期待利回りとは、賃料(ここでは家賃を指すことにする)を求める時に、純賃料を求めるために基礎価格に乗じる利回りをいう。
基礎価格とは、賃料を求める場合の基礎となる土地価格及び建物価格をいう。
基礎価格×期待利回り=純賃料
の式によって純賃料が求められる。
この純賃料に必要諸経費を加えて積算賃料を求めるものである。この積算賃料は実質賃料である。
積算賃料を求めるのに基礎価格、必要諸経費の把握は当然必要であるが、それらよりもより重要なものは、期待利回りの把握である。
期待利回りという言葉であるから、それは貸主が期待する賃料利回りであり、貸主が希望する利回りで自由に決定出来るものと字句から解釈しがちであるが、そうした類の利回りでは無い。貸し主が期待し、勝手に貸し主が決められる利回りでは無い。
期待利回りは、還元利回りと表裏一体の存在であり、還元利回りが貨幣の「表」とすれば、期待利回りはその貨幣の「裏」という関係にある。不動産価格と基礎価格は同じ価格であるとすると、
純賃料÷還元利回り=不動産の価格
不動産の価格×期待利回り=純賃料
である。
この数式からみれば、還元利回りと期待利回りは貨幣の表と裏の関係にあるということが理解出来よう。
期待利回りを直接求めることは事実上困難であり、期待利回りが還元利回りと貨幣の表と裏の関係にあることから、周辺の同じ用途の賃料と土地建物価格より比較類推等して、還元利回りを求めて、それを期待利回りとして採用する。
この様にして期待利回りは求められるものであるから、期待利回りは貸し主が期待する利回りで、自分で自由に決められる利回りというものでは無い。
ある店舗賃料の鑑定書を拝見することになった。
その賃料鑑定書の期待利回りの求め方は、某大手鑑定機関が投資家にアンケート調査して集計発表している事務所ビルの平均利回りを採用していた。
この採用店舗賃料の期待利回りには、2つの誤りがある。
1つは、某大手鑑定機関の投資家アンケート調査による利回りは、減価償却前の利回りであって、家賃算出に使用する期待利回りは減価償却後の利回りである。
利回りの性質が異なっており、採用利回りは賃料の期待利回りといえないものである。
その数値を期待利回りとして使用した場合、必要諸経費にも減価償却費が含まれていることから、減価償却費の二重加算ということになる。
家賃の中で減価償却費の占める割合は甚だ大きく、これが二重加算されると、その求められた家賃は、現実の賃料市場の賃料と著しくかけ離れた賃料となる。
間違いのもう一つは、店舗賃料の期待利回りと事務所の賃料の期待利回りが同じであるのかということである。
店舗賃料の期待利回りと事務所の賃料の期待利回りとは、利回り水準が異なる。
例えば、同じ事務所ビルにあって、1階、2階が店舗・飲食店で、3階以上が事務所用途であった場合、賃料単価は1・2階の店舗・飲食店の賃料と3階以上の事務所賃料と同じであろうか。
1・2階の店舗・飲食店の賃料の方が、3階以上の事務所賃料よりも高い。
賃料が高いということは、リスクが高いから高いのである。
同じ場所の同じビル内で、店舗・飲食店の賃料が事務所賃料より高いとすれば、それは事務所用途の期待利回りと店舗・飲食店用途の期待利回りとは異なることを意味する。
そして、それは店舗・飲食店用途の期待利回りは、事務所用途の期待利回りよりも高い利回りであるということになる。
店舗・飲食店の賃料を求めるのに、事務所賃料の期待利回りを採用して当該店舗・飲食店の賃料を求めた場合、求められた賃料は安い賃料となる。
賃借人は大喜びするが、賃貸人は烈火のごとく怒り出す。
「この賃料の不動産鑑定は、賃料のイロハも知らないド素人の不動産鑑定士だ。こんな賃料鑑定が罷り通ることは許せない。不当鑑定で訴えてやる。」
と賃貸人は息巻く。