昨年(2002年)の晩秋、東京地裁の鑑定委員会(会長大木一幸弁護士)で講演する羽目になってしまった。
過去数年の同会の講演会の講師は、裁判官、大学教授、弁護士会会長という錚々たる人達ばかりである。
とても私のごとき者が話する講演会ではない。
私より年齢が上の弁護士や不動産鑑定士そして有識者の方々がおられることから、その人達に講演を頼んで頂きたいと会長の大木一幸弁護士に頼んだ。
それに鑑定委員の名簿を見れば、かって地裁や簡裁の法廷で鑑定人の証人喚問を受け、地代・家賃の評価で鑑定内容について、質問・回答という形で激しく言い争った弁護士の名前がすくなからず見受けられる。それら弁護士の先生方の前で、偉そうな事を言うのには気が引ける事も理由にして断った。
しかし、「弁護士は立場上、法廷で不動産鑑定士である鑑定人にきつい質問・反論をするのであって、それは講師を断る理由にはならない。あなたは
『賃料<家賃>評価の実際』
という非常に分かり易い実務の本を書かれている。それだけの知識と能力を持っている。その知識の一部を話して頂きたい」と言葉巧みに会長の大木弁護士に説得されてしまった。
講演の課題は『借地非訟事件と地代』とした。
借地上の建物を地主に無断で、或いは地主が承諾しないからといって勝手に増改築、建て替え、他人に権利譲渡を行うと、借地契約は解除されてしまう。借地権利がなくなることは、更地価格の6割とか7割の借地権価格を失う事である。
それを避けるためには裁判所が地主に代わって許可を与え、借地人の権利を保護してくれる。それが借地非訟である。借地人の方々は、夢夢、地主に無断で絶対、増改築、権利譲渡等を行わないように。
地代の源泉は、その土地が産み出す不動産利益である。賃貸建物であれば家賃、事業用建物であれば事業収益であることを話した。
事業収益からの地代の求め方については、『鑑定コラム』の
「ある工場地の地代」
で説明してある。家賃からの地代の求め方については、その結果のほんの一部について同コラムの
「田の還元利回り4.2%」
で記述してある。
地代評価の差額配分法は可能であるが借地権価格、更新料の取り扱いが難しいこと。
利回り法は更地価格で考えるものであり、底地価格では考えない。また従前合意地代利回りをそのまま採用することは間違いであり、価格時点までの地価の上昇、下落による利回り修正を行わなければならないこと。
スライド法は地代の変動率によるのが原則であること。
地代の賃貸事例比較法は、地代の事例の地代水準がバラバラの場合が普通であり、非常に難しいこと等を述べた。
借地非訟事件では、許可を与える場合に、附随処分の中に地代の見直しも行うが、地代増額は認めるが、減額の附随処分は行わない。それ故、地代の適正さを争うには、地代増減額請求事件としての本裁判に譲る事になって、借地非訟の限界も述べた。
借地非訟事件の地代の適正水準の判断の目安は、公租公課倍率による地代と日税不動産鑑定士会(主宰横須賀博)発表の『継続地代の実態調べ』の地代利回りによるのが良いと述べた。
公租公課倍率法の地代倍率は、当鑑定の分析によれば、おおよそ次のごとくと話した。
月・坪円 地代倍率 80円〜100円 5.5 101円〜120円 4.8 121円〜140円 4.3 141円〜160円 4.0 161円〜200円 3.6 201円〜240円 3.3 241円〜280円 3.1 281円〜320円 3.0 321円〜400円 2.8 401円〜500円 2.6 501円〜600円 2.5 601円〜800円 2.4 801円〜1000円 2.3 1000円〜1500円 2.2
商業地23区平均 1.27%≒1.3% 住宅地23区平均 0.69%≒0.7%である。
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