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2533) 地価公示価格等と規準しない土地の不動産鑑定評価額は不適正であるとする判決

 東京オリンピック晴海選手村土地不当廉売事件の東京都側の土地価格の「調査報告書」(「不動産鑑定評価に関する法律」では、不動産鑑定評価書である)は、同選手村土地価格を求めるのに、地価公示価格との規準を全く行っていない。

 地価公示法によれば、地価公示区域にある土地価格を鑑定評価する時には、不動産鑑定士は、鑑定評価地と近隣若しくは類似地域にある地価公示価格と規準し無ければならないと、地価公示法8条は規程する。

 東京都側の調査報告書は、周辺にある地価公示価格との規準を行っていないことから、地価公示法8条違反である。

 地価公示法違反の土地価格を適正価格と認めることは出来ない。

 このことについて56ページにも及ぶ『東京地裁晴海選手村土地判決についての鑑定意見書』(以下「甲180号証」と呼ぶ)の中に書き、控訴審に証拠として私は提出した。

 東京都側は、甲180号証を証拠と認めることに対して猛烈に反対し、その抗弁書提出の為に公判を1回開き、それまでに抗弁書を提出し、それを見て裁判官は証拠採用か、不採用か決定するとした。

 その控訴審公判が2022年12月15日に開かれ、甲180号証を証拠として認めると裁判官は決定した。

 甲180号証では、東京都側の調査報告書は、地価公示法違反であると云うことに付いて下記のごとく論述している。

****


 調査報告書は、地価公示価格に全く触れていない。地価公示価格を無視して土地価格を求めている。

 調査報告書であって不動産鑑定評価では無いから、地価公示価格との規準及び均衡は必要無いという考え方であるかもしれないが、「不動産の鑑定評価に関する法律」2条は、不動産鑑定評価について、次の様に規程する。

「(定義)
第二条 この法律において「不動産の鑑定評価」とは、不動産(土地若しくは建物又はこれらに関する所有権以外の権利をいう。以下同じ。)の経済価値を判定し、その結果を価額に表示することをいう。」

 不動産鑑定評価とは、不動産の経済価値を判定し、その結果を価額に表示することと規程する。

 調査報告書は、開発法という手法を使って、13.39haの土地の経済価値を129億6千万円(u当り96,800円)と金額表示する。この判断行為はまぎれもなく不動産の鑑定評価であろう。

 対象地周辺にある地価公示価格、中央-3、中央5-13の116万円/u、164万円/uと、対象地の96,800円/uとの規準及び均衡をどの様に取ったのかが、不動産鑑定評価を行った不動産鑑定士に説明責任が問われることになる。

 開発法だけで求めた土地価格がどれ程適正であると主張しても、それは自分の主観的主張にしかならず、それを担保する客観的な価格はどこにも表示されていない。適正を担保する価格がないものを適正と客観的に認めることは出来ない。不適正な価格と判断せざるを得ないということになる。

 加えて、地価公示価格を全く無視した鑑定書では、尚更、不適正な鑑定評価と判断せざるを得ない。

 調査報告書は、明白な地価公示法違反の鑑定評価である。

 それを法律違反の鑑定評価を適正であるとしている一審判決は、確実に裁判所の信用を低下させた。

 裁判官の信頼も大きく毀損した。一審裁判官は全く不動産の価格について疎く、不動産鑑定評価というものについての知識が無いと云うことを、世間に知らしめてしまった。

 本件の一審判決は、地価公示法違反を知らずに判決しており失当である。

****


 引用終わり。

 1審判決は、地価公示法違反の不動産鑑定評価の土地価格を適正と判断した。

 この判断は間違いであると主張しても、それが間違いであるという判決の証拠があるのかという反論が当然なされる。

 土地価格を求めるに、地価公示価格との規準をしていない土地価格は無効という判例はないものか。

 それが一つでもあれば、地価公示価格と規準しない鑑定評価を適正とする判決は判例違反と云える証拠となる。

 そうした判例は無いものかとネットで調べた。

 ネットで検索用語を幾つか変えて検索していたところ、一つの判例が見つかった。

 東京地裁の判例である。相続税にからむ不動産鑑定評価で、地価公示区域にあるにも係わらず、地価公示価格等との規準を行わない不動産鑑定評価の土地価格を不適正と退けた判決であった。

