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2076)まさか遠隔講義をすることになるとは

 2020年前期の大学の授業が始まった。

 例年では、大学校舎での対面授業である。階段教室で100名余の学生に、不動産鑑定評価を講義する。

 しかし、今年(2020年)の4月からの大学の講義は様変わりである。

 中国武漢で発生した新型コロナウイルスの感染症拡大により、日本国内に非常事態宣言が出され、大学も非外出の対象になった。学生は自宅、寄宿先待機となった。

 大学での対面授業が出来なくなってしまった。といって、学生に対する教育を放置しておくことは出来ない。

 講義単位に相当する授業は行わなければならない。どういう授業にするかとなれば、インターネットを使った遠隔授業にならざるを得ない。

 教官は自宅勤務であり、遠隔授業(講義)にして下さいと大学の学務部から要請があった。

 ネットによる授業で、大学から4つの方法を提示された。

 授業時間と同時に行う同期のネット授業が2つ、非同期のネット授業が2つである。どれを採用するのかは教官の選択である。

 ユーチューブを使い学生と画像と音声を同時にやりとりする方法はあったが、とても私には使いこなす事は出来ない。

 非同期の設問のついた教材を作りあげ、それをPDFにして大学のホームページに載せ、学生はそれを読み、設問の回答をメールで大学に返送するという方式があり、私はそれを採用した。

 大学のホームページは充実しており、全学生にメールアドレスが付けられており、連絡は全て、大学のホームページを通じて行われている。

 遠隔授業は、大学のそのホームページを介して行う事になる。

 昨年までは90分授業であったが、今年からは100分授業になった。

 100分授業に耐える教材を作りあげるのは大変である。論文を書きあげるのと労力は何等変わりない。それ以上かもしれない。

 4月23日が最初の講義日である。何とか教材は作りあげた。

 大学のホームページにアップすることは、不慣れであったが、大学教務の人にメールで教えてもらいながら、何とか講義の前日の夜までに終える事が出来た。

 今はまだ1回目の講義用の教材しか作りあげていないが、前期は不動産価格の求め方、後期は地代家賃の賃料の求め方の講義を予定していることから、毎回毎回作成する全講義の教材テキストをまとめれば、不動産鑑定評価の1冊の本になるのでは無かろうか。

 まさかネットによる遠隔講義をやることになるとは、大学の教官を引き受ける時には思いもよらなかった。

 不動産鑑定講義の第1回であり、成績判断、講義の進め方等を述べ、不動産鑑定評価とはどういうものか、どの様な所に不動産鑑定評価は使われているのかの説明をしなければならない。

 今迄は、それは教壇に立ち、口で述べていたが、遠隔講義では、文章で記さねばならない。

 不動産鑑定評価はどういう所に利用されているか知らない人も多いことから、第1回の講義の教材の一部を下記に記述する。

 まずは、最初の書き出しを記す。

 「@ はじめに
 2020年前期の講義は、遠隔講義で始まりました。対面講義で無く、学生の顔を見ることなく、講義を進める事に寂しさを感じますが、非常事態宣言が解除されれば、階段教室で顔を合わして講義できる事に成ります。」

 不動産鑑定評価の利用されていることについては、下記である。

 「6.不動産鑑定評価はどういう所で利用されているか

 不動産鑑定評価は、人々の身近なところで利用されている。

 @ 売買
 不動産を売買する時に、適正価格を知るために不動産鑑定評価を行う。
 上場企業が、工場を建てるときとか、所有不動産を処分する時は、不動産鑑定を利用する。それは株主に対する説明責任が企業にあるためである。
  
 A 担保
 商売において銀行からお金を借りる場合、銀行は担保を要求する。その場合担保として最も有力なのが不動産である。その不動産が貸出金額の担保になる価値を有しているのか知るために、不動産鑑定評価が行われる。

