最近立て続けに、同じ考え方による妙な不動産鑑定書に2件出くわした。
賃料の鑑定評価書であるが、積算賃料及び実際実質賃料での必要諸経費において、減価償却費を再調達原価の金額によって求めているものであった。
例えば、下記の条件のものとする。
建物は平成5年に建ったとする。
従前合意賃料時点は平成15年1月時で、価格時点は平成21年9月とする。
上記条件において、平成21年9月時の対象建物の再調達原価を8億円とする。
経済的耐用年数をRC造であるから40年として、減価償却費を、
800,000,000円×1/40=20,000,000円
と求めている。
一方、従前合意賃料時である平成15年時の減価償却費は、平成15年時の再調達原価を10億円として、経済的耐用年数を40年として、
1,000,000,000円×1/40=25,000,000円
と求めている。
この求め方は、いささかおかしいではないか。
企業会計等の方での減価償却費の求め方は私は知らないが、不動産鑑定評価の賃料の必要諸経費の中の減価償却費の求め方は、この様な求め方をしない。
平成5年に建てた建物である。
平成15年までに10年経過している。
平成21年までには16年経過している。
建物は既に10年或いは16年減価償却されているのである。上記求め方では、その要因が全く無視されている。
上記の求め方に従えば、築後39年経っての建物価格が10,000,000円であるにもかかわらず、再調達原価が1,000,000,000円であるならば、減価償却費は25,000,000円であることになる。建物の価格よりも高額な減価償却費ということになる。そしてそれが賃料の経費の一部として賃料を形成することになる。
賃料は甚だ高くなる。しかし現実の賃料はこの様には形成されない。
建物は、古くなれば賃料は安くなる。
それは、建物の機能的陳腐化の原因もあるが、建物の減価償却が進み、それとともに建物の経年による物理的損耗が進み、新築の建物と同じ高い家賃が取れなくなる為である。当然、建物の価格も安くなる。
賃料評価の必要諸経費を形成する建物の減価償却費は、その価格を評価する時点の建物価格の金額を採用し、その時点以降の経済的残存耐用年数で除して求めるものである。
例外的に再調達原価を採用する場合がある。それは新築建物の賃料を求める場合の時である。新築建物の場合、建物価格は再調達原価を採用するので、再調達原価で減価償却費を求めることになる。
前記例の減価償却費を求めると、平成15年時の再調達原価が10億円であっても、その建物価格が平成15年時で4億円であるとすると、経済的残存耐用年数は30年であるから、
400,000,000円×1/30≒13,300,000円
である。25,000,000円の減価償却費ではない。
鑑定コラム633)「実務修習の継続賃料の求め方は間違っている」
鑑定コラム1402)「築後52年の建物に新築価格の減価償却費を考える家賃の鑑定書」
▲