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1101)破棄差戻 春名鑑定士よくやった

 最高裁上告審、破棄差戻の判決を言い渡す。

 平成25年7月12日、最高裁第二小法廷(千葉勝美裁判官裁判長、竹内行夫裁判官、小貫芳信裁判官、鬼丸かおる裁判官)は、東京高裁の固定資産評価審査決定取消事件について、

 「原判決中上告人に関する部分を破棄する。
  前記の部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻す。」

という判決を下した。

 事件番号は、平成24年(行ヒ)第79号である。

 固定資産税の評価額の適正時価についての争いの裁判であった。

 最高裁はその適正時価について、新しい考え方を追加した。

 判決の主文は、「原判決中上告人に関する部分を破棄する」というものである。

 「原判決」とは、現在争っている裁判の一つ前の裁判の判決をいうことから、本件の場合、東京高裁の判決をいう。

 その東京高裁の判決のうち「上告人に関する部分を破棄する」というのである。

 上告人とは、現最高裁判所に上告した人を云うのである。
 本件事件の場合、一、二審は固定資産税課税する役所側が勝ち、負けた納税者側が上告したものであるから、二審で負けた納税者側の二審判決部分は破棄するということである。

 そしてその部分について、東京高裁は審議し直せというのである。

 その審議し直しについて、どこが原審の判断が間違っているか最高裁の破棄差戻判決文は、具体的にはっきりと判示する。

 東京高裁の差戻審では、最高裁が間違いを指摘したことについて見直ししなければならない。

 見直すと云っても、最高裁がこうしなさいと指示している様なものであって、下級審は、最高裁の指示に従わなければならなく、高裁の判決は従前のものとはひっくり返るということになる。
 つまり、本件の場合、納税者側勝訴の判決が差戻審の東京高裁で出されるのである。

 納税者側敗訴の判決が差戻審で再び出されることはあり得るが、果たしてその様なことを高裁判事がやるかどうか。

 出世を棒に振るか、裁判官退職を覚悟してしかその様な判決を下すことはないであろう。

 本件事案が、高裁裁判官の職業を懸けてまでしなければならない事案ではなかろう。とすれば、結論は自ずからでてこよう。

 本件最高裁破棄差戻判決は、固定資産税の登録価格の決定が違法となる場合として、下記2つを判示した。

 @ 当該土地に適用される評価基準の定める評価方法に従って決定される価格を上回るとき。

 A 評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものでなく、又はその評価方法によっては適正な時価を適切に算定することができない特別の事情が存する場合であって、賦課期日における当該土地の客観的 交換価値としての適正な時価を上回る時。

 上記Aの条件の場合は、違法であることは、既に最高裁の判例として確定している。確定している最高裁の判決は、本件の納税者側代理人弁護士を務める吉田修平弁護士が、平成15年6月26日の最高裁第一小法廷で引き出した判決例である。
 本最高裁破棄差戻判決にも、その判決例が引用されている。

 @についてが、今回最高裁が適正時価の判定に加えた新しい考え方である。

 今回の最高裁破棄差戻判決は、原審は上記@に当たるか否か(建蔽率及び容積率の制限に係わる評価基準における考慮の要否の在り方を含む)についての審理判断をすることが必要であるのに、それを「不要である」としており、この審理不尽は結論に影響を及ぼすことは明らかであると判示する。

 わざわざ( )書きで、(建蔽率及び容積率の制限に係わる評価基準における考慮の要否の在り方を含む)と記している。

 この( )書きをしていることは重要であることを示唆する。

 つまりこの( )書きの云わんとすることは、具体的には次のことである。

 本件の土地は、大きな都市計画地域として、1中専地域で建蔽率60%、容積率200%の地域にある一方、その地域の中に「一団地の住宅施設」という区域があり、その区域は建蔽率20%、容積率80%の都市計画制限がある。

 土地利用指定が二重に被さっている制限土地利用区域があるということである。

 それは、市街化調整区域(原則として建蔽率60%、容積率200%)の中にあって、土地利用制限として建蔽率40%、容積率80%の土地利用区域があるように。

 訴訟対象の土地は「一団地の住宅施設」という区域にあり、建蔽率20%、容積率80%が適用される土地利用区域である。当該役所の都市計画を担当する課は、はっきりと対象地の用途地域及び土地利用制限について上記であると明言する。

