最高裁判所は2003年6月12日に、地代等の自動増額改定特約を認めない判決(平成14年(受)第689号土地賃料改訂請求控訴、同附帯控訴事件)を出した。
地代等の自動増額改定特約として「 本賃料は3年毎に見直すこととし,第1回目の見直し時は当初賃料の15%増,次回以降は3年毎に10%増額する」というものであった。
東京高裁は、借地人の借地借家法11条1項に基づく地代減額請求に妥当性は無いと退け、地代等自動増額改定特約を有効とした。
借地人は上告し、最高裁の判断を仰いだ。
最高裁の小法廷の甲斐中辰夫裁判長は、次のごとく判示した。
@ 借地借家法11条1項の規程は、「地代等不増額の特約がある場合を除き,契約の条件にかかわらず,地代等増減請求権を行使できるとしているのであるから,強行法規としての実質を持つものである(最高裁昭和28年(オ)第861号同31年5月15日第三小法廷判決・民集10巻5号496頁,最高裁昭和54年(オ)第593号同56年4月20日第二小法廷判決・民集35巻3号656頁参照)。」
A 地代等自動増額改定特約は、将来の「地代等改定をめぐる協議の煩わしさを避けて紛争の発生を未然に防止する」という役割を考えれば、その締結は首肯出来る。
B 地代等自動増額改定特約は、「その地代等改定基準が借地借家法11条1項の規定する経済事情の変動等を示す指標に基づく相当なものである場合には,その効力を認めることができる。
しかし,当初は効力が認められるべきであった地代等自動改定特約であっても,その地代等改定基準を定めるに当たって基礎となっていた事情が失われることにより,同特約によって地代等の額を定めることが借地借家法11条1項の規定の趣旨に照らして不相当なものとなった場合には,同特約の適用を争う当事者はもはや同特約に拘束されず,これを適用して地代等改定の効果が生ずるとすることはできない。」と判示する。
C 上記@ABの基本的考えを示した上で、本件事件について次のごとく判示する。
「本件賃貸借契約が締結された昭和62年7月当時は,いわゆるバブル経済の崩壊前であって,本件各土地を含む東京都23区内の土地の価格は急激な上昇を続けていたことを併せて考えると,土地の価格が将来的にも大幅な上昇を続けると見込まれるような経済情勢の下で,時の経過に従って地代の額が上昇していくことを前提として,3年ごとに地代を10%増額するなどの内容を定めた本件増額特約は,そのような経済情勢の下においては,相当な地代改定基準を定めたものとして,その効力を否定することはできない。しかし,土地の価格の動向が下落に転じた後の時点においては,上記の地代改定基準を定めるに当たって基礎となっていた事情が失われることにより,本件増額特約によって地代の額を定めることは,借地借家法11条1項の規定の趣旨に照らして不相当なものとなったというべきである。」
地代等の自動増額改定特約が存続するに必要な経済的な「基礎となった事情」が大幅に異なってしまっているから、その特約の適用は不相当であるという、極めて明快で、見事な理論構成の判決である。私は名判決と思う。
この判決の与える影響は「地代等」といっていることから、家賃にも及ぶ。
賃貸ビルのサブリース訴訟の家賃自動増額改定特約にも、大きな影響を与えるのでは無かろうか。
私も東京地裁でサブリース訴訟の家賃改定の鑑定評価を行った。
私は経済事情の変更による賃料減額は当然と考え、周辺継続賃料、新規賃料との均衡を考え、大幅な賃料減額の鑑定評価を行った。
これに対して、サブリースの賃貸ビルの家賃自動増額改定特約は、そもそも共同の不動産事業契約という主契約があって、その不動産事業契約に基づくものであって、借地借家法の適用を受けるものではない。それ故、契約自由の原則から、契約は守られなければならず、家賃自動増額改定特約は有効であると、大家・土地所有権者側代理人弁護士から批判を浴びせられてしまった。
家賃自動増額改定特約が有効であるならば、不動産鑑定の必要は無く、その特約によって、例えば3年で15%の家賃値上げで契約を続行すれば良いのである。
しかし、その様な反論をすることは出来ず、私はサブリース事業は、土地所有権者と不動産業者(サブリース業者)が共に土地と建物建築費等を出して、共同で不動産事業を行い、共に利益を得ようとして行った事業である。地価の上昇、賃料の上昇が続いていた時は、共に利益が得られ、それで良かった。しかしバブル崩壊で地価は下落し、それに伴い賃料も大幅に下落したために、家賃自動増額改定特約に従っていては、サブリース側の不動産会社の賃料の逆ざやとなり、サブリース側の不動産会社は、大変な不利益を被る状態になってしまった。
その金額は年間で100万円、200万円の程度ではない。数億円の金額の持ち出しである。
他方、土地所有権者・大家は全く損失を被っていない。
契約当初時の、共同で事業を行い、共に利益を得ようとした事業の状態でなくなったのであるから、家賃自動増額改定特約の適用はするべきではないと主張した。
2人の民法学者と話す機会があり、サブリースの私の考えを述べたが、民法専門の大学教授と法律論を戦わしては、私の法律知識ではとても勝てるものでは無い。あっさりと否定され、こてんぱんにやられてしまった。
法律学者は事業契約であるから、当然契約は守られなければならない。それ故、家賃自動増額改定特約は有効であると考えるものなのかと思った。
しかし、大学教授にやりこめられて面白くなく、しゃくに障るから、「年間3億円の家賃の持ち出しをサブリースの不動産業者は続けているのですよ。半端な金額ではないですよ。法律の建前論で経済が動けば、ものは簡単ですが」と言い返したら、サブリースの賃料を現実に鑑定している側の発言であったためか、どの様にして賃料が決められ、その様な大幅な賃料不均衡が出現したのかについて、大学教授は興味を示してきた。
そして学界においてもサブリース訴訟に対しては、2つの考えで分かれている。1つは私が言っているごとくの借地借家法適用による考え方であり、他の1つは共同事業契約であるから契約自由の原則による前記大家・土地所有権者代理人弁護士の言うごとくの考えである。
高裁でも判断が分かれており、最高裁がどの様な判断を下すかと学界も注目している状態であると話して下さった。
私と議論した学者は、契約自由の原則の考え方を主張する人であったため、見事にやりこめられてしまったとわかった。
家賃のサブリースに関する最高裁の判決については、下記の鑑定コラムが有ります。
『鑑定コラム』131)
「サブリースの賃料減額請求を認めた最高裁」
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