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777)理論編と評価書編が整合しない実務修習テキスト

 ある雑誌の編集後記に次のことが述べられていた。
 その雑誌の発行会社、著者の了解を得て、転載する。

 「本号は不動産鑑定士三次試験合格者に、(社)日本不動産鑑定協会が実務講習において課題指導しているテキストの中より「貸家及びその敷地の鑑定評価」を取り上げた。その(理論編)において総費用即ち必要諸経費として「貸倒れ準備費」、「空室等による損失相当額」をあげている。(評価書編)においては、運営収益即ち収入として「貸倒れ準備費」、「空室等による損失相当額」は計上されている。(理論編)と(評価書編)で論理の矛盾を引き起こしている。この様な相矛盾することを次の世代に教えて良いものであろうか。再考すべきである。」(Evaluation 41 P96の「編集後記」2011年5月25日発行 プログレス 電話03-3341-6573)

 「Evaluation」という雑誌は、不動産鑑定評価の実務理論雑誌である。

 広告を一切取らずに発行している一風変わった雑誌である。
 広告を取らないことから、広告主への遠慮は全く生じ無く、自由に発言・主張出来るという大きなメリットがある。

 とかく新聞・雑誌は広告主に気兼ねして自由な発言・主張がセーブされている傾向があるが、「Evaluation」という雑誌は、広告を取らないことから、それらへの気兼ねが一切なく、論文著者・執筆者の自由な発言・主張が出来る雑誌である。

 転載した編集後記は、2011年5月に発行された「Evaluation」 41の編集後記である。

 「Evaluation」41号は、「実務修習・指導要領テキストの検証」という課題の特集を組んでいる。

 不動産鑑定士3次試験合格者を対象とした実務修習・指導要領テキストのうち、「貸家及びその敷地の鑑定評価」を取り上げ、同テキストが記している同類型の「理論編」と「評価書編」を掲載している。

 編集委員に、特集の目的を問えば、

 「現在の貸家及びその敷地の鑑定評価書はどういう水準にあるかということを、年配の不動産鑑定士に知ってもらうこと、加えて実務修習ではこの様に教えているという事を知ってもらうこと、そして果たして実務修習テキストの内容が適正であるかを検証する必要もある。」

と言う。

 編集後記氏は、「再考すべきである」と甚だ厳しいことを言う。

 この点について言えば、私も編集後記氏と同感である。

 編集後記氏が再考すべきと指摘する点を記すと、次の点である。

 同テキスト理論編において、総費用の査定として、「直接還元法に基づく場合の総費用」について、下記の項目を挙げる。(同誌P13)

      1.減価償却費
      2.維持管理費
      3.公租公課
      4.損害保険料
      5.貸倒準備費
      6.空室等による損失相当額

 理論編において、貸倒準備費、空室等による損失相当額を、「費用」として計上している。

 一方、同テキスト評価書編において、「直接還元法による収益価格」(同誌P27)で、「運営収益」即ち総収入の中に空室損失、貸倒損失を計上している。

 「運営費用」即ち総費用として計上しているのは、

      1.維持管理費 
      2.水道光熱費
      3.修繕費
      4.プロパティマネジメントフィー
      5.テナント募集費用等
      6.公租公課
      7.損害保険料
      8.その他費用(数値は0円となっている)

であり、空室損失、貸倒損失は費用として計上していない。(同誌P27)

 理論編において費用と計上し、評価書編では費用として計上せずに、収入として計上している。

 鑑定理論と実務の鑑定評価書の内容とが、全く整合性がとれていない。
 論理の矛盾が生じており、鑑定理論構築として失格の論理構成である。

 編集後記氏は、この点を指摘し、「再考すべきである」と言っているのである。
 評価書編の方が正しい。即ち理論編が間違っているのである。間違った理論をあたかも正当な理論のごとく装い、間違いでないと主張されては甚だ迷惑する。

 実務修習テキストは、上記で述べたごとく鑑定理論構築として失格の論理構成であることから、私も再考すべきであると思う。

 即ち、言っていることと行っていることが、まるで違うのである。

 この様なことを放置することは出来ないであろう。
 放置しても良いと言う人は、私から見れば、不動産鑑定士失格であろう。
 
 社団法人日本不動産鑑定協会が作成し、同協会が実務修習で教育指導している実務修習テキストが、上記の様な相矛盾することを堂々と記載している事に、私は「何をやっているのだ」と甚だ失望する。

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