民事再生法適用申請、ゴルフ場の売買、或いは減損会計の時価の把握を目的としたゴルフ場の鑑定評価で、損益計算書の費用項目の数値を検討する事が多くなった。
そこで目に付くものが2つある。
一つは人件費の大きさである。
ゴルフ場は日本に2067ヶ所あり、そこに働く人々は約15万人である。働く職場の提供として、ゴルフ場業種は無視出来ない労働市場を形成している。
しかし、ゴルフ場の経営の行き詰まりで人件費のカットで真っ先に挙げられ、その対象になるのは、キャディの廃止である。自動乗用カートに切り替えて、経営の危機を乗り切ろうとするゴルフ場は多い。
ゴルフ場の労働市場の受け皿が小さくなろうとしている。
二つ目は固定資産税の多額さである。
人件費は経営者の考えで支出カットが出来るが、固定資産税は経営者が勝手に支出カット出来るものではない。
一つのゴルフ場で、およそ2〜3千万円の固定資産税を、ゴルフ場の所在する市町村に支払っている。当該市町村にとっては、一銭の税収入も見込めなかった山林の土地から、2〜3千万円の収入が毎年何の苦労もせずに転がり込んでくるのである。これほどおいしい税収入は無い。
ゴルフ場の大幅な売上減に伴い、高額な固定資産税の存在がゴルフ場経営を圧迫し始めてきた。ゴルフ場の売上高に対する土地建物の固定資産税が高すぎるのである。
固定資産税の課税者は、固定資産税は担税力に見合って課税されており、ゴルフ場の固定資産税は適正額であると主張する。その担税力は土地建物の価格を基本に考えているという。それは固定資産税の課税の基本であろうが、担税力云々というゴルフ場の固定資産税課税評価額が、甚だ高すぎるのである。
担税力の土地価格は、収益あっての土地価格であって、価格あっての土地価格ではない。ゴルフ場の土地価格は、担税力を著しくオーバーした土地価格の求め方によって求められている。
ゴルフ場の用途は宅地ではない。ゴルフ場である。
ゴルフ場の中で宅地といえるのは、クラブハウスや管理棟の敷地部分の土地であり、コース及びそれ以外の土地は宅地ではない。
ゴルフ場の固定資産税の課税土地価格の求め方には2つの求め方がある。
「市街地宅地評価法」と「その他の宅地評価法」である。
都市近郊にあるゴルフ場の固定資産税課税価格は、市街地宅地評価法が採用されている。その求め方は次のごとくである。
<ゴルフ場の近傍の宅地評価額(u当り)×潰地以外の土地割合(50%) − 同一規模の山林の宅地造成費用×宅地の評価割合(70%) + ゴルフ場コースに係わる造成費×宅地の評価割合>×位置・利用等による補正=ゴルフ場のu当り土地価格
最後に乗ずる「位置・利用等による補正」は、1.0の数値が採用されており、ゴルフ場の土地価格は、実質的には上記の< >の算式で求められている。
この算式で求められた土地価格に負担調整率を乗じ、1.4/100の税率が乗じられて、ゴルフ場の固定資産税が、ゴルフ場を所有経営する会社に請求されることになる。
上記式を良く見れば、ゴルフ場の固定資産税の土地価格算出の基礎になっているのは、「ゴルフ場近傍の宅地価格」である。
近傍の宅地の価格から、所要の修正を行って、課税評価額を求めているのである。
この求め方は、宅地の価格を基準にして求めている以上、それは類型では宅地であり、50%の割合修正率を行っているからといっても、それは宅地の広大地修正と考えられ、宅地価格であって、ゴルフ場の土地価格にはなりえない。
造成工事費を減額しているからといっても、それは造成前宅地という類型の宅地の価格であり、ゴルフ場という類型の土地価格にはなりえない。
市街地宅地評価法の固定資産税評価額の求め方は、造成前宅地の求め方であり、得られた土地価格は、熟成度の低い宅地の価格である。
それがゴルフ場の価格になるというのは詭弁である。決してゴルフ場の土地価格にはなりえない。
ゴルフ場は宅地ではない。
熟成度の低い宅地の価格イコールゴルフ場の価格、という考え方によるゴルフ場の土地価格課税評価額の求め方は、その理論構成は誤っており、根本的に考え方が間違っている。
税金は法律によって課税されなければならない。
税金法定主義である。
ゴルフ場の固定資産税土地価格の求め方である「市街地宅地評価法」は、旧自治省の評価室長通知であり、それは法律ではない。
固定資産税課税の法律は地方税法である。その地方税法のどこに上記ゴルフ場の課税土地価格の求め方が記してあるのか。
法律に記してない求め方で課税していることは、法律違反である。
