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57)RC造と見紛うPC住宅

 タイル張りの4階建ての賃貸住宅だった。
 ベランダは曲面を持ち、落ち着いた品の良い建物であった。
 「いい感じのRC造の賃貸マンションではないか」と思いながら眺めていた。

 しかし、その賃貸マンシヨンはRC造では無いと建物案内者はいう。自社が造ったPC造の建物という。
 どこが違うのか。
 外観から違いを見分けるのは殆ど困難であった。案内者は唯一の見分け方を教えてくれたが。

 PC造とはプレキャストコンクリート造のことである。
 プレキャストコンクリートとは、工場で生産されたコンクリート板等の製品をいう。現場で生コンクリート打設されたコンクリート製品では無いと言うことである。
 RC造は柱と梁を一体化した構造で、この柱と梁で構造体を支えている。「ラーメン構造」と呼ばれる。
 これに比しPC造は柱と梁が無く、壁と床で構造体を支えている。「壁式構造」と呼ばれている。
 PC住宅は、簡単に言えばコンクリートのプレハブ住宅である。
 プレハブ住宅というと、世の中に初めて登場した時の品質、デザイン等が悪かったため簡易な安物というイメージが植え付けられてしまい、それが未だに抜けきらない。

 PC住宅の場合、コンクリート板の継ぎ目の鉄筋を現場溶接していたり、板と板をボルトのネジ締めを過去に目にしていたために、地震の時に本当に大丈夫なのかという不安意識を持っていた。PC造の8階建て住宅が建つと聞いても、継ぎ目部分はラーメン構造にはかなわないのではないかという不信感を抱いていた。

 縁あってプレキャストコンクリート製造工場を見学する機会があった。
 完成したタイル張りの4階建て賃貸住宅、そして現在建築中の現場を見せてもらい、工場のPC板製造工程を工程順番に見学した。

 そして最大の疑問点であった継ぎ目部分について、アメリカを始め全世界で使用されている継ぎ目機具と工法の説明と実物、取り付け状態を見せてもらった。
 長い間わだかまっていた疑問点が解消した。

 PC板の継ぎ目は「スプライススリーブ」という特殊な鋳鉄製の金具であった。

 PC板の下部部分に19ミリ異形鉄筋をスプライススリーブ金具の半分まで入れて埋め込み、繋ぐPC板の上部に19ミリの異形鉄筋をつきだしていて、その異形鉄筋をスプライススリーブ金具に差し込み、強力な特殊モルタルで上下異形鉄筋を繋ぎ固めるというものであった。繋ぎ目は溶接以上の強さを持って上下接着されるという。その引っ張り強度試験は実証済みである。

 スプライススリーブという金具はハワイのワイキキの38階アラモナホテルで初めて使われ、その後全世界で使われているという。

 日本では「日本スプライススリーブ」という会社が独占製造販売している。特許があるため一社独占と言うことであろう。日本のPC製造施工会社の殆どが、この会社のスプライススリーブ金具を使用しているようである。

 阪神・淡路大震災(1995年1月17日)のマグニチュード7.9においても、スプライススリーブ工法による建物の被害はゼロであったという。
 本当かいなと思うが、日本スプライススリーブという会社はそのように説明している。大震災が継ぎ手及びPC工法の信頼性を高めたようである。

 見学したPC製造工場は、早強コンクリートで、スランプ8という土木工事でしか見られ無い、建物建築の現場打ちでは殆ど考えられない堅さ、即ち水の量が少ない堅さのコンクリートを使っている。
 平場の型枠に既にサッシとスプライススリーブそして19ミリ異形鉄筋が配筋されている型枠台に、そのコンクリートを均質にそして丁寧に打ち込む。鉄筋使用量は一般的には一立方メートル当り107kgであるのを132kg使用しているという。

 見学した会社が静岡に本社が在ることなのか、東海沖地震も充分考えて、他のPC製造会社よりより多くの鉄筋そしてスプライススリーブを多く使用して、強固なPC建物を提供しょうとしている姿勢が伺えた。

 現場打ちのRC造の賃貸マンションよりも、工場生産で強い強度のコンクリートで品質管理が行き届き、継ぎ手部分も阪神・淡路大震災で実証されたとなると、PC造の賃貸マンションを検討するのも無駄ではない。工事費もRC造より安く、工期も短いと云う。

 20数階の高層の住宅も蓋を開けてみれば、工場生産のPC外壁、PC床、PC柱を繋いで、ワンフロア4日のスピードで建てられようとしている。

 今回見学したPC工場を案内してくれた人は、前日は東京のあるマンション業者の社員30数名の工場見学を案内したと言う。マンション業者、不動産業者、ホームメーカー、設計事務所は見学によく来るが、不動産鑑定士の工場見学は初めてだと言っていた。この言葉をどう解釈すべきか、こちらの方が戸惑ってしまった。

 こちらは不動産業者ではないことから、必ずしもPC住宅の販売営業に繋がる保証はない。それにも係わらず、それらには全く関係なく親切に案内してくれ、疑問にも答えてくれた工場長、技術者そして案内者の態度には感謝したい。

 今迄工場見学は自動車組み立て工場、ALC板製造工場、伸銅工場、コンクリートヒューム管工場、アスファルトプラント工場、木造プレハブ住宅製造工場、軽量鉄骨住宅製造工場、製麺工場等を見学してきた。

 見学工場は多くは無いが、日本産業の根幹である製造工場を実際に目で見ることは、不動産鑑定の考えの幅を拡げ、理解を深めることになり無意味ではないと思う。

 「産業観光」を持論の一つとするJR東海会長の須田寛氏はいう。
 マレーシア、シンガポールからの人々への旅行会社のアンケート調査で「面白いと答えたのは産業拠点ばかりだった」と。(日経2002.9.1)

 日本を訪れるアジアの国の人々が、東京ディズニーランドを除き、行きたい要望の多いところを聞いたところ、

     1位   ヤマハ楽器工場
     2位 トヨタ工場
という。そのトヨタ工場を見学する外国人は年間16,000人という。
 中国、台湾の人々がトヨタの工場の製造ラインを見て「これが日本のモノ造りの中心か」と驚嘆している。

 30年前、私が日産自動車追浜工場の見学で、溶接ロボットがしなやかに自在に動いて自動車の中まで溶接作業する不思議というしかいいようのない姿を見て驚愕した同じ気持ちを、中国・台湾の人々は日本のトヨタ自動車工場の製造ラインを見て感じているようだ。

 今回見学したPC工場は、木内建設株式会社という静岡を地盤とした会社の藤枝工場であった。

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