210)不当鑑定の処分案についての国交省のパブリックコメント
国土交通省(担当・地価調査課)が、「不当な鑑定評価等に係わる処分の考え方」(以下処分案と呼ぶ)について監督官庁としての処分案を発表した。9頁に及ぶ処分案である。
処分案の内容については、国交省のホームページの「パブリックコメント」の項目を選択すれば公表されていますので、そちらで見て頂きたい。
この処分案に対して、国交省は国民にパプリックコメントを求めている。
パプリックコメントの期間は2005年3月22日から1ヶ月間である。
処分案の作成の目的は、国交省は「前書き」で概要、次のごとく述べている。
「『不動産の鑑定評価に関する法律』が改正され、従来の不動産鑑定評価のほかに、各種調査・コンサルタント等の隣接・周辺業務も不動産鑑定士の取り扱う業務になった。その改正法の施行を契機に、不当な不動産鑑定・隣接周辺業務について監督の考え方を周知し、不動産鑑定士の自律的な行動規範が形成されることを目的とする。」
という。
処分案は2つに分かれる。
不動産鑑定士等に対する懲戒処分と不動産鑑定業者に対する監督処分である。
不動産鑑定業者に対する監督処分は、相変わらずの大甘な処分案の内容である。
『不動産の鑑定評価に関する法律』が「業者法」であって「士法」でないと言われる由縁が色濃く残されている。この部分についてはいつか述べるとして、今回は、不動産鑑定士等に対する懲戒処分について述べる。
懲戒処分は不動産鑑定士等が作成した鑑定評価書その他報告書等について、「不当であるという疑義が呈された場合」において、その不当性が検討される。
そこには『不動産の鑑定評価に関する法律』の42条の措置請求の内容が引き継がれていることが伺われる。
同法42条は措置請求条項と呼ばれる。その条文内容は次の通りである。
「不動産鑑定士又は不動産鑑定士補が不動産鑑定業者の業務に関し不当な不動産の鑑定評価を行ったことを疑うに足りる事実があるときは、何人も、国土交通大臣又は当該不動産鑑定業者が登録を受けた都道府県知事に対して、資料を添えてその事実を報告し、適当な措置をとるべきことを求めることができる。」
不動産鑑定評価が「不当鑑定」と断定されなくとも、「不当鑑定ではないか」と不動産鑑定書を読んだ人が疑える事実があるだけで、誰でも懲戒処分の申し立てをすることが出来るのである。
これを今回の処分案は、「不当であるという疑義が呈された場合」と表現する。
不動産鑑定評価の場合には、下記3つの要因から不当性が検討される。
@ 実施方法の不当性
A 結果の不当性
B 故意の不当性
@の実施方法の不当性は、不当性か否かの判断の基準となるものは、『不動産鑑定評価基準』及び『通常の鑑定評価方法』であり、この2つの判断基準となるものからの逸脱、判断の誤りによって不当性か否かが判断される。
但し、全ての不動産鑑定評価の求め方が、現行の『不動産鑑定評価基準』に網羅されていない。そうした場合には、価格を求める過程の判断の合理性が問われることになる。
つまり鑑定基準或いは通常の鑑定評価方法に準拠していることは、それ自体が判断の合理性があると言うことであることから、言ってみれば問われるのは、専門家としての判断の合理性の有無ということになる。
Aの結果の不当性とは、鑑定評価の結果が価格時点において通常と考えられる価格水準と著しくかけ離れていることを言う。
処分案は具体的に次のごとく述べる。
「対象不動産の近傍に地価公示標準地、都道府県地価調査基準地が存する場合には、その価格とを比較し・・・・・(省略)価格時点において通常と考えられる価格水準との乖離の程度から判断する。」
地価公示価格は、一部政策的目的があると言う人もいるが、当該地域の「通常と考えられる価格水準」にあるものである。そうでなければ地価公示価格の存在価値など無い。
それ故、例えば、近くの類似する地価公示価格の2倍の土地価格評価を行った場合は、評価した2倍の土地価格が「通常と考えられる価格水準」とは認めがたく、その鑑定評価は不当鑑定になり、懲戒処分対象になるのでは無かろうか。
Bの故意の不当性とは、故意に不当な不動産鑑定評価を行った場合と、故意性は認められないが、専門家としての注意義務を怠って鑑定評価を行った場合の不当性を言う。
これら不当鑑定の処分として、故意でかつ実施の不当性、結果の不当性がいずれも大きい場合には登録の消除、相当の注意を怠った場合には最長6ヶ月の業務禁止処分が科される。
隣接周辺業務についても、価格についてとほぼ同様であるが、注書として処分案は次のごとく述べる。
「価額を表示することを主目的とした場合は、報告書等の表現等にかかわらず不動産鑑定評価の場合として扱う。」と。
不動産鑑定士は襟を正し、誠実に不動産鑑定評価に取り組むことが要求される。
調査報告書は、鑑定評価では無いから『不動産鑑定評価基準』に従う必要が無いと、うそぶきながら業務を行うことは許されないのである。
国土交通省が処分案について、パプリックコメントを広く国民から求めている。
未だ時間がある。コメントを国土交通省地価調査課に寄せられたい。
不当鑑定についての記事は、下記の鑑定コラムにも有ります。
鑑定コラム54)
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