日本は法治国家である。
徴税権は、軍隊、警察に匹敵する国家権力そのものである。
それらの権力の行使は、法律に従って行うべきものであり、そうでなければならない。一片の旧自治省の評価室長通知で決められるものではない。
先に述べたごとく固定資産税の担税力は、土地価格にあると課税者は説く。
税法学者もその説の理論担保を行っている。
しかし、土地価格は収益あっての土地価格である。
とすると担税力にも収益性という要因が反映されていることになる。収益を無視して担税力を語ることは出来ないということになる。収益あっての税金であろう。
山林に固定資産税が課税されないのは、土地価格が低いということを根拠にするであろうが、それ以前に、収益が期待されないから土地価格が低いのである。つまり山林に固定資産税が課税されないのは、収益が期待されないからであろう。
ゴルフ場の売上高に占める固定資産税の割合が、従前は5%程度であったものが、10%を超える状態になるゴルフ場も出てきた。
私が、ここ数年(2001年〜2004年)に行った15件のゴルフ場の売上高に占める固定資産税(地代も含める。ゴルフ場の地代は土地固定資産税と密接な関係がある。)の割合は、4.7%〜14.8%である。平均9.8%(標準偏差2.9%、標準偏差はスカラーであるから単位はつかないが、ここでは分かり易く2.9%と単位を付ける。0.029が標準偏差である。)である。
売上高に占める固定資産税割合が8%以下のゴルフ場の経営は、減価償却を計上しないキャッシューフローで見ると黒字経営が多く、経営は比較的安定している。 これに比し、10%を超えて10%〜14%の割合のゴルフ場は大変厳しい経営を強いられている。
ゴルフ場側もバブル経済の時には、バブル経済に踊らされて一流ホテル並以上の豪華なクラブハウスを造ったことによって、高額な固定資産税を負担しなければならなくなったという自らが播いた種もあることは否定出来ない。
とは云え、ゴルフ場が健全経営を行うことが出来ない程の高額な固定資産税の課税は、どこかおかしいと云わざるを得ない。
ゴルフ場経営と較べると、より収入が安定している貸ビルの賃料収入に占める固定資産税・都市計画税の割合は、年間賃料収入1〜8億円で10%、8〜10億円で9.7%である。(『賃料<家賃>評価の実際』p265 田原 清文社)
貸ビルより収入が不安定であり、人件費、コース管理費等の支出のウエイトの高いゴルフ場にとって、固定資産税が売上高の10%以上の水準にあるということは甚だ異常である。
(追記) 平成25年10月6日 アクセスから見る固定税への不信
アクセス記事の殆どが過去数年前の記事であるが、最近の記事でアクセスが多いのは、固定資産税に関するもので、「車返団地事件」と、「需給事情」に関する記事であった。鑑定コラム1101)、1103)、933)である。
「需給事情」の関心に伴ったのか9年前の2004年1月に発表した建物価格の課税価格に関する鑑定コラム142)と、ゴルフ場の固定資産税に関する鑑定コラム174)のアクセスも目立った。
固定資産税納税者は勿論のこと、課税する側の各市町村の固定資産税税務課も興味を持ったことからアクセスが増えたのか。
これら固定資産税に関する記事へのアクセス傾向から判断すると、人々の固定資産税への厳しい目が、課税する役所側に注がれつつあるのではなかろうかと思われる。
固定資産税に関する訴訟を2件税務課が抱えたら、税務課はまず間違い無くパンクし、税務の事務は確実に滞り、税務課員の増員が必ず必要になる。
裁判関係の為の訴訟の書類造りは、半端な仕事ではない。
課員からは、何のためにこんな仕事に時間を割かなければならないのかという不満が必ず発生する。
増員の課員の給料はどこから?
代理人弁護士の費用はどこから?
訴訟関係の出費は大変な金額になる。
それが3〜4年続く。
それらの費用は、全部税金である。市民、町民は怒るであろう。
「車返団地事件」については、不動産鑑定士の責任は重く、深く反省し、不動産鑑定士は専門家として襟をただす必要があろう。
俺には関係ないょとせせら笑っていると、納税者住民から不当鑑定で国交省に措置請求されることになりかねないょ。
( 鑑定コラム1125)から一部転載)
105円 ────── = 7,500円 0.014u当り7,500円と求められる。
0.098−0.029=0.069
(鑑定コラム1551より一部転載加筆)