毎年、正月元旦は社会人の実業団ニューイャー駅伝をテレビ観戦し、2日、3日は関東の大学の箱根駅伝を見て過ごしてきた。
今年(2008年)もそうだった。
だが、今年の大学箱根駅伝は、長い間見てきたレースの中で、最悪の駅伝だった。
テレビで見ていて、甚だ後味の悪い、不愉快さの残る駅伝であった。
それは、選手が脱水症状と低血糖からくる走行不能になり、倒れ立ち上がれない状態の姿を見せつけられたからである。
順天堂大学の5区の選手が、箱根の山登りの往路のゴールまであと少しという地点で、選手はフラフラ状態から、路上に倒れ込んだ。
人間の体力の限界を遙かに通り越して路上に倒れても、なおゴールに向かおうと立ち上がろうとするが、立ち上がれない。膝が崩れて倒れてしまう。
産まれたばかりの子羊が、地面から立ち上がろうとしてヨロヨロと立ち上がるが、すぐ膝がくじけて地面にへばりついてしまう。
この生まれたての子羊の行動姿に良く似た、選手の立ち上がろうとする姿を見るのは忍びがたかった。
走者がフラフラしているにもかかわらず、後ろから走者を伴走して、走者の走りを見ているはずの監督は、車から出てこない。
倒れ、一度立ち上がり、走り始めてやっと選手の異常に気付いたのか、順天堂大学の監督とおぼしき人が車を止めて飛び出して来た。飲料水も持たずに。
走者に声をかけて伴走しだした。
何の言葉を選手にかけたのか知らないが、選手は再び倒れた。
監督らしき人が選手の走行を止める前に、審判員の方が赤旗を空に挙げて振り、選手の走行中止を断じた。審判員は選手の身の危険を察知して、とっさに順天堂大学のレース続行を中止させた。審判員のこの行為は、甚だ適正な対処処置行動であった。
ここでやっと監督らしき人は、倒れ込んだ選手を介抱しだした。
順天堂大学は医学部と体育系学部を持つ大学である。
体育系学部は、医学部の持つ医学をスポーツに応用し、医学的見地から、生理学、栄養学、人間の筋力、骨格等を研究して、スポーツ競技力の向上や、健康の増進を研究する学部では無いのか。
私は、順天堂大学の駅伝選手、監督は、そうした医学的見地の知識に培われて、箱根駅伝を走り、研究の成果を実地に試しているものと思っていた。
学問の実証性である。
それ故、他の大学の箱根駅伝走者とは、別格として順天堂大学の選手を見ていた。
選手が速ければ、速くても良い。遅ければ、遅くても良い。
それが、医学的研究結果によって当人及び監督が理にかなって、ベストを尽くした状態の走りであることの実践であると思い、別格扱いで応援していた。
しかし、今年の箱根駅伝で、当の順天堂大学の選手が、脱水状態と低血糖でレース途中で倒れ込んでしまうのを見せられると、今迄の順天堂大学に対する私の考え方は逆回転しだした。
スポーツ医学を大学、学生は本当に学び、教えられ、研究し、実践しているのだろうか。実は全く行っていないのでは無いのでは無かろうかという疑問、そして駅伝監督はスポーツ医学の知識をどこまで持っているのかという激しい疑問が生じてきた。
冷ややかに見る人は、もともと順天堂大学の体育系学部には、そうした教育は行われていないのだという人がいるかもしれない。
だが、順天堂大学の体育系学部のホームページを見れば、次のごとくの文章が書かれている。
「スポーツ医科学の基礎理論は、競技力の向上やスポーツによる健康増進に活かされています。」
と述べる。そして、
「これまで本学が最も得意としてきた医学的知識および自然科学系に強い体育・スポーツ指導者の育成の伝統を受け継いで、世界のスポーツ医科学界をリードしていく人材の育成を目指しているのです。」
と高らかにスポーツ医科学をリードする学部であることを述べる。それをやはり私は信じたい。
今年の箱根駅伝は、順天堂大学の他に2つの大学の選手が、体調不良で走行中にレースを棄権するということが生じた。異常なといえる箱根駅伝であった。
走る前にコップ一杯の水を飲み、角砂糖かチョコレートを1つ食べ、途中では、蜂蜜入りの給水を必ずとるようにするべきであろう。
今年2008年の様な箱根駅伝が続くようであるならば、もう箱根駅伝を見る気がしない。
****追記 2015年1月5日 箱根駅伝で冬季競走シャツ・パンツを改革せよ 鑑定コラム1299転載
第91回箱根駅伝は、青山学院大学の初優勝で終わった。
