サッポロビール埼玉工場地が売却された。
売主はサッポロホールディングスである。
サッポロビールとサッポロホールディングスとどういう企業関係であるのか、はっきりとわからない。
最近、やたらにホールディングスとかホールディングという名称の持株会社が出来て、ホールディングス或いはホールディングの社長と単体の社長とどちらの権限が強いのか理解しがたいが、いずれにしろ従前はサッポロビールの埼玉工場があった土地が売却された。工場の閉鎖による現象の一つである。
サッポロビールという大会社ですら、工場の閉鎖に追い込まれているのである。サッポロビールは、埼玉工場のほかに札幌工場の閉鎖も行っている。
メーカーの工場閉鎖は時代の流れだと、のんきに考えている状態ではない。 工場閉鎖に伴う人員整理が行われ、職を失う、即ち生活する収入が無くなる人が発生するのである。来月より生活する金の見通しがなく、一銭もお金が入ってこなくなる状態に自分が置かれることを考えたことがあるであろうか。
自由業である私などは、常に来月の収入の絶対的確保などなく、30年余常に不安定の状態ですごして来ているから、少しは精神的強さを持っていると自身思っているが、会社勤めをしていて定期的に定額の給与をもらった生活しか送っていない人にとっては、会社を解雇され、来月より収入がゼロになるという状態に置かれた場合の精神的ショックは、大変なものと思う。
自分の会社は大丈夫だと思っていたら大間違いである。
昨年度、上場企業で161の工場閉鎖があったのである。明日は我が身となるかもしれない。
労働問題を論ずるつもりではなかったが、工場閉鎖に伴って解雇される人々の立場に、つい同情してしまい、脱線してしまった。
本論に入る。
サッポロビール埼玉工場跡地109,000平方メートルの70%を、170億円でイトーヨーカドーと東武鉄道・リクルートコスモス連合が買受けたという。(日経、2003年10月31日)
売買価格の平方メートル当り価格は、
109,000平方メートル×0.7=76,300平方メートル
17,000,000,000円÷76,300平方メートル=222,800円
である。
サッポロビール埼玉工場は、JR京浜東北線の川口駅の北方の並木元町にある。前面道路(県道)を挟んだ東側は住宅地である。
県道の西側がサッポロビールの10.9haの大工場地で、同道の東側は一般戸建て住宅地という地域状況である。
土地価格を国税庁の相続税路線価でみると、サッポロビール埼玉工場は大工場地であるから、工場側の路線価は平方メートル当り15万円である。
東側住宅地の路線価は平方メートル当り26万円である。
これから考えると、一般住宅地の価格と大工場地の価格の間には、
15万円÷26万円=0.57
の関係がある。
戸建住宅地の価格を100とすると、大規模工場地の価格は、0.57の価格割合といえる。
これは工場の用途とした場合である。
今回は、イトーヨーカドー、東武鉄道・リクルートコスモスの土地購入により、その土地は、工場地利用でなく、商業施設、高層マンション土地利用となる。都市計画法上の用途地域の変更は当然行われることが前提となっている価格であり、用途変更は行われるであろう。
イトーヨーカドー等の7.6haの購入価格が、平方メートル当り22.28万円である。
対象地前の住居側の相続税路線価は平方メートル当り26万円であった。
イトーヨーカドー等の取得した土地は、大工場地としての土地評価は今後行われなく、東側の住宅地と同じ路線価になると思われる。即ち路線価は26万円となる。
国税庁は相続税路線価は、地価公示価格の8掛で価格設定しているという。
地価公示価格が時価を表しているとすると、(地価公示価格は必ずしも時価を表していないという意見はあるが、ここではそれを論じない)時価は、
26万円÷0.8=32.5万円
である。
この価格は200u〜250uの規模の土地価格である。
同じ道路を挟んで、7.6haの土地の価格は平方メートル当り22.28万円であった。
32.5万円と22.28万円のこの価格の差は何なのか。
イトーヨーカドー等の土地の用途地域指定が、近隣商業地域等という地域になるかもしれないが、その不確定要因を除けば、土地単価の差は、地積大の要因によるものである。
200u〜250uの規模(この規模を画地の標準規模という)の土地価格と7.6haの規模の土地価格の間には、
22.28万円÷32.5万円=0.68
の関係が認められる。
小規模画地の価格単価に対して、大規模画地の価格単価は安いのである。
これは商品の一品購入と大規模数量の購入では大規模数量の購入の方が単価が安くなるという経済現象と同じである。
不動産価格も例外ではないのである。
画地の標準規模に対して、大規模な土地の場合、価格減がどれ程生ずるのかが、サッポロビール工場跡地の売買例で、一つわかった。
7.6haで、標準規模画地の価格の0.68であるという1つの実証データが得られた。
但し、この価格割合は、東京等大都市周辺の宅地需要の旺盛な市街地の宅地の場合に言えるのであって、人口減の続く宅地需要の少ない地方の土地の場合にも適用出来るものではない。
そうした地方の場合には、大規模画地の価格減割合はより大きいと予測されるが、私にはあいにくと、その実証データはない。
それ故、上記地方の宅地需要の少ない地域の、大規模画地の価格減割合はより大きいであろうということは、私の仮説である。
鑑定コラム1731)「 22,000uの土地を路線価の1割増で?」