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201)使い捨てライター東海の会社売買

 伊藤忠エネクス鰍ェ子会社の「株式会社東海」を売却した。(伊藤忠エネクスHPプレスリリース 2004年12月17日)

 伊藤忠エネクスは、所有する東海の株式の78.25%を、米国ライター販売大手のキャリコを傘下に持つ米国のミングマネジメント社に売却した。経営の合理化と戦略事業への経営集中に依る売却行為である。

 売却額は約100億円という。

 この売却に依って伊藤忠エネクスは、約90億円の売却損が発生するが、それは特別損失として計上して処理するという。

 株式会社東海は使い捨てライターの製造メーカーである。
 たばこを吸う人にとっては、極めてなじみのある会社である。
 製品は、「使い捨てライター」の名前のごとく、道ばたにも捨ててあるのを良く見かける。

 年間売上高は194億円(2004年3月期)である。
 2年連続赤字で、2004年3月期の損失は10.7億円である。

 株式会社東海は一度倒産した会社である。
 会社更生法の適用を受けて、1997年に伊藤忠エネクスが、会社更生を引き受け東海の株式を取得した。
 3年後の2000年に裁判所から更生会社の手続き終了の決定を受け、更生した会社である。

 順調に会社経営が行くものと思っていたら、2003年より再び赤字に転落し、2004年も赤字決算となった。
 2期連続の赤字で、ついに会社更生を行ってきた大株主の伊藤忠エネクスは、所有する全株式を手放して、会社売買になったのである。

 伊藤忠エネクスは、更生会社の手続き終了して黒字経営になった2000年、或いは2001年に何故、東海の株式を手放さなかったのであろうか。
 2年連続の赤字になった時点で手放す事に、いささか疑問が生じる。

 企業再生を手がける会社の手法は、赤字企業、倒産企業を安く買い、経営の改善を行って収益を上げて黒字化し、上場して多額の上場利益を得るか、あるいは転売して利益を得るのである。

 しかるに伊藤忠エネクスの場合、100億円で東海を売却しても、なお90億円の売却損が生じるという。
 一体、伊藤忠エネクスはいくらの金額で倒産した東海を購入したのであろうか。
 2003年、2004年の2年間通期の赤字は10.7億円であるから、
     100億円+90億円−10.7億円=179.3億円≒180億円
と求められる。

 更生会社当時の東海の売上高がいくらか知らないが、2004年3月期と同程度であったとすると、
     194億円×0.7825=151.8億円≒152億円
152億円が購入時に対応する売上高ということになる。

 152億円の売り上げの会社を180億円で購入した事になる。
 信じがたい事であるが、プレスリリースの数値から類推して分析すると、そういうことになる。全く理解しがたい事である。

 工場を売上高の金額で購入したら、私の鑑定評価の経験から判断すると、企業経営は成り立たなく、失敗するのは100%の割合で高い。
 工場の企業売買は、製品売上高の20%以下で行うのが、私が分析する工場の評価価格原則である。まして倒産した企業であれば、それ以下の金額になる可能性はある。

 もし、伊藤忠エネクスが売上高の20%で東海を購入していたとすれば、
     152億円×0.2=30.4億円
である。
 今回の100億円の売却となれば、
     100億円÷30.4億円≒3.29倍
となる。

 7年間で3.29倍であるから、年間利益率は、
     (1+X)の7乗=3.29
          X=0.185≒0.19
年率19%である。

 この高利益率こそが、再建フアンド、企業再建ビジネス会社がねらっている利益率である。15〜25%の利益率を、それら会社は現実に実現しているのである。

 プレスリリースの内容の範囲で推定すれば、伊藤忠エネクスの更生会社の買収価格は甚だ高かったため、得べかりし利益相当が、逆に損失となってしまった。
 しかし、今更それを言っても、又悔やんでも仕方がない。
 高い授業料を支払ったと思い、今後この経験を生かしてM&Aを行えばよい。

 だが見方を変えて考えると、90億円の損失を出したけれども、売上高194億円で、2期連続赤字の会社を100億円で売却出来たことは、売却側としては大成功の売却金額と私には思える。

    100億円÷194億円≒0.5

 売上高の0.5倍の金額で売却出来たのである。
 0.2の割合が経済経験則の価格割合と考えれば、大変な高額な金額である。

 購入したミングマネジメント社は、全世界に販売網を持つ傘下のキャリコ社の製造拡大、販売拡大を狙って購入したものと思われる。
 それであっても、売上高の半値の価格である。
 売上高を超えた金額でも無く、同額程度の購入価格でもない。アメリカの企業経営者は、工場企業を売上高程度の金額では買わないと言える事になる。

 東海という会社の100億円の購入価格は、キャリコ社の販売拡大を目的として、やや買い進んだ価格と思われるが、もう一つ大きな購入目的が潜んでいるのでは無いかと私には思われる。

 タバコの健康影響が世界的に叫ばれており、ライターは先行き大きな市場の拡大は望めない。逆に縮小する可能性がある。
 そうした状況の中で、売上高の半分の価格を出してまでして、東海の会社を何故購入したのか。

 日立制作所は2003年に携帯機器向け直接型メタノール燃料電池の燃料補給機器の開発を加速するとプレスリリースした。(日立製作所HPプレスリリース 2003年12月10日)

 そのメタノール燃料電池の燃料補給器のカートリッジ方式に、鞄穴Cの使い捨てライターの製品機器に目をつけた。
 燃料電池の実用化に向けて鞄穴Cと日立製作所は共同開発することに合意した。

 カートリッジに詰め込んだメタノール水溶液から水素を取り出して発電するのである。
 乾電池に代用される超小型の燃料電池の商品の出現である。
 それは携帯パソコン、携帯電話、ラジオ等とあらゆる電気機器に使用出来ることになる。

 日本の企業の中にあって、博士号を持っている社員が最も多い会社と言われる日立製作所である。石を投げれば博士に当たると聞く。その博士技術者が、東海のデポジットカートリッジと小型燃料電池を結びつけたのである。
 逆に言えば、日立製作所ですら作れない技術を、東海はデポジットカートリッジに持っていたのである。

 東海を100億円で購入した米企業は、この日立製作所が目をつけた燃料電池の容器の技術力を計算して、東海という会社を買ったのかもしれない。

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 鑑定コラム56)  「古河電工のアメリカ工場買収」

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