賃料減額訴訟を提起することである。

 なお、本稿は、2008年2月15日に発売される「Evaluation」(プログレス 電話03-3341-6573)の私が書いた論文「賃料減額請求時の支払賃料について」の抜粋であり、具体的内容の詳細については、2008年2月15日に発売される「Evaluation」を読まれたい。

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