○鑑定コラム
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元社団法人日本不動産鑑定協会会長の横須賀博氏が、2019年10月3日に亡くなられた。94歳であった。
横須賀博氏は、日本不動産鑑定協会東京会の会長から、全国会の日本不動産鑑定協会(現公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会)の6代目の会長になられた。
同会長を2期(2003年6月〜2007年6月)勤められた。
横須賀博氏の功績は、個人不動産鑑定業者として初めて全国会の日本不動産鑑定協会の会長になられたことである。
そして私が高く評価するのは、地代の事例が分からない時に、税理士事務所の代表であることもあって、日税不動産鑑定士会という団体を設立し、継続地代の事例を3年毎に収集し、その収集した事例の分析を『継続地代の実態調べ』の報告書としてまとめ発表し続けられたことである。
東京の継続地代の鑑定評価が、この報告書によってどれだけ助けられていることか。
横須賀博氏が、日本不動産鑑定協会の会長選挙に立候補すると知り、それに個人として勝手に協力した。
横須賀氏の力があり、横須賀氏は会長に当選した。
2期目の会長をやりたいということを聞き、横須賀氏の会長は個人不動産鑑定業者が初めて日本不動産鑑定協会の会長になったというシンボル的なものであること、加えて齢であることから、会長1期で充分であり、他の若い個人不動産鑑定業者に会長席を譲るべきとの考えから、他の人の擁立に私は動いた。それをきっかけに横須賀博氏とは疎遠になった。
横須賀氏の会長選挙の応援の模様を鑑定コラム97)に記している。それを下記に転載する。
****
97)「後年に、インターネットの会長選と言われよう」
不動産鑑定士の業界団体として、社団法人日本不動産鑑定協会というものがある。
その会長選挙戦が1ヶ月に渡ってくり広げられ、昨日(2003.4.4)投票の開票が行われた。
不動産鑑定士業界誕生後、約40年にして初めて個人不動産鑑定業者である不動産鑑定士が、新会長に選出された。
不動産鑑定協会の歴史に残る一瞬であった。
会長選挙の結果は、
横須賀博 2194票
安藝哲郎 1911票
であった。
横須賀博氏は、横須賀不動産鑑定事務所を開業されている個人不動産鑑定士である。東京会の会長を務め、鑑定協会の副会長もやられたが、しばらく役職から遠ざかっておられていた。
安藝哲郎氏は東急不動産の会長であり、不動産鑑定協会の現会長で3期6年に渡る。
現職絶対有利と言われる中、横須賀博先生が何の組織も持たず無党派で会長選挙に立候補された。
先を見る洞察力の確かさは、東京会の会長時代からの実績を見れば明らかである。行動力もある。この人を除いて、現在大手と呼ばれる信託銀行、名だたる不動産会社からの会長立候補者に勝てる人は居ないと判断し、横須賀先生を担ごうと判断した。
無党派だから自分一人で勝手に横須賀博を推薦する推薦者になって、私の出来る範囲で応援する事にした。
多くない知り合いの不動産鑑定士にメルマガを配信していることから、このインターネットを使って選挙応援し、大手独占の会長職に風穴をあけて、一泡蒸かせてやれと大胆にも挑戦を試みた。インターネットの力を無視して、選挙は出来ないということを見せつけてやれという気もあった。
2年間近く私がメルマガを配信している多くない不動産鑑定士に、配信した横須賀先生推薦のメルマガを、それぞれの知り合いの不動産鑑定士に転送してくれるように頼んだ。
メルマガを受け取っている不動産鑑定士が全員横須賀先生を支持する人とは限らない。だいいち横須賀先生を知らない人の方が多い。又転送する事によって自分がどっちを応援しているのかがはっきりと分かってしまい、それによる損得を計算するのは日本人の心の中に必ずあり、態度を明確にしたがらないものである。
しかし、長い私とのつきあいのあるメルマガ配信の不動産鑑定士は、私の希望を受け入れてくれ、積極的に協力してくれた。
「転送を了解した」という返事のみならず、20人、30人に転送したというメールの返事が飛び込んできた。ありがたいことである。
