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1865)女性不動産鑑定士第一号の平松宏子氏の死を悼む

 女性不動産鑑定士の第一号の平松宏子氏が、2018年10月20日に亡くなられた。その死を悼む。

 平松氏は、女性不動産鑑定士の第一号となられ、女性の不動産鑑定士業界の進出に大きな道を開かれた。公職にも就かれ不動産鑑定士の存在を広め、活躍された。

 現在不動産鑑定業界には多くの女性の方が活躍されている。裁判所の鑑定委員、調停委員にも女性の不動産鑑定士がいる。裁判官の補助的存在の司法委員までなられている女性の不動産鑑定士もおられる。

 不動産鑑定業界の団体である日本不動産鑑定士協会連合会の会長に女性がなられるまでになっている。

 女性不動産鑑定士第一号誕生のニュースは、日本経済新聞の一面全部を占めて取り上げられた。

 私もそれで知ったのであるが、仕事の関係で当時平松氏の上司であられた三菱信託銀行の不動産鑑定部長の森本浩通不動産鑑定士にお会いした時に、おめでとうございますと話掛けたところ、森本氏は我が娘が合格したごとく喜ばれたことを思い出す。

 その後平松氏は、女性不動産鑑定士のグループである「鑑(かがみ)の会」の代表となられ、私もその会の総会に呼ばれ、講演を行った。

 そのことについては、鑑定コラム78)「鑑の会」で記している。一読していただければ幸いである。

 そのコラムの中で、私は「新規賃料の期待利回りと利回り法の継続賃料利回りは無関係ではなく、この両利回りの関係を考えずに賃料評価すると大やけどをする」と述べている。

 このコラム記事は、2002年12月19日に発表されている。今から16年前である。

 その頃の鑑定基準(旧基準)の利回り法の継続賃料利回りの総合考慮事項は、「契約締結時及びその後の各賃料改定時の利回り、基礎価格の変動の程度、近隣地域もしくは同一需給圏内の類似地域等における対象不動産と類似の不動産の賃貸借等の事例又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃貸借等の事例における利回り」となっていた。
 
 当該不動産の新規賃料の期待利回りについては、全く無関心であり、それを全く考えていなかった。

 つまり、鑑定基準は、新規賃料と継続賃料とは、別物であるごとく全く無関係であると考え、またその様に解釈して継続賃料を求めることを要求していた。

 これに対して私は、継続賃料は新規賃料があって存在するのであり、新規賃料と無関係ではない。両賃料の関係をつなぐものは、期待利回りと継続賃料利回りであり、両賃料は密接に関係しており、新規賃料の期待利回りを考えて継続賃料利回りを決定すべきであると主張していた。この考え方は今でも変わらない。

 この考え方を、「鑑の会」の講話の中で述べている。

 この私の考え方に対して、少なからずの不動産鑑定士が、「田原鑑定は鑑定基準が認めていない新規賃料の期待利回りを継続賃料に持ち込んで利回りを決定しており、鑑定基準違反であり、不当鑑定である」と意見書を裁判所に提出し、その意見書を基にして相手側代理人弁護士は、法廷で或いは準備書面で私の賃料鑑定を不当鑑定であると激しく攻撃して来た。

 そして平成26年5月に不動産鑑定基準が改正された。現在施行されている鑑定基準である。

 その改正基準の利回り法の継続賃料利回りの総合考慮事項は、次のごとくなる。

 「継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、期待利回り、契約締結時及びその後の各賃料改訂時の利回り、基礎価格の変動の程度、近隣地域もしくは同一需給圏内の類似地域等における・・・・・・」(平成26年改正鑑定基準国交省版P34)

 平成26年5月の改正基準は、継続賃料利回りの総合考慮事項の筆頭に「期待利回り」を新しく挿入して来た。

 期待利回りとは、新規賃料を求める時の利回りである。

 つまり、継続賃料利回り決定において、その不動産の継続賃料利回りは新規賃料の期待利回りを考慮せよと鑑定基準は変更されたのである。

 さんざん私の考え方を、「間違いである」、「鑑定基準違反である」、「不当鑑定である」と批判しておいて、何の連絡もなしに、私の考えをこっそりと鑑定基準に潜り込ませて基準を変更している。

 甚だ腹立たしいが。

 平松宏子氏が主宰した「鑑の会」を思いだして、継続賃料利回りについての私の腹立たしさを述べたが、平松宏子氏は許して下さるであろう。

 平松宏子氏のご冥福を祈る。


  鑑定コラム78)
「鑑の会」


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