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670) 「都心に本社ビルがどうして建てることが出来るか」という講義

 不動産の価格に関する諸原則として、11の原則がある。

 需要と供給の原則、最有効使用の原則等の11の原則である。
 その11の原則の中の一つに、「収益配分の原則」というのがある。

 製造業、販売業等の企業の総収益は、資本、労働、経営、不動産の4つの協働によって得られるものであるという原則である。企業収益還元法を理論担保する基本的な原則である。

 資本は利子及び配当、労働は賃金、経営は経営に対する報酬である。
 総収益よりこれらに帰属する収益を控除して、残ったものが不動産に帰属する収益である。

 控除する経営に属する収益、即ち経営に対する配分利益を、経営者の報酬と考えている人が多いが、それだけでは無い。それには本社経費も含まれている。

 企業は、各工場或いは支店・営業所に対して、本社経費として工場・支店・営業所での売上高の何%かを天引きして本社に送金させている。或いは負担させている。

 そうしないと、本社の人件費、家賃等が支払えなくなる。
 本社では製品を作っているわけでも無く、商品を売っているわけでは無いから、本社そのものの売上高は無い。

 本社を維持していくには、各工場、支店・営業所に対して、売上の何%かを本社にバックさせるか若しくは負担させないと、本社が成り立たない。

 こうした企業の資金勘定を考えて、「都心に本社ビルがどうして建てることが出来るか」という課題で、大学で講義した。

 正常価格とは・・・・、効用・相対的稀少性・有効需要・・・・等の頭の痛くなるややこしい話を聞くよりは、何故東京に高層ビルがいくつも建つのであろうかという質問を学生に投げかけてやれば、どうしてだろうと自身考える。
 そして不動産に興味を持ってくるに違いない。

 都心にある売上高140億円の知識コンサルタントの企業が、25億円で売買された。

 売上高に対する企業売買価格の割合は、

      25億円÷140億円≒0.18

18%である。

 地方に工場、営業所を持つ売上高5000億円の企業が、東京に本社ビルを持っているとする。
 売上高5000億円の企業の本社の適正人員がどれだけか、私は知らない。
 とりあえず400人とする。

 一人の本社社員の人件費を年間600万円とする。これの5倍を本社費用とする。

      600万円×400人×5=1,200,000万円

 120億円が本社費用である。

 売上高の2.4%(120億円÷5000億円=0.024)である。

 本社経費がどれだけかと言うことが、ここで一つ例示された。
 売上高の2.4%が、経営に配分される利益と分かった。

 企業の本社というのは、企業の経営管理、企画運営等を行う知能・知識集団である。
 このことはコンサルティング会社と同じ知識企業の一つと考えられうる。
 120億円の本社費用相当を、本社即ち知識企業の売上高と見なすことが出来る。

 知識企業の売上高の18%が市場価格であるから、

      120億円×0.18=21.6億円≒22億円

が本社の市場価格である。

 この22億円のうち半分が人材の価値と考え、残り半分が本社の不動産に属する価値と考える。

 不動産配分利益は、

      22億円×1/2=11億円

である。

 これが本社機能集団のうちの不動産に配分される利益であり、それは即ち年間賃料と言うことになる。

 この不動産配分利益即ち賃料を8%の粗利回り(グロス利回り)で還元すれば、

      11億円÷0.08=137.5億円≒138億円

である。

 本社機能集団の所在するビルは一棟で138億円と求められる。
 138億円のビルとなると相当立派なビルである。

 以上が都心で多くの林立する「都心に本社ビルがどうして建てることが出来るか」の命題に対する一つの仮説理論の説明である。

 学生にこうして仮説理論を話した。
 学生は理解してくれたであろうか。
 不動産そして不動産鑑定に興味を持ってくれたであろうか。

 学期末の試験に、「都心に本社ビルがどうして建てることが出来るかについて論ぜよ」という課題を出して見ようかとも思ったりする。

 上記の「都心に本社ビルがどうして建てることが出来るか」については、本鑑定コラム33)「知識企業の価格は売上高の18%」で述べていることを要約して、学生に分かり易く説明したまでである。

 当鑑定コラムを2002年6月より訪問され読んでおられる方は、昔読んだ記事内容であると思われるであろう。ご容赦されたい。

 (2010年6月桐蔭横浜大学法学部での不動産鑑定評価の講義の内容から、一部加筆して)


 鑑定コラム33)「知識企業の価格は売上高の18%」

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