メルマガ配信した当初は、「田原、大手とやり合っても勝てっこ無いから止めとけ。評判を落として悪者になるだけだぞ」と忠告してくれる不動産鑑定士もいた。
しかし、鑑定歴30年やってきていて、今更いい子面しょうとしてどうなるのだ。東急不動産や、或いは自分は大手とやらと思っている人々からにらまれたからといってどうなんだ。所詮そこに勤めている不動産鑑定士も、定年になれば同じ一人の不動産鑑定士になるのでは無いのか。大会社・銀行をバックに存在しているに過ぎないであろう。バックが無くなったらどうなんだ。私を悪く言いたければ言えばよい、と。
まさに開き直りの自分の性格そのものの姿勢でメール選挙を展開した。
ネットの選挙応援がどれほどの効果があったか分からない。
ある人は「田原のメルマガの与えた影響は大きい」といって持ち上げてくれた。
又、インターネットに強い若い不動産鑑定士は「東急不動産は何故負けたのか分からないのではないのか」と言い得て妙なることを言う。
私一人が横須賀先生を担いだ訳では無い。多くの不動産鑑定士がそれぞれ動いて結果を導いてくれた。私はその中の一部にしか過ぎない。
ただ不動産鑑定協会の歴史に残る、大きな方向転換になるであろう機会を作ることに参加出来たことに、人生の喜びを感じる。
横須賀博会長当選の報を聞いた時は、身震いし、涙が出てきた。
横須賀先生から「田原、協力有り難う」の電話が入った時は、涙が出て、声が詰まり「おめでとうございます」の言葉すらまともに言えなかった。
安藝会長は選挙に敗れたとはいえ、私は尊敬している。
私のホームページの『鑑定コラム』の「東急文化会館」の記事の中で、氏の都市の賑わいとは何かというしっかりした考え方を持って、渋谷の街づくりに取り組まれた功績に敬意を表している。
安藝会長の番頭格の大野和夫先生は、不動産鑑定業界においては宅地見込地の評価の第一人者であり、その知識については私は足下にも及ばなく、尊敬している。
選挙に敗れたからといって、大野和夫先生の宅地見込地の鑑定における不動産鑑定業界への貢献の評価が下がるものではない。
会長選挙中に4本のメルマガを流したが、そのうちの一つを原文のまま、下記に掲載する。
***
『後年に、インターネットの会長選と言われよう』
鑑定協会の会長に横須賀博先生を推薦する者として、メルマガを送信致します。一読して頂ければと思います。
鑑定業界以外の人からこんな質問を受けた。
一つは、「弁護士会会長、公認会計士協会会長が選挙で決まると、新聞に新会長を伝えるが、鑑定協会の会長が決まっても新聞は伝えていたという記憶が無いが、これはどうしたことか。」
二つは、「初代会長を除いて、同じ信託銀行、同じ不動産会社の人が交互に会長になっているが、何かそうしたルールがあるのですか。信託銀行は金融を本業としている企業でしょう。不動産会社はデベロッパーであり、不動産仲介を本業としている企業でしょう。どうして不動産鑑定を本業とする不動産鑑定士が協会のトップにならないのですか。」
三つは、「大手不動産会社、信託銀行等に勤めていても、いずれ退職して資格を持っていること故に自分で鑑定業を開業するわけでしょう。大企業に勤めていても、個人開業していても、どの職場にあっても、不動産鑑定士としての独立性を各人は持っているのでは無いのですか。それ故に不動産鑑定士の資格に誇りを持っているのでは無いのですか」
四つは、「田原さん収入はどうなんですか。ここ6年間収入は増えていますか」と。
一つ目の質問には、新聞に大きく報じられたのを確かに見たことは無い。どうしてか私には分からない。
二つ目の質問には、そんなルールなど無いと思うが、指摘されれば確かにそうなっている。偶然の一致か。過去ずっと、私は不動産鑑定専業の不動産鑑定士が協会のトップになることを望んできた。今も望んでいる。それは自由業として同じ目線で不動産鑑定士の考え、悩みを分かってもらえるからと考えるからである。
三つ目は不動産鑑定士としての独立性を無くしたら、何が残ると聞き返した。
四つ目の質問はきつい質問である。鑑定報酬料の売上は下がり放しである。一件当たりの報酬料はドンドン安くなり、仕事は減るというダブルパンチで少しも良いことは無い。何とかしてくれというのが本音である。
