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ついに出て来た。
家賃の鑑定評価書で、賃料の必要諸経費である減価償却費を、必要諸経費に計上しない不動産鑑定書が大手を振って闊歩し始めた。
積算賃料は、
純賃料+必要諸経費=積算賃料
の算式で求められる。
この必要諸経費を構成するものの一つとして、減価償却費がある。
この減価償却費を、必要諸経費ではないとして計上せずに必要諸経費を求めて、家賃を求めている鑑定書が現れてきた。
その家賃鑑定書の必要諸経費は、次の費用を計上している。
イ 土地・建物の固定資産税、都市計画税
ロ 維持管理費
ハ 損害保険料
ニ 貸倒準備費
ホ 空室損失相当額
上記5項目のみで、減価償却費は計上されていない。
減価償却費を計上しない理由として、期待利回りに償却費を含むとしているからと説明する。
その償却費を含む期待利回りは、都心まで1時間程度の主要幹線道路沿の郊外のショピングセンターの投資に求められる運用収益利回りの6%を基本利回りとして、それに下記のリスク値を加減算している。
立地条件 −1.0%
建物古い +2.0%
建物規模大 +1.0%
小計 +2.0%
基本利回り6%+リスク利回り2%=8%
8%を期待利回りとしている。
10年ものの国債が、0.6%の利回りの時勢である。
8%もの期待利回りが不動産賃貸で得られると知れば、その賃貸不動産を取得しようとして投資家は殺到するのでは無かろうか。
賃料評価においては、減価償却費は必要諸経費として計上しなければならない項目である。
国交省版不動産鑑定評価基準P30で、次のごとく記載されている。
「不動産の賃貸借等にあたってその賃料に含まれる必要諸経費等としては、次のものが挙げられる。
ア 減価償却費
イ 維持管理費(維持費、管理費、修繕費等)
ロ 公租公課(固定資産税、都市計画税)
ハ 損害保険料(火災、機械、ボイラー等の各種保険)
ニ 貸倒準備費
ホ 空室等による損失相当額」
減価償却費は、必要諸経費の一番手に計上されている経費項目である。
税法の所得税法の中の不動産所得を計算する時に、不動産賃貸収入より必要諸経費として減価償却費は控除項目の一つとなっている。
賃貸収入の控除項目になっているということは、逆に考えれば、賃料収入、即ち賃料を形成している項目と云うことになる。
減価償却費は、賃料を形成する必要諸経費である。
税法でも必要諸経費として認めている減価償却費を、賃料の鑑定評価で経費に入れずに賃料を求めるとは、信じがたい賃料鑑定である。鑑定評価基準違反を乗り越えて、税法違反の鑑定である。
その鑑定書を受け取った賃貸人、賃借人双方は、その様なことには全く気付かず、知らない。
鑑定書を受け取った当事者の一方が、どうも賃料は高すぎるのではないのかと云う疑問を呈したが、どうして高いのかが分からない。
片方は、専門家が鑑定したのであるから、適正であると言い張る。
期待利回りは、償却費を含んだ利回りを賃料の期待利回りに使用することは不可である。
期待利回りは、当該不動産が属する地域の土地価格、取引される賃料水準の地域性と、そして当該建物の建築年数等の個別性、そして契約内容の個別性を反映して形成されるものであり、各不動産ごとに期待利回りは異なって形成されてしかるべきものである。
この利回りは、鑑定評価する以前に対象地の属する地域で既に形成されているものである。
鑑定評価によってそれが顕在化するだけである。
「都心まで1時間程度の主要幹線道路沿の郊外のショピングセンターの投資利回りは6%であるから、基本利回りを6%とする」と、その鑑定書は期待利回りを求める。
その6%の投資利回りの中に含まれる減価償却費率はどれ程なのか。それが分かるのか。
分からなければその要因による建物が古いとか、新しい等による補正率は甚だ怪しいことになる。
減価償却費率が同じであればという理屈もあろうが、対象建物の減価償却費率と同じであると云う保証はあるのか。