 原審は、対象地が建蔽率20%、容積率80%の区域(80/20と表記する。以下表示方法同じ)であるということについて全く審議しなかった。

 原審の役所側は、納税者側が、対象地は80/20の区域であり、200/60の地域でないことから土地価格は間違っており、高すぎると主張すると、200/60が適用される土地であると主張し、固定資産税の土地価格評価した当初の不動産鑑定書(200/60で土地価格を評価している)のほかに、対象地は200/60が適用される土地であるという不動産鑑定書を新たに追加提出してきた。

 誤りを隠蔽・糊塗しょうとする悪意が感じられるとんでもない不動産鑑定である。

 原審は、役所の主張を採用し、80/20の区域であることを全く審議せず、その判決は、争っている双方が提出した「各鑑定意見書により認められる諸般の事情を総合考慮すると、平成21年度の賦課期日における本件敷地部分の適正な時価は、本件敷地登録価格を上回るものと認められるから本件敷地登録価格の決定が違法となることはない。」

と役所側勝訴とした。

 役所は間違ったことをしないというおかしな予断を持った裁判官の判決と云わざるを得ないものである。

 「総合考慮する」という甚だ曖昧な文言を使用して、80/20と200/60の土地価格差をほおかむりしてしまったのである。

 「おい、おい、裁判官ょ。役所の肩を持つのは良いが、これはひどいではないの?。課税する役所とグルではないのかょ。そんな裁判が罷り通るのかぃ。いい加減にせぃ。」

と私は東京高裁の判決文を読んだ時、そう思いながら、怒りが湧いてきた。
 判決をした3人の裁判官の名前をしっかり頭にたたき込んだ。

 この原審の態度に対して、最高裁は、「評価基準の定める評価方法に従っていない」といって、違法な課税登録価格であると断じたのである。

 80/20の都市計画の制限がある土地であるのに、何故200/60が適用される土地であるとして役所は課税価格を決定したのか。

 これには不動産鑑定士が深く関わっており、不動産鑑定士の不注意と判断ミス等が原因している。

 これ以上のことについては、ここで述べることは憚れることから止める。

 補足意見として裁判長の千葉勝美裁判官は、次のごとく述べる。

 「5 したがって、土地所有名義人が、独自の鑑定意見書等の提出により適正な時価を直接主張立証し登録価格の決定を違法とするためには、やはり、その前提として、評価基準の定める評価方法によることが出来ない特別の事情(又はその評価方法自体の一般的な合理性の欠如)を主張立証すべきであり、前掲最高裁平成15年7月18日第二小法廷判決もこの考えを前提にしているものと解される。」

と述べる。

 この意見は、一見今回の破棄差戻判決を否定するごとくの内容に見えるかもしれないが、そうではない。

 本判決が示した新しい考え方と同じことを述べている。
 それ故に、判決文の中で4人の「裁判官全員一致の意見」という文言が入る。

 特別の事情を立証せよと難しいことを云っているが、そこに( )書きとして(又はその評価方法自体の一般的な合理性の欠如)と書かれており、方向性を示している。

 本件の場合、80/20の土地利用制限がある土地を、200/60の土地利用が出来る土地として課税評価することが一般的合理性であるかと言うことになろう。

 本件納税者側は、課税側のその間違いについて十分立証している。

 本件判決及び千葉勝美補足意見は、課税する都市町村の側は、もっとしっかりして課税登録価格を決定せよというメッセージを送っているのではないかと私は思う。

 評価手続、評価手法に評価基準に反する違法が認められた場合は、その求められている登録価格は即法律違反の価格になりますょというメッセージを課税側に発しているのではないのか。

 役所側は、今後十分気をつけょと暗に云っているのであると私は解釈する。

 本件土地の固定資産税評価額は、間違っており、適正時価を超えた価格であるということについて、一人の不動産鑑定士が、土地鑑定評価の知識に疎い納税者側について献身的に協力した。

