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100)システム賃料

 『月刊レジャー産業資料』の雑誌を発行し、最近は『月刊プロパティマネジメント』の雑誌も発行しはじめた綜合ユニコムという会社がある。
 レジャー施設の経営実態調査資料の発行に実績をもつ出版社である。出版事業のほか、各種の経営セミナーを開催している。

 その綜合ユニコムから不動産マネジメントの一環としての講演を頼まれ、2003年4月17日に講演した。
 課題は『居住系不動産の市場賃料算出と利回りについて』であった。

 綜合ユニコムのセミナー企画者からは、賃料の新しい求め方である「システム賃料」について詳しく話して欲しい。適正な還元利回りの求め方とDCF法についての注意点について述べて欲しいという要望であった。

 『システム賃料』田原・平澤(清文社 2000年)を発行し、そこに新しい賃料の簡便でかつ、理論的で、信頼性の高い賃料の求め方を発表した。
 綜合ユニコムのセミナー企画者は、その本を読んで、「システム賃料」の考え方は、新しい賃料の把握に利用出来るのではないかと判断されたのか知らないが、「システム賃料」について話して欲しいという要望であった。

 今迄「システム賃料」について話をして欲しいという要望は全くなかったから、講演の依頼があった時には面くらった。どうしてシステム賃料の話が必要であろうかと思った。そしてそれを聞きにくる人がどれ程いるものであろうかと疑問視した。

 講演の参加者の職業一覧を見て驚いた。
 都市銀行の証券発行担当者、大手アメリカ投資会社のアクイジション部の方、私募債を発行している企業の方、企業の証券発行部門の人、大手不動産会社の資産運用部担当者、不動産管理会社の賃貸開発事業部の人、不動産賃貸仲介業等の人々であった。
 不動産鑑定士の方も5名ほど参加されていた。

 私は私募債の発行に携わったこともなく、詳しく知らない。
 セミナー参加メンバー一覧表を見て、場違いなところに私は来たのではないかと思ったが、私より前の時間に話している講師(セミナーは講師二人で、前半と後半に分かれ、私は後半を担当する講師であった)の話を聞いていて、セミナーの目的がやっとわかってきた。

 セミナー参加者は、新しい不動産事業を展開する為に、事業資金を得るためには、今迄の銀行からの間接金融では資金獲得は難しいために、新しく直接金融によって事業資金を得ようと考え、私募債の発行、SPCの設立による不動産の証券化を考え、あるいは現に実行している人々であった。
 一方の都市銀行、アメリカ投資銀行の側の人々は、そうした企業の直接金融の手助けを行い、フィーを得るための一層の知識の取得を目的としたセミナー参加と思った。

 そして、何故システム賃料かというと、賃貸不動産を担保にした私募債の発行、SPCの設立には、「賃料」そのものの客観的妥当性が要求されるため、適正な賃料を求めるにはどの様に考えたらよいのかという答えをセミナーに求めてきたのであろうと私は判断した。

 ここでやっとセミナー企画者の目的がわかった。
 さっぱり陽の目を見なかった「システム賃料」もその存在を認めてくれる人があらわれたということである。わずかとはいえありがたいことである。

 では「システム賃料」とはどういう賃料なのか。
 名前は私が勝手につけたものであり、「新規賃料」とか「比準賃料」のごとく業界に概念が確立しているものではない。

 システム賃料の概念は、賃料を「平均」で捉えようとする考え方である。
 1つの駅勢圏に存在する多くのマンションの賃貸事例データの、賃料を含め、その賃料に附随する徒歩分、経年、面積のそれぞれの平均値を求め、その平均値から徒歩5分、築5年、面積60uの賃貸マンションの「標準賃料」を求める。その「標準賃料」から対象マンションの駅徒歩分、経年、面積によって対象マンションの「基準賃料」を求める。その「基準賃料」に前記3要因(徒歩分、経年、面積)以外の個別的要因によって修正を行い、対象マンションの賃料を求めるものである。

 各駅勢圏の賃料及び3要因の平均値は、バラバラで、全くの一貫性も経済法則性も認められない数値であるが、駅勢圏ごとに決められた修正値を使用して、徒歩5分、経年5年、面積60uの「標準賃料」を求めてみると、同一沿線では都心に近づくにつれて「標準賃料」は高くなり、急行停車駅の「標準賃料」は、止まらない駅の「標準賃料」よりも高いという1つの規範性ある賃料現象が認められる。それは目に見えない糸によって経済行為が行われているのではないかと思いたくなる現象である。

 現在の不動産鑑定は賃料あるいは価格を平均で捉え、あるいは考えるという考え方はない。個々別々のデータから比較して求めることが優れていると考えている。

 この考え方の最大の欠点は、採用した個々のデータが、1つの駅勢圏(母集団)の中で、どの位置にあるのかということが全くわからずに比較作業が行われ、賃料が求められ、求められた結果が適正であると考えられ、主張されることである。
 採用した賃貸データを、評価する人が適正な賃料データと思った根拠は何なのか。その実証根拠が示されない。
 適正と思って採用した賃料が高い水準のものであった場合、求められる賃料は、結果において高い賃料水準のものとなり、それは、「適正」という名のもとで罷り通るということになる。

 DCF法で使用される賃料を、契約されている賃料であるからといって無条件で適正と判断して、採用してよいものかどうか。あるいは何のデータ根拠の説明もなく使用されている賃料を、そのまま100%信用して、DCF法で得られた価格を適正と認められるものかどうか。

 DCF法は還元利回りや、借入金割合等にとかく目を奪われているが、DCF法に使用する根本である賃料の妥当性の検証こそがより大切である。
 セミナー参加者、セミナー主催者もやっとそこに気づきはじめてきたようである。

 時代は急速に変わりつつある。
 直接金融への道に確実に進みつつある。
 私募債の発行、SPCの設立等と、ごく身近にある中小企業が、これらを実践しつつあるのである。
 直接金融の道に進むということは何を意味するかといえば、それは間接金融で利益を得ていた今迄の貯蓄型銀行の存在の否定に繋がるのである。

 バブル前、バブル期、そしてバブル崩壊して15年迄の、今迄の銀行の経営姿勢のツケは、今後大きく銀行自身に跳ね返ろうとしている。

                            *
 大和銀行と協和銀行が合併してりそな銀行になって、もうこれで大丈夫かと思っていたら、半年も経たない2003年5月下旬に国費導入による実質国有化して再建しなければならなくなってしまった。
 まさにツケが跳ね返ってきたのである。
 ツケはりそな銀行だけで終わりにして貰いたいが、そうと言うわけには行かないであろう。(2003年6月1日追記)

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