固定資産税の適正価格の新しい判断を示した判決である車返団地事件の最高裁判決が、下級審で利用されだした。
平成25年7月12日に、最高裁判所第二小法廷(千葉勝美裁判官裁判長)は、固定資産税の適正価格について、「土地の価格が評価基準によって決定される価格を上回る場合には、その登録価格の決定は違法となる」という新しい判断基準を示す判決(判決番号平成24年(行ヒ)第79号)を下した。
この最高裁判決を使用した固定資産税適正価格の下級審判決が現れてきた。
福岡地裁平成26年3月4日判決(固定資産評価審査決定取消請求事件 平成24年(行ウ)第88号)は、最高裁の前記判決を使用して、B市(注筆者)の固定資産税評価額は、「決定価格が評価基準が定める評価方法に従って決定される価格を上回っている」として、B市の決定価格を取り消した。
(注)判決文には市の名前が明記してあるが、筆者の判断で、B市とする。以下同じ。
同判決は、出版社ぎょうせいが発行している『判例地方自治』387・平成26年12月号P38に掲載されている。
私は、常に日本全国の裁判所から出された判決例を見ているわけではない。
私には、そのような能力も時間的余裕も無い。
一読者が教えてくれたのである。
情報提供者に感謝する。
判決の案件は、温泉旅館の敷地14,421.99uの土地である。
固定資産税評価は、温泉旅館の敷地として一体使用されている敷地を、旅館・庭園部分と駐車場部分の2画地に分けて評価しているが、これは一画地で評価すべきであり、この点で評価基準に違反していると判決する。
そしてもう一つの評価基準違反を指摘する。
当該土地は、画地内で、約7mの段差のある土地である。
画地内段差があれば、その要因による修正をすべきであるにも係わらず、駐車場の画地には画地内段差の修正を行っているが、旅館・庭園部分の画地には画地内段差の修正を行っていない。
旅館・庭園部分の画地には画地内段差修正を行っていない理由について、B市は、「現在の使用状況が造成されて有効利用されている場合には、画地内段差補正を適用しない」と評価の正当性を張する。
このB市の主張に対して、判決は、「本件要領にはそのような除外要領は定められていない」として、B市の主張を退ける。
評価基準に定められているにも係わらず、その基準の適用の有無を恣意的に運用されては、「税の公平」の精神が損なわれることになろう。
画地内段差の高低差4.0m以上の修正率は、「0.6」を乗じることになっているようである。
そうすると、画地内段差の修正が行われていない旅館・庭園部分の画地に0.6の修正を行った場合、「本件決定価格は本件土地に適用される価格評価基準の定める評価方法に従って決定される価格を上回ることが明らかであり、本件決定は違法であって、取消を免れない。」と判決する。
この判決の考え方は、正に、車返団地事件の最高裁の判決の考え方を、そのまま下級審が判断基準にしたものである。
私は鑑定コラム1101)の追記記事で、「この判決は今後固定資産税の課税評価に多大な影響を与える判決である。」と述べた。
その通りの事態になろうとしている。
各地方自治体は、固定資産税の評価額の見直しに本腰を入れて行った方がよい。
ネットでは、弁護士が、車返団地事件の最高裁の判決を例に出して、
「従前は、行政訴訟のハードルは甚だ高かったが、車返団地事件の最高裁の判決で、行政訴訟のハードルは大変低くなった。」の類のことを述べている。
それは、あたかも行政訴訟をすれば勝つ可能性が高いですょ、訴訟をしませんかと呼びかけているごとくとも受け取れる。
現実に、B市は、画地内段差修正を行わなかったために、評価は違法と裁判所で判断されたのである。
これからも、こうした判決が続出することになるかもしれない。
鑑定コラム1101)「破棄差戻 春名鑑定士よくやった」
鑑定コラム1185)「車返団地事件 納税者側全面勝訴」
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