 彼は、多大な時間と労力を使って、課税側の考えや課税側の土地鑑定価格の間違いを指摘し、その意見書や正しい土地価格の鑑定書を書き上げ、裁判所に証拠として提出した。

 彼の努力と協力がなければ、今回の最高裁の破棄差戻の判決は無かったといっても過言ではない。

 その不動産鑑定士の名前は、「春名桂一」という。

 最高裁は、固定資産税の登録価格の決定の適正について、「登録価格が評価基準によって決定される価格を上回る場合」は違法という新しい判断基準を示した。

 取引事例価格との比較によって、市場が形成する適正価格をオーバーした登録価格は違法という従来の確定した考えのほかに、固定資産税の評価基準によって決定される価格を上回った価格は違法という新しい判断である。つまり登録価格が適法に求められているのか否かと問うているのである。当然と云えば当然の判断である。評価手続の違法性・評価手法の違法性が、市場価格云々を云う前に問われるのである。

 この判決を引き出した不動産鑑定士の春名桂一氏は、人生で大きな仕事をし、名前を残した。立派である。

 裁判の代理人を引き受けた吉田修平弁護士は、最高裁で固定資産税の価格について2つの最高裁判例をつくったことになり、「名弁護士」の肩書きがつくことになろう。

 最高裁の調査官が、本件は棄却事件でなく、破棄差戻事件に値するとよく判断し分別選択してくれた。

 最高裁に上告される民事・行政の事件数は、約5000件程度である。その中で破棄判決を得るのは1.6%の割合でしかない。大半は棄却である。
 この破棄か棄却かの選別するのは、実質的には、最高裁裁判官の職務補助を行っている最高裁調査官の肩書きを持つ人達である。

 最高裁調査官は、地裁の裁判官歴10年以上を経験した選抜された50名程度の若い裁判官達が地裁から出向して職務を行っている。
 最高裁調査官は、過去の判例、学説、法理念等関係するあらゆる資料を参考にして、上告案件を検討すると聞く。

 調査官の職務で鍛えられて、再び、地裁・高裁の裁判官として戻り、裁判官として研鑽を積んで行く。
 この最高裁調査官経験者から将来の最高裁裁判官が確実に出て来る。

 本件を1.6%の破棄事件の一つとして見出した眼識ある調査官は、将来の最高裁裁判官になるのではなかろうかと私は思う。期待したい。

 本件の判決文を書いた裁判官は誰であろうか。
 千葉勝美裁判官裁判長が補足意見を述べていることから、判決文を書いた人ではないであろう。
 竹内行夫裁判官は、外交官出身である。行政関係には造詣は深いであろう。
 小貫芳信裁判官は、検事出身の裁判官である。刑事関係には造詣は深いであろう。
 鬼丸かおる裁判官は、弁護士出身の裁判官である。民事、不動産関係の事件を弁護士時代に多く扱った経験があるのではなかろうか。

 3人の経歴から考えると、本案件の場合、弁護士出身の裁判官の方が、本案件の判決文を書くには適任ではなかろうか。

 この様に推測すると、本件の判決文は、鬼丸かおる裁判官が主として書いたのではなかろうかと私は推測する。この推測は間違っていることもあり得るが。

 応援する女性の裁判官が最高裁にもう一人現れた。岡部喜代子裁判官のほかに。

 なお、当日の第二小法廷の記者傍聴席に、6人のプレスが着席していた。

 この固定資産評価審査決定取消事件は、今後の判例検索のことも考えて、地名をとって「車返団地事件」と呼んでおこうか。


 (追記) 平成25年7月17日 最高裁平成15年7月18日第二小法廷判決について

 千葉勝美裁判官が補足意見の中で判例として挙げる「最高裁平成15年7月18日第二小法廷判決」は、北海道伊達市の建物の課税評価額に関するもので、下記関係コラムとして掲載する鑑定コラム142)で記事にしている判決である。建物に関しては、その後、島根県のゴルフ場のクラブハウス建物の需給事情の検討の判決が出ている。それについては鑑定コラム933)で記事にしている。


