136)「都市法をめぐる課題と展望」特集の『Evaluation』11号の発行
不動産鑑定実務理論雑誌である『Evaluation』11号(プログレス2003年11月15日)が発行された。
11号の特集は「都市法をめぐる課題と展望」で、都市法研究会の人々に論文提供をお願いした。
都市法研究会は、
丸山英気教授
と鵜野和夫税理士・不動産鑑定士が主宰する研究会で、その研究会の目的とする趣旨が、本誌のテーマである「新しい鑑定文化の創造」に合致することもあることから、同研究会が創立20周年を迎えるという節目であることを鑑み、同研究会に記念論文の執筆をお願いした。
記念論文の内容は、土地基本法廃止論、税法、固定資産税と最高裁判決、賃貸ビルのコスト計算、サービサーの役割、コンバージョンの現状、公共用地の買収、時価と鑑定、都市コモン論と新しい街づくり等と論ずる内容は幅が広く、バラエティに富んでいる。
筆者は、大学教授、弁護士、税理士、一級建築士、不動産鑑定士、官僚と執筆者の職業も各界の専門家である。
都市法研究会の主宰者の一人である丸山英気教授は、定期借地権、定期借家権の立法に関与され、最近はマンション円滑法の立法に尽力され不動産関係法の泰斗である。
その丸山教授が、主宰者の立場から都市法の20年の歩みを「不動産法の課題と展望」で述べられている。都市法研究会が、不動産の諸問題に密着して取り組んでいる姿を知ることが出来る。
国士舘大学教授の上原由起夫教授は、最近では資産評価政策学会から、競売の最低売却価格制度について1つの政策提言された人である。その上原教授は「土地基本法廃止論」という、ドキッとする課題で自論を展開される。大学教授の論文に、私ごときのものがコメントできるものではない。一読していただければと思う。
吉田修平弁護士が「固定資産税をめぐる最近の最高裁判決について」の課題で、自分が代理人弁護士として担当した平成15年6月26日に最高裁から出された「賦課期日における客観的な交換価値を超える部分は違法」の判決について述べる。
固定資産税の評価額について、画期的な判決を最高裁から引き出した弁護士として、その訴訟の苦労、いきさつについて述べる。
この判決の今後の固定資産税の課税評価額に与える影響の大きさを考えると、その最高裁判例をつくり出した担当弁護士の訴訟の苦労話の著述などめったにお目にかかれるものではない。それを知ることが出来ることは大変ありがたい。
吉田弁護士は、この判決を得るためには不動産鑑定士の森田義男氏の協力がなくしては出来なかったと云う。不動産鑑定士の働きを認めていただいたことは、同じ職にある者の一人として、大変ありがたいことである。
とはいえ端からみれば、画期的な最高裁判例をつくったということは吉田修平弁護士にとって、弁護士冥利に尽きるのではなかろうかと私は思う。
一級建築士の上野俊秀氏は、建設会社に長く勤務された実積を生かして「賃貸ビル事業のコスト試算」の論文で、建物の工事費を統計的に分析され、東京、大阪等7都市の事務所系、共同住宅系、商業施設系の建築費の求め方のノウハウを公開する。
東京で、のべ床面積6000uの貸ビルの建築費をu当り225,000円と試算し、工程別単価、修繕費、更新費、維持管理費、冷暖房費、水道料を具体的数字を挙げて説明する。
特に修繕費、更新費の1〜20年に必要とする金額、それの新設工事費に占める割合は、鑑定評価、特にDCF法の分析には大いに利用出来るものと思われる。
一年前程ディペロッパーのある人より、「田原さん、これからはコンバージョンだよ」と云われたことがある。
「コンバージョンって何?」と問いかけ、その時、初めてコンバージョンという言葉と、内容を知った。
今や、中古事務所ビルをマンションやホテルに改装転用する例が見られるようになった。
一級建築士の秋山英樹氏は、「コンバージョンの現状と今後の課題」の論文で、コンバージョンとはどういうものか、その具体的転用の仕方、建築基準法の関係にどう対処すべきか述べられている。
積載荷重についても論及されているのは、さすが一級建築士としての専門家の目である。
この他、都市法研究会の会員による論文は、下記のものが掲載されている。紙面の都合上、内容の紹介は割愛する。(敬称略)
「資産流動化とサービサーの役割」 安井礼二 「近代税法学における法的思考」 川井和子 「公共用地の買収価格について」 遠山允人 「時価概念の拡大化傾向と鑑定実務への課題」 黒沢泰 「都市コモン・新たな法制度の提言」 周藤利一 「不動産からみた小さな街づくり」 吉野伸 「都市法研究会20年を振り返って」 鵜野和夫