 地価公示価格等と「等」がつくが、「等」は、都道府県が行う基準地の基準地価格を云う。

 晴海選手村土地の場合、道路反対側に価格時点(平成28年4月1日)には、基準地が設定されており、基準地価格が発表されていた。現在は地価公示地になっている。

 判例を見つけた時は嬉しかった。

 万一、控訴審で負けても最高裁に上告出来る理由が見つかった。控訴審が東京オリンピック晴海選手村土地不当廉売事件をどう判断するか分からないが、上告の理由がまず見つかった。
 
 土地価格の鑑定評価で、地価公示価格等と規準しなくて求めた土地価格が適正であると云う主張を退けた判決は、「井上幹康税理士不動産鑑定士事務所」(さいたま市中央区上落合2丁目3-2)のホームページ(http://mikiyasuzeirishi.com/)であった。

 ホームページの記事の題は「公示価格等を規準とした価格査定していない不動産鑑定評価額に基づき相続申告し、その鑑定評価のクオリティが問題視された事例(東京地裁H30.3.13判決)」という記事であった。

 アドレスは、
   http://mikiyasuzeirishi.com/2020/06/25/real-estate-20/
である。

 (アドレスをドラッグコピーして、自分宛のメールにアドレスをコピー貼り付けして、自分宛にメールを送信して、自分宛に来たメールの中の青字等カラー文字のアドレスをクリックすれば、繋がります。)

 「井上幹康税理士不動産鑑定士事務所」のホームページが紹介する平成30年3月13日の東京地裁の判決は次のごとく述べている。

 「地価公示法2条1項の公示区域において土地の正常価格を求めるときは、公示価格を基準としなければならない」と定め、地価公示法8条は、不動産鑑定士は、公示区或内の土地について鑑定評価を行う場合において、当該土地の正常な価格を求めるときは、公示価格を規準としなければならない旨定める(公示価格を基準とするとは、対象土地の価格を求めるに際して、当該対象土地とこれに類似する利用価値を有すると認められる1又は2以上の標準地との位置、地積、環境等の土地の客観的価値に作用する諸要因についての比較を行ない、その結果に基づき、当該標準値の公示価格と当該対象土地の価格との間に均衡を保たせることをいう。同法11条)。

 本件鑑定評価書においては、地価公示価格等による規準価格について、地価公示地等は戸建住宅が建築できる土地である一方、本件1土地は用途が工場に限定される土地であり、戸建住宅と工場では、需要者の属性や市場参加者の数等が著しく異なり、両者の比較が困難であることから、適用しないこととされている。

 しかし、本件1土地の近隣には、主な用途を工業地とする基準地「■■■■■■」が存在しており、本件鑑定評価書における上記の説明は了解し難い(同「■■■■■■」の基準地価格は2万4600円/uとされており、本件取引事例1ないし4における価額はこれと比べて著しく低廉である。)」

 判例の出典は、「東京地裁H30.3.13判決TAINS:Z888−2202 裁判所の判断部分より抜粋」と記されている。

 この事件は「税務訴訟資料 第268号−26(順号13131)」に掲載されている事件では無かろうかと思われる。

 判例のアドレスは

 https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2018/pdf/13131.pdf

である。

 判決は、

 「本件鑑定評価書においては、地価公示価格等による規準価格について・・・・・・両者の比較が困難であることから、適用しないこととされている。

 しかし、本件1土地の近隣には、主な用途を工業地とする基準地「■■■■■■」が存在しており、本件鑑定評価書における上記の説明は了解し難い」

と述べ、地価公示価格等と規準しない不動産鑑定評価額を不適正とする。

 地価公示価格等があるにもかかわらず、その地価公示価格等と規準しない不動産鑑定評価額は不適正と判断して、敗訴とした判決例である。

 晴海選手村土地不当廉売事件の東京都側の土地価格の調査報告書は、北側道路反対側の至近に基準地価格があるにもかかわらず、その価格を完全に無視し、周辺に地価公示価格があるにもかかわらず、それを全く無視して、地価公示価格との規準を全く行わず、開発法のみによって土地価格を求め、それが適正価格であると主張し、その主張を1審の裁判官も何の疑問も挟まずに適正な土地価格であるとする判決をしている。

 地価公示価格等と規準しない土地不動産鑑定評価は不適正な価格であると認める判例があることから、晴海選手村土地不当廉売事件の1審判決は判例違反の判決でもあるということになる。
 


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