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90)営業譲渡価格

 高級きものチェーンの株式会社錦の営業権を、松屋織物(新潟県川西町、横山美佐男社長)という会社が売買取得した。(ヤマノホールデイングコーポレーションHPプレスリリース 2003.2.17)
 営業譲渡による売買である。
 営業権の譲渡価格は5億円という。

 株式会社錦は、高級きもの店として102店舗のチェーン展開しており、売上高は89億円(2001年2月期)である。もともとは三重県で岡田屋呉服店として創業された会社らしく、ジャスコと何か関係があるかもしれないが、そこら辺りは私は知らない。

 営業譲渡(営業権譲渡)の価格を如何に求めるか。
 営業権の価格は不動産鑑定の中においても、かなり価格評価の難しい部類に属するものである。
 上記の5億円の金額の妥当性について述べてみたい。

1.保証金
 店舗を開くには、自分の土地建物ならともかく、他人の所有建物で店を開くには、賃貸借契約し保証金というものを支払わなければならない。
 呉服店の家賃は売上高の5.1%である。(『Evaluation』創刊号p48 「売上高に対する家賃割合」 田原 清文社)

 錦の売上高は89億円であるから、
     8,900,000,000円×0.051=453,900,000円
     453,900,000円÷12ヶ月=3782万円
 家賃は月額3782万円である。
 保証金を月額賃料の12ヶ月とする。
     3782万円×12ヶ月≒4.5億円
 保証金は4.5億円である。

2.在庫品
 中小企業庁編の『中小企業の原価指標』平成14年版p332(中小企業診断協会発行 同友館)によれば、呉服・服地小売業の原価率(売上高に対する商品原価の割合)は53.3%である。
 分析呉服店の原価は、
     89億円×0.533≒47.4億円
となる。

 中小企業庁編の『中小企業の経営指標』平成14年版p474(中小企業診断協会発行 同友館)によれば、呉服・服地小売業の商品回転率は5.2回転である。
     47.4億円÷5.2回転≒9.1億円
 商品の手許在庫は9.1億円ということである。

 しかし、この手許在庫は全て自分の現金で購入しているものではない。支払手形或いは買掛金による場合が多い。
 前掲の経営指標によれば、支払勘定回転率は3.9回である。
      9.1億円÷3.9回=2.3億円
 自己資金による在庫の金額は2.3億円である。

3.特許・のれん代
 分析店舗が特許を持っているかどうか分からないが、製造会社でないから、特許は持っていないと考える。
 のれん代は大きい意味で言えば、無体財産で営業権そのものを指す場合もある。ここでの、のれん代は分析店舗の名前によって売上高及び純利益が増える額である。

 「錦」という店舗名によって、どれ程売上増・純収益増があるのかはなかなか捉える事は難しい。のれん代は長い間かかつて築き挙げられた知名度によって形成されている側面を持つ。

 一つの考え方として、広告宣伝費のいくばくかが、その金額を形成しているのではないかと考える。
 呉服・服地小売業の広告・宣伝費は、売上高の4.8%である。
 営業利益率は3.1%である。この率程度の寄与と考える。
     89億円×0.048×0.031=0.13億円≒0.2億円

4.営業権の価格
 以上よりまとめれば、

      保証金相当額    4.5億円
      在庫品相当額    2.3億円
      特許・のれん代   0.2億円
         計            7.0億円
 営業権の価格は7.0億円と求められた。
 一般的には、営業権の価格は売上高の1ヶ月分程度である。
 分析店舗の売上高は89億円である。1ヶ月の売上高は、
      89億円÷12=7.42億円
である。

 上記で求められた営業権の価格は7.0億円であり、
      7.0億円÷7.42億円=0.94
である。売上高との開差が0.06あり、ドンピシャリの1.0にはならないが、営業権の価格は売上高の1ヶ月程度ということがほぼ立証された。

 現実の分析店舗の営業権譲渡の価格は、5億円であった。
 私の分析した営業権価格7億円との間には、
     5億円÷7億円=0.71≒0.7
の開きがあり、30%引で売買されている。
 1ヶ月の売上高で考えれば、
     5億円÷7.42億円=0.67
で、0.67ヶ月分の営業権価格である。

 以上で呉服店の営業権価格を求めてみた。
 営業権価格は売上高の1ヶ月程度と必ずしも決まっているものではない。
 それぞれの業種、売買事情、経営内容によって0円の場合だってある。又、0.5倍や2.0倍で形成される場合だってある。

 「錦」呉服店の5億円の金額形成には、それなりの理由があったと思われるが、その価格形成の過程は、部外者には知る由もない。

上記記事と少し関係のある店舗売上高と家賃割合についての記事が、下記鑑定コラムにあります。

 鑑定コラム18) 「売上高に対する家賃割合」

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