○鑑定コラム


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618)仙台にて

 仙台の扇町というところに行って来た。

 企業の減損会計に伴う時価評価の不動産鑑定である。
 仙台駅の近くにあるレンタカー会社よりレンタカーを借りて現地に行ったが、約束の時間より未だ時間があったので、周囲の状況を見る為に、車でぐるぐる廻った。

 広い。広い。広い町だ。
 工場、倉庫、事業所が延々と続く。道幅も広い。

 東北地方の工場事業所が殆どここに集められているのではなかろうかと錯覚するほどの工場、倉庫、事業所が集まっている。

 近くには、三陸自動車道の仙台東インターがある。
 物流交通には便利な地域の様だ。

 土地の取引事例を調べると、土地価格はバラバラで、一定の価格水準で取引されているとは言いがたい状況である。

 土地の売却側企業、購入する企業それぞれの事情があって、土地取引されていることが予測される。

 扇町地区に所在する工場等不動産の多くが、減損会計の時価評価をすることになったら、大変な不動産鑑定評価の件数になるのだが。

 仙台駅近くのレンタカー店に車を返す時に、店員に、

   「近くに、島崎藤村が仙台に住んでいたという場所があると聞いたが、そこはどこですか。」

と問うた。

 レンタカーの店員の2人の女性は、そんな場所は知らないという。
 男の店長に聞いても知らないという。

 レンタカー会社は、一応仙台市内の観光地の案内の一つの窓口の役割を担っているのではないのか。
 ごく近くにあると思われる名所・旧跡は知っておいてくれよ。
 仙台市の観光課は、一体どういう観光行政政策をしているのだろうかと、つい愚痴の一つも出てくる。

 もっとも知らないということは、島崎藤村の仙台の居宅を尋ねてくる人が少ないことの裏返しでもあろうが。

 仙台駅にごく近く、北の方向にあると言うことを東京で聞いていたから、しばらくその方向を散策して、見つからなければ再度人に聞こうと思い歩いてみた。

 「藤村広場」にぶっかった。
 藤村と言うからには、これは島崎藤村に関係するのではなかろうかと思った。
 やはり関係していた。

 島崎藤村が下宿していた「三浦屋」の跡に作られた記念公園・広場であった。
 広場には、藤村堂への遠足の苦しさしか残っていないが懐かしき木曽馬籠の藤村の生家跡に植えられていた「みやぎの萩」の分株が植えられてあった。

 藤村は仙台に9ヶ月程度しかいなかったが、その間に、この下宿先の「三浦屋」で、詩集「若菜集」が書かれたという。
 とすると、ここは大変な場所ではないか。

 それにしても、レンタカーの店員達は、近くにあるのに全く知らないとは。

 仙台駅に向かう小径には「初恋通り」という名前がつけられていた。

 島崎藤村の「若菜集」の中に、「高楼」という詩がある。
 その中のいくつかが「惜別の歌」という歌の名前で、一部文言が変えられて歌われている。
 私も大学生の頃よく口ずさんだ。

一  遠き別れに 耐えかねて
  この高殿(たかどの)に 登るかな
  悲しむなかれ 我が友よ
  旅の衣を ととのえよ

二 別れと言えば 昔より   この人の世の 常なるを   流るる水を 眺むれば   夢はずかしき 涙かな
三 君がさやけき 目の色も   君くれないの くちびるも   君がみどりの 黒髪も   またいつか見ん この別れ


 私は知らなかったが、この曲は、太平洋戦争の終戦間際、学徒動員が激しくなり、仲間の学生が赤紙で次々と戦場に向かった時に、一人の中央大学予科の学生が作った曲という。

 明日は我が身であるとはいえ、戦場に行く仲間を送るのが耐えがたかった。
 そんな時に、兵器を製造する工場に共に学生労働徴用されていた東京女子高等師範学校(現・お茶の水女子大)の女学生が、藤村の「若菜集」のある詩を工場に持ってきた。それは「高楼」の詩であった。

 その詩に、中央大学予科の学生だった藤江英輔氏は曲をつけた。そしてそれは「惜別の歌」として、出征する仲間の学生を送る時に歌われ出したという。

 中央大学の学生、OB仲間では、今でもこの歌は、歌い継がれているというが、私はそれは知らない。

 仙台は寒かった。
 東京へ帰る予定時間まで時間は未だあった。
 仙台駅ビルの青葉通りの見える寿司屋に入った。窓から見える青葉通りの木々の葉っぱは落ちていた。

 地元の酒の熱燗を頼んだ。
 気仙沼の「男山」が勧める酒だと板前は云う。

 酒の肴は、刺身を見繕って出してくれと板前に頼んだ。板前は、気仙沼で今朝取れた魚だと云って、大きな皿に刺身を盛って出してくれた。
 気仙沼の熱燗の酒は、冷え切った体にしみこんだ。刺身はうまかった。


 鑑定コラム80)「中津川市周辺町村の合併」

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