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賃料評価の期待利回りに、Jリートの還元利回りを使用あるいは援用する賃料鑑定書が現れだした。
以下のごとくである。
「対象建物と地域性、建物用途も同じくするJリートの賃貸建物の還元利回りは、5.4%である。減価償却費を考慮して本件の期待利回りを4.5%とする。」
と言うごとくである。
上記のごとくの記述の鑑定書を読めば、多くの人々は、下記のごとく判断するのでは無かろうか。
「地域性も同じで、建物用途も同じであり、かつ上場されているJリートの物件の利回りであれば信頼出来る。
何故なら、その不動産の価格は、専門家である不動産鑑定士が鑑定評価していることから、そこで求められている5.4%の還元利回りは信頼性が高い。
減価償却費も考慮されていることから、求められた4.5%の期待利回りは適正と判断出来る。」
と。
しかし、待っていただきたい。
地域的、用途的に類似的であるからと、Jリートの物件の利回りを持ってきて、そして減価償却費を考慮しているからと云って、その利回りを賃料の期待利回りにすること、或いは援用することは根本的に間違っている。
間違っていると言うことを、以下に説明するが、その前にJリートとはどういうものか及びキャップレートの利回り状況について簡単に記す。
Jリートとは、東京証券取引所に上場されている不動産投資信託をいう。
日本ビルファンド投資法人をトップにして、41の投資法人の銘柄が上場されている。
41の上場投資法人がリートとして持つビルの数は、不動産証券化協会によれば、2013年6月末で2,345棟である。保有残高は、取得時価ベースで、10.3兆円である。
Jリートの還元利回り(キャップレート)は、東急リアルエステート投資法人が発表している数値を見ると、以下のごとくである。
物件名 NCFキャップレート
キュフロント 4.80%
レキシント青山 5.70%
東急南平台ビル 5.40%
東急銀座二丁目ビル 4.60%
である。(2013年3月15日現在)
利用用途別では、
商業施設(都心) 4.75%
商業施設(郊外) 5.52%
オフィス 5.24%
である。(2013年3月15日現在)
Jリートの情報会社のジャパンリート株式会社(東京都港区西新橋)の調査発表によれば、取得時鑑定評価額によるキャプレートは、下記である。このキャップレートの説明が無いが、NCFキャップレートと判断して取り扱う。
2013年1月〜6月 2012年7月〜12月
オフイス 4.7% 4.9%
住居 5.3% 5.3%
東京5区 4.5% 4.5%
23区 4.8% 5.1%
関東地区 5.4% 5.3%
中部近畿 5.5% 5.9%
その他 6.0% 6.0%
6ヶ月の間にキャップレートの変動が少し見られる。
上記で、Jリート及びNCFキャップレートの利回り状況等を知ることが出来たであろう。
上記例示したごとく、東急リアルエステート投資法人とかジャパンリート(株)によって、キャップレートが発表されている。他の投資法人も同じごとく発表している。
キャップレートが発表されていない場合は、純収益等は発表されていることから、自分で計算すればキャップレートを知ることが出来る。
日本で2,345棟のJリート所有建物があり、その全てのキャップレートが発表もしくは計算すれば分かることから、不動産の利回りはこれで分かるのではないのか。
賃料の期待利回りもこれら利回りより、減価償却費相当の利率を減じれば求められるのではないのか。
であるが、しかし・・・・・。
ということになり、ここからは、前記で「しかし、待っていただきたい」と云った間違っていることの説明に入る。
NCFキャップレートは、ネットキャッシュフロー(Net Cash Flow)の純収益に対する利回りである。この利回りは、一般的には還元利回りと呼ばれている。
NCF純収益は、NOI(Net Operaiting Income 純営業収益、減価償却前営業利益)に敷金運用益を加算し、資本的支出(CAPEX)を控除した純収益である。
投資法人が発表するNCFキャップレートは、どの様にして求められているのかと云うと、その求め方は極めて単純である。
NCF純収益
──────────
不動産鑑定評価額
で求められる。
つまり、当該リート物件の不動産鑑定評価額が先に求められており、その金額に対する当該リート物件のNCF純収益の割合が、投資法人が発表しているNCFキャップレートと言うことである。
では、分母となる不動産鑑定評価額と言うものはどういうものなのかということになる。
それは、当該リート物件の価額には違いないが、価格の種類は、収益価格であるということである。
収益価格とはどういうものかと言うと、純収益を還元利回り(ここで云う還元利回りは、上記の説明によって求められるNCFキャップレートでは無い。別の手法で求められる還元利回りである)で除して得られた価格を収益価格という。
不動産の価格には、
積算価格
収益価格
比準価格
の3つがある。
積算価格は、原価的要因から価格をみる手法の価格で、一棟の建物の場合、土地は取引事例比較法より更地価格を求め、建物は原価法で建物の積算価格を求める。求められた両価格を加算して求められた不動産価格である。
比準価格とは、市場性の面より価格を見る手法で求められる価格で、土地建物を一体とした複合不動産の状態で取引された取引事例より比較して求められた価格である。
収益価格については、先に述べたから省略する。
Jリートの物件の価格は、収益価格が不動産鑑定評価額である。
Jリートの物件の価格として採用されるのは、積算価格でも比準価格でもなく、収益価格である。
それは、各投資法人の有価証券報告書にはっきりと明記されている。
例えば、日本ビルファンド投資法人の第23期有価証券報告書(平成25年3月28日 関東財務局提出)のP87に、次のごとく記されている。
「全て収益価格での不動産鑑定評価額」
と。
