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1068)実質賃料、新規実質賃料、実際実質賃料

 賃料の不動産鑑定には、紛らわしい専門用語がある。

 専門用語は、専門用語としての概念があるから、その用語として存在するのであり、しっかりとその概念を把握して、その言葉で使わなければならない。

 時点修正を、時点補正と云ってはダメである。事情補正を、事情修正という文言にしてはダメである。

 「実績利回り法による差額配分法」なる名称を名乗る差額配分法を見たが、その様な利回り法と差額配分法をごちっや混ぜにした訳の分からない差額配分法の名称や手法は無い。

 「実績利回り法」なる用語の利回り法は現在は無い。新基準以前は使っていたが。

 実質賃料とは、賃貸人に支払われるすべての経済的な対価をいう。

 では、賃貸人に支払われるすべての経済的対価とは何かということになる。
 それは、実質賃料を構成する項目は何かと云うことである。

 実質賃料を構成する項目は、下記のものである。

      支払賃料
      共益費
      敷金・保証金運用益
      保証金償却額
      礼金償却額
      更新料償却額(継続賃料の場合)

 実質賃料は、

    新規実質賃料
    実際実質賃料

に区分される。

 新規実質賃料とは、実質という文言を省いて「新規賃料」と呼ばれて使用されることが多い。新規賃貸借契約の時の実質の賃料を云う。但し、新規賃貸借契約後2年程度の契約更新までに授受されている実際実質の賃料も新規実質賃料になる。

 新規賃貸借契約後のつぎの更新契約時期までの実際実質の賃料を新規実質賃料というのは、賃貸事例比較法を行う時、採用する賃貸事例は新規賃貸借契約した事例で行わなければならなく、その事例は実際実質賃料(この用語の説明は後述する)であるが、それを使用しなければ比準賃料を求めることが出来ないためである。

 新規実質賃料の構成項目は、上記の構成項目のうち「更新料償却額」を除いたものが構成項目となる。

 実際実質賃料とは、賃貸借契約した後の実質賃料をいう。
 裏返して云えば、賃貸借契約後の実質賃料は、全て実際実質賃料になるのである。

 新規賃貸借契約後2年程度の契約更新までに授受されている実質賃料は、賃貸借契約後の実質賃料であることから実際実質賃料ということに当然なるが、そのほかに新規実質賃料でもある。
 その理由は、前記した。

 実際実質賃料の構成項目は、契約更新で更新料が支払われる場合があることから、その金額の償却額が、新規実質賃料の構成項目に加算される。

 新規実質賃料は、

     積算賃料
     比準賃料

に区分され、2つの試算賃料より決定される賃料である。

 1つの手法のみによって決定されたものではダメである。
 1つの手法だけでは、その求められた賃料が適正であると云うことを担保するものがないことによる。

 積算賃料1つで新規賃料を決定して、それが適正であるといくら主張しても、その主張をそのまま受け入れることは難しい。

 「あなたは、自分の求めた新規賃料が正しいと主張していますが、適正であると云うことを担保するものは何ですか。
 ありますか?

 正しいと主張することは、違う手法からの裏づけがあれば客観的に認められますが、それが無い以上、1つの手法のみから求められた賃料が正しいという主張は独善的なものと判断されても仕方がないでしょう。

 何故もう一つの手法をやらなかったのですか。
 やらなかったという行為の方が、責められるべきことではないでしょうか。
 何らかの目的を持って、作為的にやらなかったという見方も取れますが。」

と反論されて、終わりである。

 この様に書くと、プライドの高い不動産鑑定士の多くの方は、田原不動産鑑定士は偉そうに云うと批判されるであろうが、上記の例は、私がかって裁判所の法廷で証人喚問され、原告、被告の代理人弁護士からの質問追求で味わった苦い経験から、この様な苦い経験を味わわないようにと思って述べているに過ぎない。

 一度でも良いから、法廷の証人台に立って、原告、被告の代理人弁護士から、自分の書いた鑑定書について証人尋問されてごらん。

 文言の、「てにをは」から徹底的に尋問され、如何に自分の鑑定評価が未熟で、自己満足に陥った底の浅い、薄っぺらな知識の鑑定評価であることを肌で知ることになるであろう。

 地価公示価格から比準しているから正しいと主張しても、国交省は自分を守ってくれるものでは無い。

 裁判官から、

 「当部は、地価公示価格から比準した価格が正しいか正しくないかを求めている訳ではない。あなた自身の適正な判断による価格を求めているのである。」

と言われて、不動産鑑定士という職業とは何かを思い知るであろう。

 鑑定評価基準に則っているから間違い無いと云っても、鑑定評価基準に則れば全てが適正妥当な価格や賃料が求められるというものでも無かろう。

 不動産鑑定士は、全員、一度法廷での証人喚問を経験すべきであると私は思いたい。

 求めた新規賃料が適正であると主張するのであれば、積算賃料(求める手法を積算法という)のほかに、比準賃料(求める手法を賃貸事例比較法という)を求めて、2つの賃料より新規賃料を求めておかなければダメである。

 鑑定評価基準は、新規賃料を求める手法として、

     積算賃料
     比準賃料
          収益分析法

の3手法を明記している。

 収益分析法を新規賃料に入れているが、それは間違っている。
 収益分析法は、新規賃料でもなく継続賃料でもない。

 新規賃料、継続賃料の区分は、賃貸借契約が新規契約か、継続契約の違いによる分類によるものである。

 収益分析法は、賃貸借契約の新規契約か、継続契約の類型によって分類される賃料の手法でない。
 分類の性質を異にするものである。
 新規賃料にも継続賃料にも収益分析法は使用できる。

 それ故、収益分析法を新規賃料の分類に入れることは間違いであり、現行不動産鑑定評価基準は賃料評価の基準足り得ない基準と云うことになる。

 収益分析法は危険であるから、あまり使わない方が良い。
 その理由は、純収益の経営に属する配分利益の求め方が未だ確立しておらず、経営配分利益の配分額の大小によって、求める賃料が大きく異なってしまうことからである。

 収益分析法を使用する時には、経営配分利益の配分方法は、しっかりした合理的根拠のある求め方で行う必要がある。

 純収益から経営配分を行わず、つまり経営配分利益はゼロとして、他の配分利益もゼロとして、得られた純収益(営業利益)を全て不動産の配分利益とし、それを賃料として求めていた鑑定書に出会った。

 企業の営業利益=家賃という考え方である。
 無茶苦茶である。

 また、同手法は、純収益がなければ、収益賃料はゼロになるという構造的欠陥を有している。
 
 赤字企業を黒字に修正して、収益分析法によって賃料を求めていた鑑定書に出会ったが、手法の適用そのものが間違っているであろう。


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  鑑定コラム1074)「収益分析法の純収益は営業利益ではないのか」

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