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82)マイカルの子会社スーパーの売却価格

 会社更生法によって更生中の大型スーパーストアのマイカルは、子会社やマイカルの店舗の売却、閉鎖を急いでいる。
 2003年2月に「辻堂サティ」の閉鎖を、2003年6月には「中条サティ」、「黒部サティ」、「交野サティ」、「泉南サティ」の閉鎖を発表した。(マイカルHPプレスリリース 2002.12.19)

 食品スーパーマーケットのマルエツは、マイカル系列の小型スーパーマーケットの「ポロロッカ」を約20億円で買収した。(日経 2001.11.16)
 ポロロッカは売場面積500平方メートル以下の小型店舗54店舗を持っていた。
 売上高は361.8億円、経常利益は82百万円(2001年3月)である。(マイカルHPプレスリリース 2002.1.17)

 マルエツの買収価格約20億円は妥当な価格か否か。

 上記の与えられたデータから推測してみる。
   年間売上高20億円程度のスーパーマーケットの、売上高対経常利益率は1.9%(標準偏差1.6)である。(『中小企業の経営指標』14年版中小企業庁編 p468 同友館)

 マイカルの子会社のポロロッカの経常利益率は、
       0.85億円÷361.8億円=0.0023
0.23%である。平均スーパーマーケットの10分の1程度の利益率である。とてもこの利益率を適正水準の利益率と認めることは出来ない。

 マルエツの財務諸表をみると、2001年3月期のマルエツの経常利益率は1.4%である。この経常利益率を採用してポロロッカの売上高を修正する。
       0.82億円÷0.014=58.5億円
 ポロロッカの売上高は361.8億円あるとしても、それはマルエツの経営感覚でみれば、58.5億円の金額でしかない。

 総資本を投下資本と考える。
 年商20億円程度の、スーパーマーケットの売上高に対する総資本の割合関係を分析してみる。
 前記『中小企業の経営指標』によれば、
    総資本対経常利益率     6.4%
    売上高対経常利益率     1.9%
である。
 これは、

       経常利益率            6.4
            ─────     =    ────                    
        総資本           100

       経常利益率            1.9
            ─────     =    ────                    
        売上高           100

である。後者を次のごとく変換する。
        売上高                100
            ─────     =    ────                    
       経常利益率          1.9 

上記式から、
              経常利益       売上高           売上高
            ───── ×────    =  ─────         
               総資本       経常利益          総資本

となる。経常利益率は分子、分母相殺して消える。
 上記式に各数値を代入すれば、
             売上高           6.4       100        6.4
           ───      = ───   ×──   = ──  =3.36 
             総資本          100        1.9        1.9
と求められる。
 ここで総資本を投下資本と見なした。
 即ち年商20億円程度のスーパーマーケットの、投下資本に対する売上高倍率は3.36倍ということになる。
 マルエツのポロロッカの買収価格は、
        58.5億円÷3.36=17.4億円
ということになる。

 実際のマルエツの買収価格は約20億円である。  実際の買収価格と上記予測試算価格の間には、約13%の開差(17.4億円÷20億円=0.87)がある。少し開差があるが、確率より考えれば概ね妥当の範囲ではなかろうか。

 但し、マルエツが買収価格を上記の考え方のごとく求めたという保証はない。全く違う考え方で価格決定している可能性はある。むしろその方の確率の方が高いのではなかろうか。価格決定の内容は購入者のみ知るのみである。

 上記17.4億円の価格は、経常利益率を、買収する側のマルエツのバランスシートから1.4%を採用して求めた価格である。これを平均的な1.9%を使用した場合は、
        1.4%÷1.9%≒0.74
        17.4億円×0.74=12.87億円≒13億円
ということになる。ポロロッカの売却価格に13億円の金額が付けられてもおかしくない。
 13億円の金額より見れば、マルエツのポロロッカの買収価格約20億円は高かったと言うことになる。
 しかし、物事には競争というものがある。13億円で購入しないと採算が合わないと算盤をはじく事業家もいれば、20億円で購入しても充分採算が合う経営をすることが出来る事業家もいる。
 物件を売る側としては、少しでも高い価格で売却したい。それは更生管財人とて同じである。
 マイカルの管財人は、破産管財人として実績が多く、破産に詳しい優れた能力を持っているとの噂の高い、著名な弁護士である。その弁護士の手腕と、物件購入価格の競争の原理が働いた結果によるものと考えるのはうがち過ぎか。

 マルエツはスーパーマーケットを経営している。スーパーマーケット事業経営者としてプロである。そのプロが約20億円で取得しても事業採算が合うと、自身の経験則から判断して買収した訳であるから、それはそれで妥当な価格であったと判断するべきであろう。

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