青山学院大学の初優勝の最大の立役者は、箱根の山登りの5区を、圧倒的速さと時間で駆け登った神野大地である。
その栄光に隠れているが、駒沢大学の5区を走った選手の悲劇を見逃すことは出来ない。
駒沢大学の5区走者は、昨年も5区を走り、その時は区間3位の記録であった。
その経験もあることから、今年も5区の走者になったのであろう。
駒沢大学は優勝候補ナンバーワンであったから、監督は、今回も区間3位程度の走りを予定して、駒澤大学の優勝を考えていたのではなかろうか。
4区の時点では、駒沢大学は1位を走っており、2位とは約40秒近くの差をつけていたことから、前評判通りの競走展開であった。
しかし、駒澤大学の5区走者は、5区を走り始めて10km付近で、2位の青山学院大学の選手に抜かれ、ゴール手前3km付近で、走りがおかしくなった。
フラフラとよろめき、前かがみで地面に手を付けるように倒れた。
立ち上がろうとするが、すぐに立ち上がれなかった。
生まれたての子馬が、立ち上がっても、すぐに倒れてしまうごとくの状態になってしまった。
低体温症と脱水の症状が出た。
ゴールの100メートル手前付近でも、そしてゴールテープの直前でも倒れた。
ゴールテープはふらつきながら何とか切ったが、切ると同時に路上に倒れ込んだ。
すぐ医師による介抱がなされたと思うが、駅伝をテレビ観戦している者の一人として、この痛々しい姿は目にしたくなかった。
主催団体、監督、出場大学、競技関係者達ょ、何とかしてくれと言いたくなる。
低体温症等による選手のフラフラ状態については、鑑定コラム398)「最悪の2008年の箱根駅伝」で述べた。
また再び同じ事を繰り返す箱根駅伝を見せつけさせられた。
監督、競技関係者、主催団体、出場大学達は、何も勉強していなく、防御・対処方法すら全く考えていない。
勝つことばかり考えて、身体の健全な状態による競走であるということを忘れ去っている。
低体温症を甘く見るものではない。怖い症状である。
死亡することも充分ありうるのである。
万一、選手の一人が低体温症で死亡したら、大変な事になろう。
関係者の処罰は厳しく、警察、検察が放置しておかない。
箱根駅伝は、当分開催出来なくなるであろう。
駒沢大学の監督は、
「山の下で汗をかいて山の中で冷えて低体温症と脱水症状を併発したのではないか?」
と言っている。
原因がわかっておれば、その対策をとって措くべきではなかったか。
薄いランニングシャツとパンツで、冬の箱根を走ることを当然と考えている方がどうかしている。
今迄はそうして走ってきたからという言い訳は通用しない。
走れば体が熱くなるから大丈夫であると思っていたら、大間違いである。
自分の体の中で生じる熱量よりも、低い気温で奪われる熱量の方が多かったら、走れば走るほど体温は低くなり、低体温症を発症する。
意識障害が発生する。
私は、小学生、中学生の頃、木曽川上流沿いの田舎で育った。
夏は木曽川で泳いでいた。
夏とはいえ、木曽川の上流の水は冷たい。
少し長く泳いでいて、陸上に上がると、唇は紫色になり、口は上と下がガクガクし始め、体はガタガタ震えてくる。
中学の上級生が、そうした下級生を見ると、すぐ大きな岩に腹這いになっておれと教えてくれる。
河原の大きな岩は、夏の日光を浴びて温かくなっている。
それら岩に腹這いになって、冷えた体を温めるのである。
甲羅干しをしばらくしていると、体の震えは収まる。
私も中学生になった時には、下級生の唇が紫色になり、体が震えだした時には、岩に腹這いにさせた。
今から思えば、それは低体温症にかかりそうな時であったのか、低体温症の症状の前兆だったのではないかと思われる。
今回は箱根の冬は晴れていた。
晴れた日ばかりでは無い。
雨の日、雪の日もあろう。
その時は、一体どうするのか。
繊維の研究は進んでいると思う。
その気になれば、軽くて動きやすい低体温症を防ぐ冬季ランニングウエアの開発は充分出来るであろう。
箱根駅伝で、低体温症を防ぐ冬季ランニングウエアのお披露目をすることだ。
選手が、そのウエアを来て走る姿がテレビで映し出されれば、多くの人は購入して走るであろう。
スポーツウエア会社、繊維会社は、新しい需要が出来、市場が開拓されることになる。
箱根駅伝のスポンサーにもなってくれるであろう。
箱根駅伝は、健全な身体を蝕む競技であってはならない。
(鑑定コラム1299転載)