 B 公共事業の用地買収
 道路の拡幅、小学校用地、高速道路、鉄道用地等の取得の場合、適正な対価による土地取得が法律で決められている。公権力による私有財産の侵害を防ぐ為である。その場合、不動産鑑定評価が行われる。この用地買収の価格の目安にするために、地価公示価格が毎年1月1時点の価格として公表されている。
 現在、東京と名古屋を結ぶJR東海のリニア中央新幹線のための用地買収が、東京〜名古屋間で行われ、この用地買収に不動産鑑定評価が行われている。被買収側も不動産鑑定を不動産鑑定士に依頼している。

 C 固定資産課税価格
 土地には固定資産税が毎年課税される。固定資産税は、地方公共団体に取っては有力な税収の1つである。町村に取っては税収の40〜50%を占める場合もある。
 その課税は公平でなければならない。その課税価格の適正さの為に不動産鑑定評価がなされている。

 D 相続財産
 親が死んだ場合、相続するには相続税が係る。不動産相続の場合も同じである。不動産の相続は金額がかさみむことから、あらかじめ相続税路線価が毎年発表されている。その路線価の評価に不動産鑑定評価が使用されている。

 E 地価公示価格
 毎年3月20日頃に、国土交通省より発表される全国の地価公示価格(その年の1月1日時点の価格)は、不動産鑑定士が評価している。この価格は公共事業用地の買収価格の指標になる価格であり、相続税路線価の価格、固定資産税課税標準価格決定の指標になる価格である。又土地取引の際の指標になる価格である。

 F 競売
 借入金が返済出来ない場合、担保提供していた不動産を処分して、債権債務を精算する。それは、債権者の抵当権の実行として担保不動産は、裁判所で競売に付される。この競売の最低競売価格を決める為に不動産鑑定評価が行われる。

 G 会社更生法、民事再生法による企業再生
 企業が事業に行き詰まり裁判所によって企業再生する場合、再生企業の所有する全不動差の価格が、不動産鑑定士によって評価される。本社、支所、営業所、工場、倉庫、社宅等日本全国にある全所有土地建物の価格が評価される。

 H 裁判での不動産価格、地代、家賃の争い
 裁判所での相続財産の配分に伴う親族の争い、地代の増減額の争い、家賃の増減額の争いにおいて、適正価格、適正地代、適正家賃の評価は、裁判所の指定鑑定人不動産鑑定士が行っている。地代、家賃の増減額の争いの場合、貸主、借主双方が適正賃料の不動産鑑定を行う場合が多い。

 I 明渡立退料
 建物の建替等賃借人がいる場合の明渡立退の適正な立退料については、不動産鑑定士が行っている。この場合は、賃貸人、賃借人双方で鑑定評価が行われる場合が多い。

 J 企業買収
 企業が新しい分野に進出する場合、企業買収して進出する場合が多い。その時、買収先の所有する全不動産を鑑定評価して、資産価値を把握する。

 K 不動産の証券化
 賃貸不動産の賃料を配当原資にして、賃貸不動産を不動産投資信託にして証券を発行し、多くの投資家に証券を小口販売する事業が出現した。Jリートと呼ばれる証券事業である。その賃貸不動産の適正価値は不動産鑑定士によって全て鑑定評価されている。三井不動産、三菱地所等大手の不動産会社は、自社の資本支配下のリート会社を持ち、賃貸ビルの市場を拡大している。
 事務所ビルに留まらず、店舗ビル、ショッピングセンター、ホテル、マンション、倉庫、貸地等に対象は広がっている。

 L 国有地、公有地の売払い
 国有地、公有地を売却する場合には、全て不動産鑑定評価して売り払いされている。」

 まだ他にも利用されている所があるが、上記程度の記述とした。

 課題回答のメールをもって出席とするとしたため、受講の学生の回答メールが、大学のホームページの私の受け持ち講義の個所にドンドン入ってくる。大学のホームページを利用したネット遠隔授業はまさしく機能している。

 しかし、学生の回答メールを開き読み、チェックするのも大変である。


  鑑定コラム2086)
「現在はどういう時期なのか(地価と国内総生産)」


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