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276)オムロンが東京本社をリースバック

 制御機器メーカーのオムロンが、東京本社の土地建物を森ビルを買主にして信託受益権での売買を行った。(2006年4月26日、オムロン、森ビルHPプレスリリース)

 オムロンは、京都に本社のある昔の立石電機製作所のことである。
 体温計のオムロンとしても知られている。
 現在は光センサー等の制御機器製造会社であり、鉄道駅等の自動改札機、自動券売機などを作っている企業でもある。

 私にとっては、「オムロン」というより「立石電機」という会社名の方が親しみがある。
 そして京都の企業御三家のイメージとしての記憶の方も強い。島津製作所・京都セラミックス(京セラ)そして立石電機である。

 オムロンは東京本社の土地建物を手放した。しかしそのまま賃借して使用するという。リースバックである。

 譲渡価格は両者のホムページによれば、約127億円という。

 土地1282平方メートル、建物7554.61平方メートルである。

 信託受益権の買主は森ビルである。東京の新名所の一つになりつつある「六本木ヒルズ」を造った不動産会社である。
 虎ノ門を中心にして、ビルの上に「第**森ビル」の看板を掲げてやたらにその名前が目に付くビルを所有する会社である。

 「森ビル」と「森トラスト」と云うのがあるようで、どのビルが森ビル経営のもので、どのビルが森トラストが経営しているビルなのか、外部からはさっぱり分からない。

 森ビルは、企業の経営方針として土地の自己所有をしない会社と私は思っていたが、オムロンの所有土地建物を購入したことを見ると、自ら土地取得する場合もあるようだ。

 オムロンは、今迄自己所有で自己使用していた東京本社をリースバックとして使用することになる。それは経営の合理化策によるものと思われるが、今迄の感覚での事務所使用とは違うことを、はっきりと社員一同自覚しなければならない。

 これからは使用の対価として「賃料」を支払わなければならない。
 「たかが賃料」と、賃料を小馬鹿にしていたら痛い目に遭う。
 それは利益が出ようが、赤字になろうが、経費として切り詰めることが出来なく、確実に支払わなければならない費用である。

 経費で出て行くということは、前期と同じ営業利益を上げていても、賃料分だけ営業利益は減少することになる。
 前期の営業利益を確保するには、賃料の支出相当の経費削減の必要が生ずることになる。

 支払賃料は、既に両当事者間で決定されているであろうし、第3者がその内容を知る術を持たないが、虎ノ門2・3丁目の既存貸事務所の面積150平方メートル以上の募集賃料より推定する。

 募集賃料として次のものがある。
所在 虎ノ門駅距離 面積u 坪当り円
虎ノ門2丁目 徒歩2分 170 11600
虎ノ門2丁目 徒歩4分 220 18900
虎ノ門3丁目 徒歩7分 250 18900
虎ノ門2丁目 徒歩2分 230 24200
虎ノ門2丁目 徒歩2分 410 21000
虎ノ門2丁目 徒歩5分 220 15800
虎ノ門2丁目 徒歩7分 270 14700
虎ノ門3丁目 徒歩2分 540 24200
       
平均     18663
標準偏差     4193

 平均坪当り18,700円(平方メートル当り5,660円)である。

 有効賃貸面積割合(レンタブル比)を75%とする。
 賃貸面積は、
      7,554.16u×0.75≒5,670u
である。

 オムロンの東京本社は港区虎ノ門3丁目にあることから、賃料は、上記で求められた平均賃料を採用するとすれば、
      5,660円×5,670u=32,092,200円
である。

 年額賃料は、
      32,092,200円×12ヶ月≒385,000,000円
である。

 オムロンの平成18年3月期の発表された財務諸表によれば、売上高は3,120.72億円である。
 売上高に占める東京本社の家賃割合は、
      3.85億円÷3,120.70億円=0.12%
で、微々たる数値である。

 しかし、営業利益に対しては、侮れない割合となる。
 前記財務諸表の平成18年3月期のオムロンの営業利益は、118.45億円である。
      3.85億円÷118.45億円≒3.3%
の割合を占める。即ち営業利益が3.3%減ることを意味する。

 オムロンは売上減に伴い、経費の削減を行っている。
 平成17年、18年の売上高と販売管理費(販管費)を見るとつぎのごとくである。

    
                     17年3月期                  18年3月期
   売上高       3362.71億円        3120.72億円
   販管費            1120.54億円                1093.79億円
 
 売上高に占める販管費の割合は、
               17年3月期            33.3%
               18年3月期            35.0%
である。

 販管費の削減26.75億円を行っているにもかかわらず、売上高に占める販管費の割合は、平成18年3月期は高くなっているのである。

 販管費の削減は、口でいう程たやすくはないことを具体的にこれは示していることになる。
 来期以降はそのたやすくない販管費の削減を、
        3.85億円÷26.75億円=0.144
今年よりも更に14.4%行わなければならないのである。
 「たかが賃料」と思っていると痛い目に遭うと云うことは、このことを指しているのである。

 1年で前年比14.4%の販管費の削減は、前年で既に相当な経費削減を行っていることから、それになお追い打ちをかけての削減である。半端な経費削減策の心持ちでは達成出来るものではない。頑張っていただきたい。

 賃料を周辺事務所の募集賃料よりu当り5,660円としたが、合意賃料はこの賃料以上であるかもしれないし、以下であるかもしれない。私にはそれは分からない。

 事務所を貸す方にとっては賃料は少しでも高い方が良い。
 しかし、借りる側の企業は経費削減という目的があり、賃料に対してかなり厳しい考えを持っている。合理的理由に基づく妥当性が認められる賃料でないと合意しない。

 周辺賃料水準と大きくかけ離れた賃料での契約は、経営圧迫の要因を自らが作り、認めることであり、行われないと私は思う。

 対象建物の賃料が年額3.85億円とすると、グロス利回りは、
        3.85億円÷127億円=3.03%
である。

 還元利回りは、必要諸経費率(但し、減価償却費を含まない)を賃料収入の35%とすると、
        3.03%×(1−0.35)≒1.97%
である。

 還元利回りは2%を切った。

 ついに、私の推定の計算であるが、還元利回り2%を切った貸ビルが都心に出現してきた。
 大丈夫であろうか。

 誤解を招くといけないことから、この計算結果はあくまでも私のデータ分析によるものであることを付け加えておく。


  鑑定コラム979)「オムロン社名の由来は京都の御室」


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