765)2,000uの土地と30,000uの土地と単価は同じなのか
工場が連坦する工業地域の道路拡幅のため工場地の前面道路側約2m程度の巾で、道路用地として買収される工場地所有者から、買収土地価格があまりにも安すぎるということで相談を受けた。
道路用地買収する役所側から、
「この提示価格は、二人の不動産鑑定士の鑑定評価に基づくもので適正である。周辺にある地価公示価格から見ても妥当である。
この価格で道路予定地の土地を売って欲しい。」
と土地所有者に買収価格の提示がなされた。
土地所有者は適正な時価であれば、道路の用地買収に応ずるつもりであったが、提示価格が考えていた価格よりもあまりにも安く、役員会にかけても役員の同意が得られないと思われる金額であった。
そこで役所側に、
「買収提示価格はあまりにも安すぎる。その様な低額の価格では用地買収に応じられない。少なくとも時価での金額でないと役員の了承を得ることが難しい。」
と云って、役所側に提示金額の撤回と見直しを求めた。
すると、役所側は、
「これは決定した金額であるから、この金額を変えることは出来ない。」
と主張する。
話合は平行線をたどった。
土地所有者側は、東証一部上場企業であり、新しい企業会計制度に従って所有不動産の時価評価を行っている。公認会計士の会計監査もあり、例え役所の買収とはいえ、時価でない価格での財産の処分は行うことが出来ない。
土地所有者側は、そうした関係もあって工場地の時価がどれ程であるか、かなり正確に把握している。面積の大小によってどの位の価格の差があるのかも知っている。
そうした事情もあり、
「役所提示の価格は適正な時価とはほど遠い価格である。適正な時価でない限り買収には応じられない。」
と強硬姿勢を貫いた。
役所側は、役所の提示価格は適正な時価ではないと否定されたためか、役所が依頼した2社の不動産鑑定書の中心部分である土地価格比準表のコピーを提示した。
「専門家2人の作成した不動産鑑定書の比準表である。この通りである。
専門家2人の判断した価格に基づいて提示価格は決定したのであるから適正な時価である。」
と役所側は、鑑定書という証拠をつきつけて、適正な価格であると主張して来た。
土地所有権者は、役所が提示してきた2つの不動産鑑定書の中の土地価格比準表を見ても、それが適正であるか否かさっぱり分からないと言って、私に見てくれと相談に来た。
鑑定書発行の不動産鑑定会社が何処で、誰が鑑定したかは削除されていた。
それ故、何処の鑑定事務所のどなたが鑑定したのかは、私には分からない。
その2つの鑑定書の土地価格比準表では、採用事例はいずれも工場地の取引事例である。
標準画地として2,000uの画地としていた。
提示の土地価格比準表に記されている取引事例の規模を見ると、標準画地の規模に近い1,700u、1,400uの事例もあるが、8,000u、30,000u、10,000u、3,000u、4,000uの事例もある。
標準画地の規模が2,000uであるから、8,000u、30,000u、10,000u、3,000u、4,000uの事例は画地規模に応じた規模修正が行われているとてっきり思ったが、提示の土地価格比準表の何処にもそれは行われていない。
30,000u等の規模の土地単価が、そのまま標準画地の価格として考えられて土地価格は求められていた。
例えば、30,000uの価格の単価をu当り80,000円とすると、地域要因の比較は行っているが、その80,000円の単価で対象地の標準画地の価格が計算されている。
つまり、同一道路に面して地域要因も全く同じとする2,000uの土地と30,000uの土地が隣接しているとし、30,000uの土地の価格がu当り80,000円であったとすれば、2,000uの土地の価格もu当り80,000円であるという論理思考である。
2,000uの土地と30,000uの土地の単価が同じということはあり得ない。
規模が大きくなれば、総額がかさむ事より、u当りの単価は減額されるのが常識である。
単価u当り80,000円とした場合、2,000uと30,000uの土地総額は、下記の通りである。
80,000円×2,000u = 160,000,000円
80,000円×30,000u = 2,400,000,000円
土地総額1.6億円と24億円の違いがある。
1.6億円の土地は購入出来るが、24億円の土地はとても購入出来ない企業経営者は多くいる。
つまり土地購入者の層が異なるのである。それ故、規模大で高額な土地は市場性を得るため単価は減額される。
これを無視して、2,000uと30,000uの土地単価が同一と考える鑑定評価そのものが根本的に間違っている。
面積30,000uの土地単価80,000円は、面積30,000uの要因で形成されている土地価格である。2,000uの土地は、2,000uの要因を反映して形成されるものである。
面積30,000uの土地単価80,000円を規模修正の要因をせずに持ってきて、2,000uの土地価格を求めれば、求められる土地価格は当然かなり安く求められる。
2つの土地価格比準表の鑑定評価は、30,000uの土地のみでなく、全ての事例の価格比較がそうして求められているのである。
2社の不動産鑑定書の鑑定書は、全く同じ間違いをして、鑑定評価している。
この様な不動産鑑定は、財産権の侵害を引き起こしているといえよう。
そもそも何故標準画地を2,000uと決めたのか。決めておきながら2,000uの存在そして意義が全く考慮されていない。
その様な不動産鑑定書の価格を適正価格であると主張出来るのであろうか。
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