 (追記) 平成25年8月3日  歴史的判例誕生の瞬間に立ち会えた喜び

 もの凄いコラム記事アクセスである。
 不動産鑑定士の多くは気付いていないが、この判決は今後固定資産税の課税評価に多大な影響を与える判決である。

 最高裁の法廷で、最高裁の固定資産税の適正時価の判決として、歴史的判例の1ページを飾る判例誕生の瞬間に立ち会うことが出来たことを幸せに思う。

 この判決がどう影響を与えるかは、各自自分で考えて欲しい。



 (追記) 平成25年10月6日  アクセスから見る固定税への不信

 アクセス記事の殆どが過去数年前の記事であるが、最近の記事でアクセスが多いのは、固定資産税に関するもので、「車返団地事件」と、「需給事情」に関する記事であった。鑑定コラム1101)、1103)、933)である。

 「需給事情」の関心に伴ったのか9年前の2004年1月に発表した建物価格の課税価格に関する鑑定コラム142)と、ゴルフ場の固定資産税に関する鑑定コラム174)のアクセスも目立った。

 固定資産税納税者は勿論のこと、課税する側の各市町村の固定資産税税務課も興味を持ったことからアクセスが増えたのか。

 これら固定資産税に関する記事へのアクセス傾向から判断すると、人々の固定資産税への厳しい目が、課税する役所側に注がれつつあるのではなかろうかと思われる。

 固定資産税に関する訴訟を2件税務課が抱えたら、税務課はまず間違い無くパンクし、税務の事務は確実に滞り、税務課員の増員が必ず必要になる。

 裁判関係の為の訴訟の書類造りは、半端な仕事ではない。
 課員からは、何のためにこんな仕事に時間を割かなければならないのかという不満が必ず発生する。

 増員の課員の給料はどこから?
 代理人弁護士の費用はどこから?

 訴訟関係の出費は大変な金額になる。
 それが3〜4年続く。
 それらの費用は、全部税金である。市民、町民は怒るであろう。

 「車返団地事件」については、不動産鑑定士の責任は重く、深く反省し、不動産鑑定士は専門家として襟をただす必要があろう。

 俺には関係ないょとせせら笑っていると、納税者住民から不当鑑定で国交省に措置請求されることになりかねないょ。

                           ( 鑑定コラム1125)から一部転載)



 (追記) 平成26年1月2日   車返団地事件が判例時報、判例タイムズに掲載

 昨年2013年7月の最高裁の車返団地事件(平成24年(行ヒ)第79号)の判決が、判例時報、判例タイムズの2誌に取りあげられた。

   判例時報 平成25年12月21日号  2201-37

判例タイムズ 2014年01   1394-124

 判決評論については、当鑑定コラム1101)で述べた内容以上の物は無く、私に取って目新しい考え方が述べられているとは思われない。

 車返団地事件の判決が、判決の紹介として法曹界において定評ある2つの法律雑誌に紹介されたことは、それだけ重要な判決であるということを示すものである。

 しかし判例時報、判例タイムズの本件判決紹介は、縦書きと横書きの違いだけで、タイトル、判決評論内容文章は全く同じであることに、私は甚だ疑問を持つ。

 判決評論を書くのは、大学の法学部の教授であろう。
 法律を研究している学者であろう。

 論文の二重投稿は厳禁されているのではないのか。

 執筆者が同一人で無く、別人であったとすると、それは盗作と云うことになる。

 違う雑誌で、全く同じ文章の同じ内容の判決評論を読まされて、私は甚だ不愉快になった。その法律雑誌を机に叩きつけた。

                  (鑑定コラム1154)より抜粋転載)



 (追記) 平成26年3月29日   住民側全面勝訴

 平成26年3月27日に車返団地事件の差戻審判決が、東京高裁であった。
 課税側の地方自治体側の全面敗訴、住民側の全面勝訴の判決がおりた。

 現在は年度末で不動産鑑定書の提出締めきりに追われて、コラムを書く時間がないが、近いうちに時間を作って、住民側が全面勝訴した差戻審の判決について述べてみたい。判決書の内容は理にかなった優れたものである。こうした判決を差戻審前の東京高裁の控訴審で出してもらいたかった。



 (追記) 平成26年3月31日

 平成26年3月27日の車返団地事件の東京高裁の差戻審判決についての論評記事を、鑑定コラム1185)「車返団地事件 納税者側全面勝訴」に書きました。判決内容とはどういうものかが分かると思います。下記コラム欄の当該部分をクリックすれば、そのコラムに行きます。