過日ゴルフ場の価格の訴訟で、裁判所が公認会計士を鑑定人に選任し、公認会計士の作成したゴルフ場の価格の鑑定書に出くわした。
訴訟代理人の弁護士にその理由を聞いたところ、「不動産鑑定士ではゴルフ場のまともな市場価格を判定することが出来ないと思われるから、不動産鑑定士に頼まなかった」と回答された。
その様なことは無い。不動産鑑定士の中にもまともにゴルフ場の市場価格評価をすることの出来る人はいると詳しく説明した。
公認会計士のゴルフ場の市場価格の把握の仕方があまりにも、ひどすぎる内容であったため、代理人弁護士は裁判官に特別代理人を認めてくれる様に申請し、私を特別代理人に裁判所は認めてくれ、証人尋問することを許可してくれた。
法廷の代理人席に弁護士と共に座り、私は代理人弁護士に代わって、証人台に立つ鑑定人である公認会計士に対して、その作成した鑑定書の内容を鋭く質問し、内容の不合理性、矛盾、考えのおかしさを指摘した。今迄の逆の立場に私はなった。
ゴルフ場の価格をどうして公認会計士が鑑定するまでに世間が許す様になってしまったのか。弁護士に不動産鑑定士ではまともな評価をすることが出来ないと思いこませるとは、不動産鑑定士は一体何をしていたのだといいたくなる。
ある不動産鑑定士が私にこんな質問をしてきた。
「田原さん。どうして横須賀先生をそんなに応援するのですか。何か特別な理由があるのですか」と。
私は横須賀博先生とは師弟関係でもなく、仕事の紹介を受けたということも一切無い。つきあいもそれほど長くない。
ただ一つの理由は、裁判所の鑑定で私の鑑定書が横須賀先生の目にたまたま止まったのか知らないが、私の能力と存在を認めて下さった。ただその恩返しという気持ち以外何もない。
鑑定協会の指導者になれるカリスマ性、統率力、的確な判断力、先を見る洞察力そして行動力がある人と私は見る人が、無党派で会長に立候補し、鑑定協会の改革、山積する問題の解決、業務の拡大に真剣に取り組み、残りの人生を賭けて会長になろうと聞けば、それをどうして冷ややかに見ていられよう。また、俺には関係無いよと言って傍観していられよう。
世はまさにインターネットの時代に入っている。
韓国の大統領選は、インターネット世代によって選ばれたと言われている。
大会社の看板や組織票集めによるごとくの従来の会長選挙でなく、不動産鑑定士・不動産鑑定士補の自由で独立した意志によって会長を選びたい。
月に一度程度しか鑑定協会に在会しない人を会長に選んで、我等の会長だと喜んでいる余裕など我々不動産鑑定士には無い。
毎日、鑑定協会に顔を出され、我々と同じ目線で鑑定を考え、悩みを知り、問題が生じた時はすぐ対処して下さる人こそ会長になってもらいたい。
「自分達の会長は自分達で選ぶ」
インターネットによれば、それが出来る。
現在、それを実行出来る時に、歴史を作る時に自分達はいるのである。こんなチャンスをみすみす見逃す事は無い。
後年になって、2003年の会長選挙はインターネットが会長を選び、鑑定業界を変えたと言わさせよう。
<<お願い>>
主旨に賛同される方は、このメールを多くの人に転送して、又転送を受けて賛同した人は自分の知り合いの不動産鑑定士・不動産鑑定士補に伝えるというごとく、支持の輪を拡げることを強く願います。インターネットの力で自分達の会長を選ぼう。
横須賀先生の考え方をより知りたい人は、メールで質問して下さい。
メールアドレスは、
yokosuka@(省略).jp
です。
*
選挙管理委員会には、この推薦文は前もって届けてあります。
平成15年3月20日
横須賀博を会長に勝手に推薦する推薦者・責任者
不動産鑑定士 田原拓治
住所 (省略)
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このコラム97)を読むと、16年前の自分の姿が鮮やかに想い出される。
16年前に横須賀氏を会長にと一票を入れて下さった方々に、ここで改めて感謝します。
横須賀博氏のご冥福を祈る。
鑑定コラム97)「後年に、インターネットの会長選と言われよう」
鑑定コラム134)「鑑定協会会長の迅速な対応に感謝する」
鑑定コラム89)「関東甲信会の認定研修会の講演」
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