ジャパンリアルエステイト投資法人の第23期有価証券報告書(平成25年6月25日)のP45では、
「収益価格を採用することにより鑑定評価額が決定されています。」
と記されている。
他の投資法人の不動産鑑定評価額も全て収益価格である。
投資法人が発表するNCFキャップレートは、
NCF純収益
──────────
不動産鑑定評価額
で求められた利回りであるが、それは、
NCF純収益
──────────
収益価格
の利回りであるということになる。
即ち、投資法人が発表するNCFキャップレートは、収益価格に対応する利回りである。
賃料評価の積算賃料の基礎価格は、
土地の更地価格+建物の積算価格
で求められる価格である。つまり積算価格である。
そして賃料の純賃料(純収益)は、
基礎価格×期待利回り=純賃料
で求められる。
Jリートの還元利回りは、前記したごとく収益価格の鑑定評価額より求められた利回りである。
価格を求める還元利回りと賃料を求める期待利回りとは、貨幣の表と裏の関係にあるとして、即ち、
還元利回り=期待利回り
とすると、収益価格に対応する還元利回りを積算価格に対応する期待利回りに採用してよいものであろうか。
価格の種類が異なるものから成り立っている利回りを、同一として論じることが出来るであろうか。それは出来ないであろう。
積算価格=収益価格
では無いかと思われる人がいると思うが、両価格は金額でイーコルでは無い。
Jリートの評価額にあっては、
収益価格 > 積算価格
である。
収益価格が積算価格より20%〜30%高はザラである。50%高であるのも珍しくない。
例えば、
NCF純収益 10億円
積算価格 150億円
の賃貸不動産があったとする。
この物件の還元利回りは、
10
──── ≒ 0.067
150
6.7%である。
収益価格が、積算価格の50%アップの価格であった場合は、
10 10
───── = ─── ≒ 0.044
150×1.5 225
4.4%である。
積算価格の場合 6.7%
収益価格の場合 4.4%
となる。
分子の純賃料が一定の場合、分母の価格が50%上がれば、利回りは、
6.7%÷1.5≒4.4%
と下がるのである。
即ち、価格が倍になれば、利回りは1/2になるという経済経験則に従うのである。
収益価格によって得られた還元利回りは、減価償却費の要因を含んでいる利回りであることから、減価償却費相当を1.0%として控除すると、
4.4%−1.0%=3.4%
3.4%が利回りとなる。
前記したごとく、
還元利回り=期待利回り
として、期待利回りは3.4%と求められる。
こうして求められた期待利回り3.4%を、Jリート物件と地域が同じで、利用用途も同じであるからと云って対象不動産の賃料の期待利回りに使用してよいものであろうか。
求められた3.4%の利回りは、収益価格に対応する利回りである。
純賃料を求める算式は、前記した
積算価格×期待利回り=純賃料
である。
この算式の期待利回りは、積算価格に対応する利回りでなければならないであろう。
ここに3.4%を採用した場合、それは、
積算価格×収益価格に対応する期待利回り
という算式になる。
その様な算式は、数学として成立しない。
つまり上式の算式は間違っていることになる。
Jリートの還元利回りは、賃料評価の期待利回りには使えないということである。
しかし、こうした使え無いJリートの還元利回りを使用して、適正な積算賃料だと主張している賃料の鑑定書が増えてきた。
価格評価と賃料評価とは違うのだということが分かっていなく、又、分かろうとしない。
憂うべきことである。
具体的にどういうことになるか、下記で計算する。
NCF純収益 10億円
積算価格 150億円
収益価格 225億円(積算価格の50%アップ)
の条件で、純賃料の違いを考える。
積算価格のキャップレートは、6.7%と求められた。
これは減価償却費が含まれている利回りであることから、減価償却費の率を1.2%として減じると、
6.7%−1.2%=5.5%
が還元利回りである。
期待利回りと還元利回りは、貨幣の表と裏の関係にあるとすると、期待利回りは5.5%と求められる。
純賃料は、
150億円×0.055=8.25億円
である。これが積算賃料の純賃料として採用される金額である。
一方、収益価格に対応する期待利回りは、3.4%と求められていることから、これを使用すると、純賃料は、
150億円×0.034=5.1億円
と求められる。
まとめると、純賃料は、
積算価格に対応する利回りの場合 8.25億円
収益価格に対応する利回りの場合 5.1億円
ということになる。
収益価格に対応する利回りを採用した場合、純賃料は安く求められる。
では、この理屈を知っていて、これを悪用したらどういうことになるか。
つまり賃料を安く求めるために、故意に収益価格に対応する利回りを期待利回りに採用して純収益を求め、求められた賃料を適正だと主張してきたら。
即ち賃料減額訴訟において、賃料減額の手法として使用した場合である。
賃料評価について、うわべだけの知識しか知らない代理人弁護士、審判する裁判官、そして訴訟関係者達は、間違い無くコロリと欺されてしまうであろう。
専門家であると自称している不動産鑑定士のどれ程が、欺されなく見抜くことが出来るであろうか。皆無と云ったら叱られるか。
Jリートの公表還元利回り、即ち収益価格に対応する利回りを期待利回りとして使用している賃料鑑定書を見たが、その記述内容から判断すると、その鑑定書を書いた不動産鑑定士は、上記のごとく作為をもって賃料評価をしておらず、要は間違いであることを知らないで賃料鑑定書を書いているのではないかと推測出来るものであった。
ヤレヤレである。
もし作為的に故意に上記例のごとく賃料鑑定書を書いたのであれば、それは代理人弁護士、裁判官、訴訟関係者を欺す行為であり、その場合の結果は改めて云う必要は無かろう。
賃料評価の期待利回りは、積算価格に対応する利回りを使用するように。
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