アメリカの製薬会社のアボット・ラボラトリーズが北陸製薬の株式公開買付け(TOB)を実施した。(日経2002.4.23)
外資の日本製薬会社買収の一つであるが、TOBの条件が「過去3ヶ月の平均終値に約27%上乗せした金額」の買い取り表明である。
どうしても欲しい会社を買うためには通常の価格より27%高く買うと云うのである。
三井物産とアメリカの給食事業会社のアラマークという会社が共同して、日本の東京株式2部上場のエームサービスという会社を公開買付け(TOB)した。(日経20002.8.1)
買付け価格は1株1,750円と発表した。TOB発表日のエームサービスの株価は、1,320円〜1,350円であった。
市場取引されている株価に対する公開買付け価格の価格倍率は、
1,750円÷1,350円=1.296≒1.30
である。1.30倍の金額である。
どうしても欲しい会社を買うためには通常の価格より30%高く買うと云うのである。
東京通信ネットワークは、ドリーム・トレイン・インターネット(以下DTIという)の株式を公開買い付けすると発表した。
DTIの大株主である三菱電機は、公開買い付けに応募すると決定した。(三菱電機HPプレスリリース 2002.12.26)
公開買い付け価格は一株につき230,000円である。
この価格は、大阪証券取引所ヘラクレス市場に上場しているDTIの4ヶ月平均価格を34.5%上回る価格という。
平均価格は、
230,000円÷1.345≒171,000円
171,000円と言うことか。
通常の価格よりも34.5%高く買うというのである。
TOBは時価より高く買う場合のみではない。時価より安くTOBする場合だってある。
地図製作会社の昭文社は、電子地図製作の日本コンピュータグラフィック(NCR)のTOBを行った。(日経2002.10.16)
このTOBの買付発表価格は1株45,000円である。このTOB価格はTOB発表時の日本コンピュータグラフィックの株価の55%以下であるという。
日本コンピュータグラフィックの時価である株価は、
45,000円÷0.55=81,818円≒82,000円
82,000円程度ということになる。
TOB価格が時価の約55%という低額の価格になったのは、日本コンピュータグラフィックの2002年3月期の決算が5.2億円の赤字であり、今後の業績の向上があまり期待されないと見込まれたことによる結果では無いかと思う。
TOBのこれらの行為は、不動産鑑定における取引事例の買い進み、売り急ぎの要因を修正する事情補正の補正率に通じるものがあるのではないだろうか。
株式と不動産と対象とするものは異なるが、合理的な経済人がどうしても取得したいという心理、そして倒産するよりか安い価格でも良いから売り払い処分してしまいたいという経営者の心理は、株式でも不動産でも同じである。
取引事例の買い進みの事情補正修正率、売り急ぎの事情補正修正率をどれ位にするかを判断するのは大変難しい。
尺度となるのは、同じ立地条件の周辺の土地の取引事例の価格との比較から事情補正修正率を求めざるを得ない。それが1.10とか1.25や0.8等の事情補正修正率になるのである。
当該取引事例が最初から買い進みの価格で、20%買い進みであるということなどは、TOBのごとく公開発表される訳では無いから、わかるものではない。
事情補正がないものとして、取引事例価格に時点修正、標準化修正、地域要因修正、個別的要因修正を行い、それぞれ求められた試算価格のうち、一つの試算価格のみかけ離れて高いとか安いとかの価格が求められた時は、再度手順及び格差修正率を見直す。
見直して各手順及び格差修正率に誤り等が無く妥当であり、それでも尚かつ価格差が2〜3割生じる場合には、それは買い進みもしくは売り急ぎの要因によるものと判断し、その事例に事情補正を行うのである。他の試算価格より見て20%程度高ければ100/120の事情補正をその時行うのである。20%安ければ100/80の事情補正をやっと行うのである。
この様に事情補正はフィードバックして修正を行うものである。最初から事例Aの事情補正修正率100/120と決められるものではなく、かつわかるものではない。
裁判所に提出した私の不動産鑑定書の採用事例の一つに、事情補正として100/120の修正を施したものがあった。
この点を捉え、代理人弁護士は「田原鑑定は最初から20%程度価格を安く出そうと考えて鑑定している。低く出そうと意図している不当鑑定であるから信用出来ない」と猛烈に批判してきた。
100/120=0.83であるから、正確には17%低い価格となる主張であるが。
その代理人弁護士の主張の裏には、その代理人がある不動産鑑定士に私の鑑定書を読んでもらい、私の鑑定書に対する意見書を作成してもらっていた。その意見書にその様に指摘してあることを根拠に代理人弁護士は主張してきたのである。
どの様な理由にしろ、法廷で不当鑑定と弁護士から批判されるのはあまり気分的に良いものでは無い。血圧に悪い。
その批判にたいして、
「取引事例が事情補正を必要とする程に高いのか安いのかは最初からはわからないものである。最初は事情補正の必要性はないであろうと考え、取引事例の比較法を行うものである。
試算作業を終えて、例えば3つの取引事例の試算価格の中で一つだけ、他の試算価格からかけ離れた価格が得られた場合、個別的要因、地域要因等の要因修正を見直し、それらが適正に行われているとすれば、その価格差は事情補正によるものであろうと最後に考え、事情補正の修正作業を行うものである。
先に事情補正ありきで鑑定評価していない。それが私の鑑定スタンスである。また、それが正しい事情補正のやり方である。
100/120の事情補正を行っているから、20%ほど安く価格を出そうとしているという様に考え主張するのは、その意見書を作成した不動産鑑定士が自分でよくその様なことを行い、他人も行っているのだと思いこんいるのではないだろうか。
誤った事情補正の考え方を誤りと気づかずに主張しているのである。その意見書を作成した不動産鑑定士の考え方、鑑定に対する姿勢こそ批判されるべきものである。」と反論した。
相手側弁護士の後ろに隠れて居て、私を困らせ、痛めつけてやれと考えて弁護士に入れ知恵している不動産鑑定士への私からの強烈な攻撃である。
一つの事例を見て、即座に事情補正が初めから100/80の修正率とか、100/120の修正率があるとわかるとすれば、その不動産鑑定士の分析能力は超人的な能力である。
合理的な経済人である投資家の経済心理として、前記TOBの買い進みの数値、売り急ぎの数値は、不動産鑑定の事情補正の修正率に通じるものがあり、その一つの実証的データになるのではないかと思われる。
長いコラム文章の最後に一つ。
不動産鑑定士、不動産鑑定士補そして弁護士等法曹関係の方或いは地代・家賃・不動産鑑定に興味を持つ方、今回のテーマとは全く関係ありませんが、『判例時報』(判例時報社発行)の今年の新年号の15年1月1日号(1800)を買って、そのトップ記事を読んで下さい。
記事の内容は言いません。
何はともあれ買って読んで下さい。
鑑定コラム1889)「浅生横浜地代判決(東京高裁 平成14年10月22日)」
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