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930)温泉水より発電(福島土湯温泉)

 読売新聞の平成24年7月14日夕刊が、福島県土湯温泉組合の温泉水によって発電する事業を伝える。

 東日本大震災によって温泉来客が減り、旅館の廃業が相次いでいる土湯温泉の温泉街の復興策の一つとして、温泉水より発電する事業を行うという。

 発電した電力を売電して、その得たお金を復興資金の一部にしょうとしていると新聞記事は伝える。

 この発電計画については、ネットで調べると、読売新聞のスクープでは無く、既に日経、朝日、毎日等の新聞が、報道年月日は違うが報じている。

 湯温130〜150度の温泉水の熱を、沸点の低いアンモニア等の入っている管に伝える。管の中に入っているアンモニア等から水蒸気を発生させ、その水蒸気でタービンを回して発電する方式である。

 発電に利用した温泉水は、発電に使用した後は、温水温度が下がり、今迄と同じく温泉旅館に温泉として配湯するのである。

 今迄は、湯温130〜150度の温泉は、そのままでは熱くて温泉として使え無いため、水で冷やしていたが、発電に利用することになれば、温泉を冷やす必要が無くなる。

 温泉を冷やす必要も無くなり、逆に発電出来ることから、一石二鳥である。

 発電能力は500kwで、工事費用は3億円程度という。

                300,000,000円
              ───────   = 600,000円                        
                   500kw

 1kw当り60万円の工事費である。

 発電した電力は、東北電力に売却するという。

 その価格は、今年(2012年)7月より実施される国の再生可能エネルギー「固定価格買い取り制度」で決まった1kw42円である。

 投下資本は、7年で回収出来るという。

    1/7=0.143

 利回りは、14.3%である。

 この土湯温泉の発電手法は、地熱発電の一種であるが、坑井を掘って地中から高温の蒸気、熱湯を取り出して発電するという本格的な地熱発電で無く、既に地上に湧出している温泉水を利用して発電するものである。
 この発電方式は、バイナリー発電という。

 本格的な地熱発電においては、湯温200度C以上の蒸気・熱湯を使用し、それ以下の湯温水は高率が悪いとして廃棄されている。

 バイナリー発電は、この廃棄されている200度C以下の湯温水を使用して発電するものである。

 発電出力は小さく、小規模な発電機によるものであるが、捨てられていた湯温水を利用して発電するものであり、資源の有効活用となるものである。

 温泉水を利用した小型バイナリー発電については、神戸製鋼所が、湯布院温泉の旅館に地熱発電機を納入している。

 ネットのJC-NETによれば、大分県の由布市の「ゆふいん床屋の館」という温泉旅館に、70kw発電のバイナリー発電機を納入するという。
 費用は3,500万円という。

             3,500万円
           ─────  = 50万円                                   
               70kw

 1kw当り50万円の工事費である。

 過日TBS(東京放送)の『夢の扉』という番組で、鹿児島の酒造会社がバイナリー発電を導入するか否かのことについて放送していた。

 酒造会社が、お酒を製造する過程で、発酵熱をさます為に大量の水を使用している。
 酒の発酵熱をさました水は、80度Cにもなる。

 酒造会社は、80度Cになった温水をそのまま川に流しては自然破壊になるために、長い排水管を敷地内に設置して、温水を自然の定温まで冷やして川に放流していた。

 この温水を有効活用出来ないものかと言うことで、温水を利用したバイナリー発電ができるか否かの放送であった。

 横浜の小さな機械製造会社が、5年余の歳月を費やして製作した小型バイナリー発電機の導入実験がなされた。

 移動可能な極めて小さい小型バイナリー発電機が、80度Cの排水の温水から4kw程度の電力を発電し、見事に10個程度の電灯が明るく輝いた。

 その温水の有効利用を、バイナリー発電システムによって可能にした会社は、横浜のアルバック理工株式会社(本社 神奈川県横浜市、代表取締役社長 石井芳一)という企業であった。

 この小型バイナリー発電機の価格はいくらかについては、放送されなかったから分からない。

 この様な小規模な発電機など非効率も甚だしいと云う人は居るであろう。
 一つの原子力発電所で、100万kwの電力を発電した方が効率よく、生産性が高いという人は居るであろう。

 しかし、規模は小さいが、温泉水等利用によるバイナリー発電がいくつも重なり、集合すると、その存在・力は無視することは出来なくなろう。

 バイナリー発電によって新しい技術の開発、雇用の確保がなされ、一つの新しい産業として発展、成長する可能性が大である。

 日本地熱開発企業協議会という団体が、2011年9月22日に『東北6県の地熱開発有望地区について』という報告書を発表している。

 それは本格的な地熱発電に関する報告書である。

 その中で、30メガワット(3万kw)の地熱発電所のモデル工事費を記している。

 それによると3万kwの地熱発電所を造るには、264億円の工事費が必要である。

                26,400,000,000円
             ────────── =  880,000円                   
                  30,000kw

 1kw当り88万円の工事費である。

 地熱発電所の建設工事費は、甚だ高い。

 その工事費の内訳の大項目は、下記である。単位百万円。

   1.地質調査     150
   2.坑井調査        8,560
   3.噴気試験     300
   4.総合解析      50
   5.環境調査      20
   6.建設試運転   17,320
      計      26,400
 
 上記工事費を見ると、坑井調査費が8,560百万円である。
 全工事費に占める割合は、

          8,560
            ────── = 0.324                                  
                26,400

32.4%である。

 バイナリー発電の場合は、この坑井調査費が0円である。

       880,000円×(1−0.324)=594,880円≒600,000円

 1kw当りの工事費は、60万円である。
 バイナリー発電の工事費は、1kw当り60万円と推定できる。

 何だか、前記した土湯温泉の工事費1kw当り60万円とぴったり一致する工事費である。

 地熱発電所建設工事費の積算根拠のデータは、不動産鑑定評価にも利用出来る価値がありそうである。

    調査井掘削   深さ2000m      一本250百万円
        生産井掘削      深さ2000m      一本600百万円


         250,000,000円
               ────────  = 125,000円                      
                    2,000m

         600,000,000円
               ────────  = 300,000円                      
                    2,000m

     調査井     M当り125,000円
          生産井     M当り300,000円

である。

 箱根、熱海、湯河原、伊東、伊豆等の温泉旅館、企業保養所、温泉付リゾートマンションの鑑定評価において、源泉付の場合が良くある。

 その場合、温泉権としての価格を見なければならない。

 現在熱海等の温泉地の新規温泉掘削を、当該町の温泉組合、市、県は認めていないが、原価はどの位しているのかの検討をする場合には、さく井工事費(坑井工事費)を考えなければならない。

 その時、工事費はいくらしているのか判断する場合に、頭を痛めている。

 深さ2,000mの調査井、生産井掘削で、M当り42.5万円(12.5+30=42.5)ということのようである。
 
 蒸気設備は、1kw当り54万円であるようだ。
 発電機は、1kw当り36万円であるようだ。

 送電線は、1km(ワットでなく、メートルである。)当り1億円であるようだ。


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