同じと云うことはあり得ないであろう。とすれば、その様な利回りの決め方に妥当性はない。
「都心まで1時間程度の主要幹線道路沿」とは、一体どの地域・地区・場所であるのか。具体的にさっぱり分からない場所の投資利回りの6%を基本利回りにする考え方など取るべきものでない。
その求め方は、下記のごとく対象地の土地価格を鑑定評価する求め方と同じである。
「都心まで1時間程度の主要幹線道路沿の土地価格は、平均u当り30万円である。対象地は環境が少し勝る条件で+2%、駅から遠いから−2%、規模大であるから−2%で、計+2%であり、対象地の土地価格は、
30万円×1.02=30.6万円
と求める。」
この土地価格の求め方が適正であると認められるであろうか。この土地価格は信用出来るであろうか。
場所が不特定の地域の基本利回りとやらの6%に2%のリスク要因を加算して8%を期待利回りとする求め方は、上記の土地価格の求め方と同じである。
投資利回りを家賃の期待利回りに採用することは、不可である。
そのことについては、鑑定コラム1104)「Jリートの還元利回りは賃料評価の期待利回りにはならない」で述べた。
投資利回りは、収益価格と純収益より求められている利回りである。
収益価格に対応する利回りである。
賃料評価に使用する期待利回りは、積算価格に対応するものであり、対応する価格が異なる。
積算価格に対応する利回りであるから、土地価格・建物価格が具体的に特定されなければならない。
「都心まで1時間程度の主要幹線道路沿の郊外のショピングセンターの投資利回りは6%」と発表している機関に、その利回りの根拠の土地価格・建物価格・純収益はいくらなのですかと一度聞いてごらん。果たして具体的に教えてくれるかどうか。
リスク要因として、
立地条件 −1.0%
建物古い +2.0%
建物規模大 +1.0%
という数値を合理的根拠も示さず、基本利回りに加減算して利回りを求めるやり方については、鑑定コラム837)「リスク数値の説明が出来ずに積み上げ利回りを使用する不動産鑑定」、鑑定コラム149)「積み上げ方式の割引率に実証性はあるのか」で記事にしている。
合理的根拠も無く、具体的証拠も無く、論理的に説明出来ないリスク数値など使用すべきでは無かろう。
利回り1%という利率は、大変な金額、賃料になるのである。
そのことがしっかりと理解しているのかと叱りつけたくなる。
1億円の1%は、
100,000,000円×0.01=1,000,000円
100万円である。
100万円を1%で割れば、
1,000,000円÷0.01=100,000,000円
1億円である。
たかが1%の違いであろうと小馬鹿にしてはいけない。1%の違いがどれ程の賃料、金額の違いになるのか上記の計算を知ればすこしは分かるであろう。
合理的根拠も無く、証明も出来なく、安易に+1%だ、−1%だと云って、利回り遊びをするべきものではない。
しかし、積み上げ方式による利回りの鑑定書は、私がいくら否定しても否定しても次々と現れて来る。
鑑定協会、国交省は、減価償却費を経費にしない家賃鑑定、当該地域と同一需給圏だからと云って遠い地域の利回りを持ってきている家賃鑑定、投資利回りを期待利回りに採用する家賃鑑定、証拠も無く論理的に説明出来ない積み上げ方式による期待利回りの家賃鑑定を、このまま放置しておくのであろうか。
賃料裁判で、未熟な賃料鑑定が裁判を混乱させ、裁判官に随分と迷惑をかけているのだが。
鑑定コラム1104)「Jリートの還元利回りは賃料評価の期待利回りにはならない」
鑑定コラム837)「リスク数値の説明が出来ずに積み上げ利回りを使用する不動産鑑定」
鑑定コラム149)「積み上げ方式の割引率に実証性はあるのか」
鑑定コラム1201)「誤魔化しの償却後期待利回り」
鑑定コラム1202)「不動産ファンド運営会社の戸惑い」
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