 (追記) 平成26年10月19日 車返団地事件 再上告棄却 鑑定コラム1265転載

 固定資産税の課税評価額の妥当性を争った車返団地事件は、平成25年7月12日に、最高裁判所で課税評価額の違法性を指摘され、東京高裁に差し戻された。

 この最高裁の判決については、鑑定コラム1101)に記した。

 東京高裁に差し戻された車返団地事件は、平成26年3月27日に差戻判決がなされた。

 再度納税者側の全面勝訴である。
 この差戻控訴審判決については、鑑定コラム1185)に記した。

 課税側の地方公共団体は、差戻控訴審判決を不服として、再上告した。

 平成26年9月30日付で、最高裁第三小法廷(大谷剛彦裁判長裁判官、岡部喜代子裁判官、大橋正春裁判官、木内道祥裁判官、山崎敏充裁判官)は、その再上告申立を棄却した。

 これで平成21年度課税評価額の妥当性を争っていた車返団地事件は終了した。

 納税者側の全面勝利である。

 納税者の努力と課税する地方公共団体の違法行為を許さないという強い決意がなさしめた結果であるが、それを達成するために、3人の専門家の存在が大きい。

 一人は、不動産鑑定士春名桂一氏の献身的な協力である。
 複雑な固定資産税課税評価額の求め方について、春名氏は専門家としての能力の全部を出して納税者の相談にのり、適正な課税評価額の求め方を指導した。

 二人目は、吉田修平弁護士の存在である。吉田修平弁護士が代理人を引き受けてくれなかったら、裁判はどうなったか分からない。

 三人目は、名前が分からないが、最高裁に上告されてきた事件の下調べ調査をする最高裁調査官である。
 最高裁に挙がってくる事件は、民事・行政事件で年間約5000件ある。

 その中で、破棄差戻になるのは0.9%(平成25年度)でしか無い。99.1%は棄却である。
 膨大な事件記録を読んで、車返団地事件が、破棄差戻に相当すると、見抜いてくれた最高裁調査官がいなかったら、この事件は棄却として、そこで終わっていた。

 固定資産税の課税評価額は、3年ごとに評価替されている。

 平成24年度、平成27年度課税評価額も、平成21年度と同じ評価手法、考え方で行われているとすれば、その課税評価額は最高裁の判決から違法となる。
 
 固定資産税の課税評価額評価には、不動産鑑定士が深く関わっている。

 最高裁の判決に反する違法な課税評価額評価を行ってはいけないと言うことを、今更云う必要性は無かろうと思うが、固定資産税の課税評価額評価には十分注意を払って臨んで欲しい。

             (鑑定コラム1265を転載)



****追記 2014年10月22日  車返団地事件 『平成25年度重要判例解説』(ジュリスト)に選ばれる  鑑定コラム1266の転載

 前記鑑定コラム1265)「車返団地事件 再上告棄却」をアップしたところ、ある弁護士から、そのコラム記事の中の最高裁の破棄事件割合が違うというご指摘を、判例時報に掲載された論文を添付して、やんわりと頂いた。

 平成25年度の最高裁の破棄事件数は、34件で、上告申立件数に対して0.9%であるとのご指摘であった。

 訂正前は、「1.6%」と記述していたが、0.9%に訂正することにした。棄却割合は99.1%と云うことになる。

 破棄割合の訂正は、鑑定コラム1265)の追記にも書いた。

 当鑑定コラムの間違いを、早々に指摘し、根拠の資料も付けて下さった弁護士氏に感謝いたします。

 有り難うございます。

 弁護士の方々が、マイナーな当鑑定コラムを読んで下さっているとは、私は思ってもいなかった。

 有り難い事である。

 頂いた判例時報の論文(判時2224-3)は、『最高裁民事破棄判決等の実情(上)−平成25年度−』(伊藤正春 上村孝由)である。

 同論文P6に、平成21年からの最高裁の破棄事件数が記載されている。下記である。

      平成21年  68件(2.1%)
      平成22年  67件(2.1%)
      平成23年  71件(2.3%)
      平成24年  60件(1.5%)
      平成25年  34件(0.9%)

