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1201)誤魔化しの償却後期待利回り

 賃料の期待利回りは、減価償却後のものであるという知識は持っているが、それをどの様にして求めてよいのか知らない不動産鑑定士が少なく無い。

 それ故か、以下の様な求め方による賃料鑑定書をかなり目にする。

 某研究機関の不動産投資家へのアンケート調査による期待利回りの数値を利用して、例えば、仮に、

      「東京赤坂の貸ビルの期待利回り5.0%」

とあった場合、この5.0%を標準期待利回りとして、そこより対象不動産の減価償却費率を0.5%と求め、それを控除し、

 
       5.0%−0.5%=4.5%

4.5%を対象不動産の期待利回りとするごとくの求め方である。

 採用した5.0%の標準期待利回りは、減価償却費込みの利回りであるとしても、それに含まれている減価償却費率がどれ程の割合であるのか分からないハズである。

 それにもかかわらず、対象不動産の減価償却費率は0.5%であるから、0.5%を減額したものが、対象不動産の減価償却後の期待利回りであるとする。
 この求め方、主張は論理の飛躍と矛盾がある。

      赤坂の償却前標準期待利回り5.0%−対象不動産の償却費率0.5%
                 =対象不動産の償却後期待利回り4.5%

という算式は、論理的に誤魔化しの償却後期待利回りである。

 上記式が成立するのは、赤坂の償却前標準期待利回り5.0%に含まれる減価償却費率が、対象不動産の減価償却費率0.5%と同じである時のみである。

 赤坂の平均的な減価償却費率が0.5%で、対象不動産の減価償却費率0.5%と同じであると云うことなどあり得ない話であろう。

 減価償却費率は、

減価償却費 ───────────────  = 減価償却費率 当該土地価格+当該建物価格

で求められるものである。

 減価償却費は建物の数だけあり、土地価格、建物価格も対象不動産と異なっている。

 この事から、赤坂の平均的な減価償却費率と対象不動産の減価償却費率と同じ数値となる確率など殆ど無い。

 このあり得ない現実を無視して、

            5.0%−0.5%=4.5%

と求めた期待利回りを適正と云えるであろうか。

 困ったことに、上記で求めた利率を償却後期待利回りとする賃料鑑定書が甚だ多い。間違っていると認識することなく罷り通っているのである。

 情けないことである。

 上記以上にもっとひどい求め方の賃料鑑定書に遭遇し、大変な被害に私はあった。

 減価償却費率を、下記の算式で求めていた。

               減価償却費
            ───────  = A%                                 
              建物価格

 このA%を減価償却前期待利回りから差し引き、それを償却後期待利回りにしていた。

               建物価格 < 土地価格+建物価格

であるから、上記式の分母の価格は小さくなる。それ故、A%の値は大きくなる。求められる期待利回りは小さくなる。

 例えば、建物価格が土地価格の1/2であったとすると、上記式のA%は3倍の3A%になる。


                  減価償却費
       ──────────────────  = A%         
         (建物価格+建物価格)+建物価格

減価償却費 ───────  = 3A%   建物価格

 前記の赤坂の場合で云えば、0.5%の減価償却費率が、3倍の1.5%になるのである。

              5%−1.5%=3.5%

の期待利回りとなる。4.5%と3.5%では、たかが1%の違いではあるが、純賃料の差はもの凄い金額になる。

 基礎価格の土地建物価格が60億円であったとすれば、純賃料の差は、

        6,000,000,000円×0.01=60,000,000円

である。

 月額では、

            60,000,000円÷12=5,000,000円

である。

 月額3500万円の賃料の妥当性で争っているのに、純賃料で▲500万円の差が出て来て、それが適正であると主張されては、

 「ふざけるな。どういう賃料評価の教育を受けたのか。まともに賃料評価の教育を受けていなく、系統だって賃料の勉強をしていないのではないのか。賃料の鑑定評価が分かっているしっかりした人に教えを乞い、基礎から賃料を勉強し直せ。」

と怒鳴りつけたくなった。

 地裁の鑑定人不動産鑑定士がこうした求め方で、甚だ安い賃料を適正という鑑定書を提出して来た。

 その求め方は間違っていると裁判官に云っても、裁判官は賃料評価にはまるっきり素人で分からず、裁判所が選任した鑑定人不動産鑑定士が専門家として出した賃料は適正な賃料であると思い込んでおり、こちらの主張に耳を貸そうとしない。

 逆に私の鑑定した賃料が、甚だ高く信頼出来ないと、相手側代理人弁護士から理不尽な批判を受ける事になってしまった。

 結果裁判は負けてしまった。

 全く理不尽な、不合理な賃料裁判であった。真っ当な鑑定が通らず、間違いも甚だしい鑑定が通るということが甚だ悔しく、屈辱を味わった賃料裁判であった。

               減価償却費
            ───────                                          
              建物価格

の算式で、減価償却費率を求めたその不動産鑑定士が書いた賃料に関する論文を、その後、雑誌で読む機会があったが、冗談では無かろうと腹が立つやら、あきれるやら、頭をかかえてしまった。


  鑑定コラム1200)
「出て来た! 減価償却費を経費にしない家賃鑑定書が」

  鑑定コラム1104)「Jリートの還元利回りは賃料評価の期待利回りにはならない」

  鑑定コラム1202)「不動産ファンド運営会社の戸惑い」



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