日立金属がアメリカのハネウェル社(ニュージャージ州)から、アモルファス金属事業を買収するという。(日経2003.5.14夕刊)
ハネウェル社の持つ米国工場、インド工場のアモルファス事業を買収するという。
買収額は日立金属は発表しないが、日経の記事は30〜40億円と推定する。
ハネウェル社のアモルファス事業規模は約40億円という。
ハネウェル社は宇宙航空分野の製品を主とする会社で、2002年の売上高は220億米ドルである。1ドル120円とすれば、2.6兆円の売上高の巨大企業である。
アモルファス金属材料とは、結晶構造組織を持たずに磁気特性を示すために、変圧器やパソコンの磁気コアに使われている材料である。
日立金属は、ナノ結晶軟磁性材料と呼ばれるファインメットというアモルファス金属材料を結晶させる技術を持っている。
その材料は、ノイズ、電源、通信分野で高性能磁性部品軟磁性材料として使われており、今後はハイブリッド車や燃料電池車などの自動車分野で、需要が大きく伸びると日立金属は説明する。
ファインメット事業の素晴らしさを述べる日立金属のファインメット事業の売上高は、2002年度で20億円でしかない。
ハネウェル社のアモルファス金属材料事業を買収することによって、軟磁性材料の世界のリーディング・サプライャーになると日立金属はいう。
しかし、40億円の事業規模(売上高と解する)のものを、40億円(30〜40億円の買収金額と日経記事はいうが、高値の40億円とここでは考える)で購入することが果たして妥当であろうか。
日立金属の財務諸表を見れば、売上高は2360億円(2002年3月)で、有形、無形固定資産は、910億円である。
有形固定資産、無形固定資産の売上高に占める割合は、
910億円÷2360億円≒0.386
で、約40%弱である。
即ち、売上高100に対して無体財産を含めた土地、建物等の固定資産は40の価格割合である。
この日立金属自体のバランスシートから見れば、アメリカハネウェル社のアモルファス事業の買収価格は、
40億円×0.4=16億円
が妥当と推定出来る。
今後ハイブリッド車、燃料電池車にファインメット材料の使用による需要拡大が見込まれることを考えて、売上高と同じ買収金額を決定されたのであろうが、古河電工のアメリカ工場買収の二の舞(本鑑定コラム56)
「古河電工のアメリカ工場買収」
、古河電工の2003年3月期決算は、1140億円の赤字と伝える日経記事(2003.5.17)を見るのは忍びがたい)にならなければよいがと思いつつ、日立金属のアモルファス事業の買収価格に首をかしげていた。
2003年6月20日の住友特殊金属株式会社のホームページが、日立金属に株式の32.9%を譲渡するとプレスリリースした。
住友特殊金属は高性能磁石の有力メーカーである。筆頭株主は住友金属工業である。住金の株式をほぼそっくり日立金属が取得するというのである。実質日立金属が住友特殊金属の経営権を握るということである。
日立金属は日立製作所の子会社であるから、この株式譲渡は住友グループ企業が、日立グループの企業になると言うことである。今迄では考えられなかった事である。これは住金のグループ会社整理の一環、即ち住金の経営合理化の1つの表れか。
住友特殊金属の売上高は766億円(2003年3月期)である。この32.9%の株式の譲渡であるから、それに相当する売上高は、
766億円×0.329≒252億円
である。
譲渡金額は、同HPによれば139.02億円であるから、売上高倍率は、
252億円÷139.02億円=1.81倍
である。
売上高に対する取得価格割合は、
1/1.81≒0.55
である。随分と高い価格の企業売買である。
日立金属の有形・無形固定資産の売上高に対する割合は、先に述べたごとく0.386である。この割合から見てもかなり高い取得である。
0.55÷0.386=1.42
42%高の取得である。不動産鑑定でいえば買い進みの「事情補正」有りで、1.42の補正が必要ということになろうか。
アサヒビールもキリンビールも味の素も、自社の将来の経営戦略を考えた場合、戦略分野の業種のもので、どうしても必要であると判断したものは、少々高い金額でも、企業買収する経営戦略をとっている。
アサヒとキリンの戦いについては本鑑定コラム24)の
「アサヒとキリンの壮絶な戦い」
で述べている。
味の素については、本鑑定コラム88)の
「味の素が動き出している」
で述べている。
日立金属のハネウェル社のアモルファス金属材料事業の取得価格、そして住友特殊金属の経営権を握る為の株式取得価格より考えれば、日立金属の経営戦略の事業方針がはっきりと見えてきた。
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