 平成25年の破棄事件は、極めて少ない。僅か34件でしかない。年々厳しくなっているようである。

 そうした状況の中で、車返団地事件が破棄差戻事件となって見直されたのは、幸運としか云いようが無い。

 有斐閣が発行する「ジュリスト」という雑誌がある。

 法律専門雑誌である。

 その「ジュリスト」の1466号(2014年4月10日号)は、臨時増刊号であり、『平成25年度重要判例解説』の特集である。

 平成25年度になされた判決の中で、重要と思われる判決が選ばれ、解説・評論されている。

 憲法、行政法、民法、刑法、商法・・・・・・国際法と全法律の分野から、113件の判決が選ばれている。

 最高裁の法廷で、車返団地事件の判決を聞いた時の気持ちを、鑑定コラム1101)の追記に、私は以下のごとく書いている。

 「最高裁の法廷で、最高裁の固定資産税の適正時価の判決として、歴史的判例の1ページを飾る判例誕生の瞬間に立ち会うことが出来たことを幸せに思う。」と。

 私は、最高裁の法廷で判決を聞いたその後、車返団地事件の最高裁判決文のコピーを受け取った。

 その最高裁判決文を読んだ時、「この判決は今後固定資産税の課税評価に多大な影響を与える判決である」と改めて思った。

 そしてこのことは、固定資産税の課税額評価に深く携わっている全国の不動産鑑定士に、広く知らせる必要があると強く思い、鑑定コラムに取り上げ、何度も記事を書いているのである。

 もっとも肝心の不動産鑑定士よりか、市町村の税務課では無いのかと推定される人々の方が、多く鑑定コラムの当該記事にアクセスして、情報を得ているようであるが。

 その車返団地事件の最高裁判決は、「ジュリスト」の『平成25年度重要判例解説』で、行政法11件のうちの一つとして選ばれている。

 そして、租税法7件のうちの一つとしても選ばれている。

 つまり、車返団地事件の最高裁判決は、113件の判決のうち、2つの分野の重要判決として選ばれ、学者の解説・評論がなされている。

 行政法の分野では、『固定資産評価基準に基づく土地の価格と適正時価との関係』(P58)という課題で、早稲田大学の人見剛教授が解説・評論する。

 租税法の分野では、『固定資産課税台帳の登録価格の適法性の判断基準』(P222)という課題で、立命館大学の宮本十至子教授が解説・評論する。

 『平成25年度重要判例解説』に掲載された判決113件は、平成25年度という時代を反映し、記録する判決であり、裁判訴訟の最前線にある判決と考えられるものである。

 現在の裁判訴訟の考え方の最前線は、ここであると云うことを示す。

 10年後になって、平成25年を振返ってみて、古い考えだと思うことになるかもしれないが、平成25年の現在にあっては、10年後がどういう考えにあるのか分からなく、10年後に存在する10年後の最前線の考えを、今創り出すことは出来ない。

 平成25年の選択された113件の判決は、平成25年度の重要判決と判断された判決である。

 その中で、行政法,租税法の2分野から、車返団地事件の最高裁判決が選ばれたことは、如何に同判決が、画期的で、重要で、社会に与える影響が大きい判決であるかを示すものではなかろうか。

 車返団地事件に関与し、貢献した不動産鑑定士の春名桂一氏は、不動産鑑定士として滅多に無い最高裁の判例を作ることにも結果として関与したことになり、その判決が、平成25年度の重要判決として2分野で取り上げられるという金字塔を建てた。称賛する。

             (鑑定コラム1266を転載)



****追記 2015年1月11日 車返団地事件の最高裁判決が下級審で利用されだした 鑑定コラム1300転載

 固定資産税の適正価格の新しい判断を示した判決である車返団地事件の最高裁判決が、下級審で利用されだした。

 平成25年7月12日に、最高裁判所第二小法廷(千葉勝美裁判官裁判長)は、固定資産税の適正価格について、「土地の価格が評価基準によって決定される価格を上回る場合には、その登録価格の決定は違法となる」という新しい判断基準を示す判決(判決番号平成24年(行ヒ)第79号)を下した。

 この最高裁判決を使用した固定資産税適正価格の下級審判決が現れてきた。

 福岡地裁平成26年3月4日判決(固定資産評価審査決定取消請求事件 平成24年(行ウ)第88号)は、最高裁の前記判決を使用して、B市(注筆者)の固定資産税評価額は、「決定価格が評価基準が定める評価方法に従って決定される価格を上回っている」として、B市の決定価格を取り消した。

