○鑑定コラム


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1663)ある不動産鑑定の書籍から

 2000年8月『Evaluation』創刊号(清文社)のP46に、「売上高に対する家賃割合」という論文を、私は発表した。

 その論文は、中小企業庁が発表している『中小企業の経営指標』(同友館)、『中小企業の原価指標』(同友館)の損益計算書、財務諸表の数値を使って、店舗の売上高に対する家賃割合について分析した論文である。

 その論文の大要は、鑑定コラム1462)「店舗の売上高に対する家賃割合の求め方」で記した。

 それ以前に、分析結果の一部を鑑定コラム18)「店舗売上高と家賃割合」(2002年4月20日発表)等に記した。

 私が分析発表した家賃割合は、下記である。

 下記家賃割合のうち、最初のスーパーマーケット、コンビニエンスストアの数値、そして最後から2番目のホテルの数値を覚えていて欲しい。本件コラムの話はその数値から始まる。

        業 種            家賃割合  % 

スーパーマーケット   2.7 コンビニエンスストア  2.0 呉服服地小売 5.1 寝具小売 5.3 男子服小売 8.9
婦人子供服小売 6.6 靴小売 6.4 洋品雑貨小売 6.7 酒小売 2.9 食肉小売 3.6
鮮魚小売 3.5 野菜果実小売 3.6 菓子パン小売 7.0 米穀小売 1.5 自動車小売 2.2
自動二輪車小売 6.9 自転車小売 7.3 家具小売 5.6 家庭用電気器具小売 3.5 医薬品小売 4.0
化粧品小売 6.8 ガソリンスタンド 2.3 書籍雑誌小売 4.2 紙文房具小売 3.3 スポーツ用品小売 6.2
玩具娯楽用品小売 6.0 レコード楽器小売 7.0 カメラ写真材料小売 6.8 時計貴金属小売 8.1 メガネ小売 10.9
花小売 4.2 木材小売 3.6 建築材料小売 1.4 レストラン 11.1 中華料理 10.4
そばうどん 13.0 鮨 10.7 料亭 9.3 クリーニング 8.1 理容 11.1
美容 10.6 写真現像焼付 7.8 旅館 11.8 ホテル 12.3 映画館 11.8

 多くの人々が、私の発表した家賃割合を利用しているようである。

 利用・活用されることは、著者として嬉しい。

 しかし、書籍に無断引用される場合は、話が違う。

 最近ある不動産鑑定評価の書籍を購入した。不動産鑑定士の方が書かれた書籍である。

 その書籍の中に商業施設の賃料という章があった。

 その中に次のごとくの記述があった。

 「参考までに、用途別賃料負担率は、図表の数値が目安とする向きがある。
     (図表)

          スーパーマーケット    2.7%
          コンビニエンスストア   2.0%
     ホテル          12.3% 
          百貨店                   10.6%
                   ・
                     ・
                     ・
           ・                」

 この記述を見て、数値の引用の明記が無い事から、著者の分析結果と私は思い、

 「この著者も売上高に占める家賃割合を分析したのか。
  こうした不動産鑑定士が増えて来ることは良いことだ。」

と思った。

 しかし、書かれている数値をよく見ると、何処かで見たことのある記憶にある数値が並ぶ。

 「何、・・・これはおかしいぞ。」

と思い、『Evaluation』創刊号を引っ張り出して、記されている家賃割合数値を確かめてみた。

 スーパーマーケット2.7%、コンビニエンスストア2.0%、ホテル12.3% の家賃割合数値が同じでは無いのか。『Evaluation』創刊号に記されている割合数値は、前記した家賃割合一覧で記した割合数値である。

 他人が分析したとしても、3つの数値がぴったりと一致することは、まず無い。

 「おいおい、冗談ではないょ。
 私の分析結果をそっくりそのまま使用しているのでは無いのか。

 引用先を明示していない事から、これは著作権侵害では無いのか。
 まして「目安とする向きがある」とは何事か。

 信用出来ませんという意味が後に隠されている様に受け取られる言葉の使い方ではないのか。

 何故、「不動産鑑定士田原拓治の分析によれば」と数値の出所を記すことができないのか。

 信用出来ない家賃割合であれば、わざわざ載せる必要性は無かろう。」

と怒り心頭である。

 スーパーマーケット2.7%、コンビニエンスストア2.0%、ホテル12.3% の家賃割合数値は、私の分析の割合を出所を明記せずに使用していることはこれで分かった。

 百貨店の10.6%は、上記家賃割合一覧には無い事から、当該書籍の著者が分析した割合であろうかなと思った。

 「しかし、待てょ。
 この10.6%もひょっとすると、無断引用ではないのか。

 確か相当以前百貨店の家賃を分析したことがあった。
 10%前後の割合では無かったか。

 何処かに記録が残っていないのか。」

と思い、探し始めた。

 「あった。」

 鑑定コラム273)「百貨店の家賃割合は10.6%か」(2006年4月26日発表)に、高島屋、三越、大丸、松坂屋、伊勢丹の日本を代表する百貨店の発表されている財務諸表から、売上高に占める家賃割合を分析し、平均10.6%としたコラム記事である。

 同コラム記事の関係個所を抜粋転記すると、下記である。

 
 「同様にして、他の4つの百貨店の家賃割合を求め、伊勢丹の家賃割合を加算して平均値を求めると、
      高島屋      0.126       三越       0.118       大丸       0.110       松坂屋      0.091       伊勢丹      0.087       平均       0.106 (標準偏差 0.0153) である。
 百貨店の家賃割合は平均で10.6%と求められた。」

 当該不動産鑑定の書籍の著者は、私の書いた鑑定コラム273)に書かれている分析結果の10.6%を引用しているのでは無かろうか。

 数値とはいえ、他人が分析し、見つけ出したものであるのであるから、その人の努力、オリジナルを認め、出所を明記するべきではなかろうか。

 どうして出所の明記を嫌うのか。明記することが恥ずかしいことなのか。それとも出所に田原拓治という名前を記載することは、田原拓治を宣伝することになるからイヤだとでも考えているのか。

 不動産鑑定士には、他人の考えは自分の考え、他人の意見は自分の意見であるが如く思って、自分はあたかも何でも知っている如くの姿勢を示す人が多いような気が私には感じられる。

 よく見かける不動産鑑定書の中で記述される市場性分析と称する文章の中のデータのコピー貼りには辟易する。

 もっと著作権というものを尊重しなければいけない。

 ゼンリンの住宅地図をコピーして、鑑定書に閉じ込んでいる不動産鑑定書を多く見かけるが、それは完全にアウトである。

 その行為は、ゼンリンから著作権使用許諾を得なければ、行ってはいけない行為である。


****追記 2017年8月6日 出版社からのお詫びについて

 上記記事内容に関して出版社からお詫びが有り、そのことについて鑑定コラム1673)に記事を書きました。


  鑑定コラム1462)
「店舗の売上高に対する家賃割合の求め方」

  鑑定コラム18) 「店舗売上高と家賃割合」

  鑑定コラム273) 「百貨店の家賃割合は10.6%か」

  鑑定コラム108) 「不動産鑑定士は著作権にうとすぎる」

  鑑定コラム1673) 「出版社からのお詫び」

  鑑定コラム1687)「小売売上高8280億円の企業も出店しくじる」


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