賃料を求める基礎価格に、土地建物の関係を見ると土地建物は不均衡の状態にあるとか、地域の土地利用とマッチしていない建物とか、築後20年以上経過していて建物が古いとかという理由をつけて、市場性減価として▲40%をする賃料鑑定書に出くわした。
市場性減価として土地建物の価格を減価しているが、それは建物が建っていることによる価格修正であり、建付減価である。
建付減価をしない前の状態の建物価格は、9800万円と評価されていた。
40%の建付減価額を建物価格より減額すると、建物価格は100万円にしかならなかった。
建物価格は1億円近い価格にも係わらず、賃料の算出の基礎になるのは100万円ということである。
この価格で積算賃料を求めれば、積算賃料は甚だ安く求められる。
この安く求められた積算賃料を根拠にして、現行賃料300万円は著しく高く、180万円が適正であると鑑定書は減額主張しているのである。
3年前の従前賃料合意時の土地建物の価格も、40%の建付減価をしている。
それが為に、従前賃料合意時点の継続賃料利回りは、20%を越える利回りとなっている。
賃借人側は、
「20%を越える利回りは甚だ高い利回りである。
賃貸人は儲けすぎている。
300万円の賃料を180万円に減額すべきである。」
と不動産鑑定結果を根拠にして主張する。
20%超の利回りが事実であれば、賃貸不動産の利回りとしては、甚だ高い。
7〜8%の利回りが当該地域の利回りである。
そうした利回りから見れば、20%を越えた利回りはすこぶる高く、貸主は儲けすぎであるから、地域の一般的水準の7〜8%の一般的水準の利回りの賃料まで下げよという主張はもっともらしく聞こえる。
不動産の評価に疎い賃貸人、そして賃貸人の代理人弁護士も、賃借人側の上記理屈に、そういうものなのかと半信半疑しつつ殆ど相手側ペースに巻き込まれてしまっている。
しかし300万円の現行賃料をいきなり180万円にすることには納得出来ず、同意はしかねる。
賃貸人は、私の所に何とかならないかと、当該不動産鑑定書を持って、相談にきたのである。
対象不動産は特殊な用途の賃貸不動産では無い。
地域と不釣り合いの用途でもない。
土地と建物の関係は均衡を失している訳ではない。
利回り20%を越える建物は、通常あり得ない。
アパート、マンション、小売店舗、賃貸事務所の用途では、それぞれの用途によって期待利回りはある範囲でもって形成されている。
利回りが高いことは、リスクが大きいということの裏返しである。
アパート経営もマンション経営も、賃貸事務所経営もリスクが高い不動産ではない。
リスクの高い賃貸不動産と云えば、パチンコ店とか、バー・キャバレーの水商売、そして風俗店等である。
当該建物の所在する地域は、その様な建物が所在する地域ではなく、建物の用途もそうした用途ではない。
とすると、20%を越える期待利回りが生じることはあり得ないと云うことになる。
そこから考えられることは、賃借人の20%超の利回りの主張の根拠になっている不動産鑑定書が、どこか大きな間違いをしており、その間違いから20%を越える利回りが求められているのではないのかということである。
その原因を当該不動産鑑定書で捜せば良い。
当該不動産鑑定書を一読して、すぐ原因が分かった。
市場性減価の用語を使って、▲40%の建付減価を行っていることが原因であると分かった。
▲40%減価しない状態の土地建物を基にして、継続賃料利回りを求めれば、7.4%である。
当該建物が所在する地域が形成している利回りにほぼ一致する利回りが求められた。
対象建物の継続賃料利回りは、20%を越えると云うような高率な利回りでなく、周辺不動産の利回りで均衡した利回りである。
それは、対象建物の賃料は、地域の賃料と不均衡な状態の賃料水準にあるのでは無いことを意味する。均衡している。
つまり、賃借人側の賃料減額請求は理由が無く、不当な請求と云えることになる。
▲40%の建付減価を行った不動産鑑定書は、間違っていることになる。
賃料鑑定には、「基礎価格」という特別な価格概念がある。
価格評価には、その様な概念は無い。
賃料評価に「基礎価格」という概念があることは、それなりの理由があるから存在するのである。
賃料の「基礎価格」というものがどういうものなのかをしっかりと理解していないと、上記で述べた例のごとくの賃料が求められてしまうのである。
価格評価では、建付減価を行って不動産の価格を求めてもよいが、賃料評価では「基礎価格」に建付減価をやってはいけないのである。
建付減価をする前の段階の土地建物価格が、賃料の「基礎価格」ということである。
建付減価では無いが、借地権付建物の価格を「基礎価格」にしないことも同じである。
借地権付建物の賃料の「基礎価格」は、自用の建物及びその敷地の価格である。
借地権付建物の価格を「基礎価格」にして賃料を求めると、上記で述べた例と同じしくじりをしてしまうことになる。
鑑定コラム101)「基礎価格の再認識の必要性」
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