 (注)判決文には市の名前が明記してあるが、筆者の判断で、B市とする。以下同じ。

 同判決は、出版社ぎょうせいが発行している『判例地方自治』387・平成26年12月号P38に掲載されている。

 私は、常に日本全国の裁判所から出された判決例を見ているわけではない。
 私には、そのような能力も時間的余裕も無い。
 一読者が教えてくれたのである。
 情報提供者に感謝する。

 判決の案件は、温泉旅館の敷地14,421.99uの土地である。

 固定資産税評価は、温泉旅館の敷地として一体使用されている敷地を、旅館・庭園部分と駐車場部分の2画地に分けて評価しているが、これは一画地で評価すべきであり、この点で評価基準に違反していると判決する。

 そしてもう一つの評価基準違反を指摘する。

 当該土地は、画地内で、約7mの段差のある土地である。
 画地内段差があれば、その要因による修正をすべきであるにも係わらず、駐車場の画地には画地内段差の修正を行っているが、旅館・庭園部分の画地には画地内段差の修正を行っていない。

 旅館・庭園部分の画地には画地内段差修正を行っていない理由について、B市は、「現在の使用状況が造成されて有効利用されている場合には、画地内段差補正を適用しない」と評価の正当性を張する。

 このB市の主張に対して、判決は、「本件要領にはそのような除外要領は定められていない」として、B市の主張を退ける。

 評価基準に定められているにも係わらず、その基準の適用の有無を恣意的に運用されては、「税の公平」の精神が損なわれることになろう。

 画地内段差の高低差4.0m以上の修正率は、「0.6」を乗じることになっているようである。

 そうすると、画地内段差の修正が行われていない旅館・庭園部分の画地に0.6の修正を行った場合、「本件決定価格は本件土地に適用される価格評価基準の定める評価方法に従って決定される価格を上回ることが明らかであり、本件決定は違法であって、取消を免れない。」と判決する。

 この判決の考え方は、正に、車返団地事件の最高裁の判決の考え方を、そのまま下級審が判断基準にしたものである。

 私は鑑定コラム1101)の追記記事で、「この判決は今後固定資産税の課税評価に多大な影響を与える判決である。」と述べた。

 その通りの事態になろうとしている。

 各地方自治体は、固定資産税の評価額の見直しに本腰を入れて行った方がよい。

 ネットでは、弁護士が、車返団地事件の最高裁の判決を例に出して、

 「従前は、行政訴訟のハードルは甚だ高かったが、車返団地事件の最高裁の判決で、行政訴訟のハードルは大変低くなった。」と述べている。

 それは、あたかも行政訴訟をすれば勝つ可能性が高いですょ、訴訟をしませんかと呼びかけているごとくとも受け取れる。

 現実に、B市は、画地内段差修正を行わなかったために、評価は違法と裁判所で判断されたのである。

 これからも、こうした判決が続出することになるかもしれない。

             (鑑定コラム1300を転載)



  鑑定コラム1092)
「最高裁の傍聴へ」

  鑑定コラム1093)「最高裁の最初の階段は13段だった」

  鑑定コラム795)「敷引特約は違法であると言う最高裁裁判官が一人出現した」

  鑑定コラム142)「固定資産税建物基準で求められた建物価格は本当の適正な時価か」

  鑑定コラム 933)「ゴルフ場クラブハウス固定資産税価格58%の需給事情修正を認める判決」

  鑑定コラム1103)「市町村税務課で今何が起こっているのか」

  鑑定コラム1154)「車返団地事件が判例時報、判例タイムズに掲載」

  鑑定コラム1164)「車返団地事件が『判例地方自治』に掲載された」

  鑑定コラム1185)「車返団地事件 納税者側全面勝訴」

  鑑定コラム1265)「車返団地事件 再上告棄却」

  鑑定コラム1266)「車返団地事件 『平成25年度重要判例解説』(ジュリスト)に選ばれる」

  鑑定コラム1300)「車返団地事件の最高裁判決が下級審で利用されだした」

  鑑定コラム1883)「京都市固定資産税務課しっかりせい 最高裁判決」


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