喫茶店の継続賃料の鑑定評価書を見せられた。
賃料の値上げは、最もらしい理由がつけられているが、ビル所有会社の他の事業の業績が芳しくない為に、所有ビルの賃料を値上げして利益を確保しょうとする意図が透けて見える賃料値上げ要求である。
その様な賃料値上げ理由は、借地借家法の賃料値上げの構成要件を満足させるものではないことから、賃料の増額請求の正当性の理由は無く、提訴しても却下されるべきものと私は考えるが。
ビル所有者の台所事情の意向をくんでいるのか、家主側より提出された家賃鑑定書は甚だ疑問のある内容のものである。
賃貸事例比較法、スライド法、収益分析法の3つの手法を行い、収益分析法による賃料を中心にして継続賃料が決定されていた。
収益分析法による賃料分析を果敢に行って、その賃料を中心にして継続賃料を決定する勇気には敬服・感心するが、求められた過程・結果にはいささか首をかしげたくなるものであった。
売上高について、店舗を借りて喫茶店を経営している当人に、
「鑑定書に書かれている売上高は合っていますか。」
と聞いたところ、
「全く合っていません。全然違います。どこか別の喫茶店の売上高のようです。経費項目の割合も対象店舗のものではありません。」
という。
どこか余所の喫茶店の売上高や経費項目の割合を持ってきて、得られた利益を対象店舗の営業利益としている。
営業利益率は売上高の約56%程度とする。
そこより、どこかの雑誌に発表されていた経営配分利益率を30%として控除し、臨時の人件費等を控除して、残りを不動産の配分利益とし、売上高の28%を不動産配分利益、すなわち家賃と求めている。 純収益の28%では無く、売上高の28%である。
平方メートル当り12,000円程度の賃料とする。
収益分析法は当該店舗の売上高で分析するのが原則である。
たとえ店舗の規模面積が同じ程度であるといっても、余所の店舗の売上高を持ってきて収益分析法を行う事は、鑑定手法として根本的に間違っている。
営業利益のうち、資本への配分利益が行われていなかった。
資本配分利益はどこに行ってしまったのだろうか。
借主であり、喫茶店経営者である依頼人に、私は、
「貸主の提出した家賃の鑑定書は、売上高の28%の家賃が適正とするものですょ。」
と鑑定書を見ながら説明した。
直感的に馬鹿高い家賃と感じているだけの借主の喫茶店経営者は、不動産鑑定書など今迄見たことも無い。難しい事が書いてあるから内容が理解出来なく不動産鑑定書を読みこなせない。
しかし、私が上のごとく説明してやったところ、喫茶店経営者はびっくりしてしまった。
依頼人である喫茶店経営者は、他にも喫茶店を経営しており、経営歴約30年以上の企業人である。
その経営者が次のごとく述べた。
「とんでもない。そんな割合の家賃を支払っていたら、喫茶店経営などできっこない。
アッという間に赤字経営になってしまい、倒産してしまう。
そんな賃料がどうして適正だと求められるのですか。
その不動産鑑定士は喫茶店経営のプロでもあるのでしょうか。」
という。
当該賃貸借契約書には、売上高がある金額を超えたら、その超えた部分に対して7%程度の金額を支払うという歩合家賃も明記されていた。
つまり、貸主は喫茶店の店舗家賃は、売上高の7%程度と理解しているのである。
そんな所に、売上高の28%が喫茶店の家賃であるという不動産鑑定書を不動産鑑定士が書いてくれたのであるから、家賃値上げをもくろむ貸主は大喜びである。
仮に当の不動産鑑定士に、
「鑑定評価額がおかしいのでは無いのか。不当鑑定に相当しますょ。」
と問えば、おそらく100%の割合に近く、
「私は良心に従って誠実に鑑定しております。求めた家賃は適正な鑑定評価額です。」
と返答するであろう。
そう言えば、不動産鑑定士は専門家としての責任が全て免責されると思いこんでいる節がある。
喫茶店の家賃は売上高の28%が適正な家賃水準であろうか。
私はいささかおかしい家賃評価と判断するが。
私は不動産鑑定実務理論雑誌『Evaluation』創刊号p42の「売上高に対する家賃割合」の論文(清文社2000年8月)で、店舗家賃の売上高と家賃割合について分析結果を述べている。
「飲食店の家賃割合は売上高の10〜12%」と巷間言われている割合を、
レストラン 11.1% 中華料理 10.4% そばうどん 13.0% 鮨 10.7%と分析発表し、巷間言われている割合を実証証明した。