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277)石原東京都知事が残す功績

 今年(2006年)の3月、あるパーティに出席した。
 そこで一人の来賓の挨拶があった。
 それは東京都の副知事であった。

 その副知事の挨拶は短いものであったが、重要な内容の話であった。

 石原慎太郎都知事は、平成18年度から東京都の公会計に複式簿記・発生主義を導入し、議会に対してその方式による東京都の財政・会計状況を報告するという。

 平成11年より公会計に複式簿記を取り入れることに取り組み、6年かかって研究開発が終わり実用化の目処がついた。
 平成18年度より新しい公会計制度を導入することにしたと副知事は云う。

 このことは日本の地方自治体で初めてのことであると付け加える。

 地方自治体の会計は大福帳の現金出納帳であろうと思っていたが、それを東京都は複式簿記に替えるという。
 それに6年の研究・モデル実験期間を費やしたというのである。

 複式簿記というのは、貸方・借方にわける会計処理である。
 企業会計では当たり前に行われている会計処理である。

 小さいながらも私の事務所の会計処理も複式簿記で、貸借対照表、損益計算書を作っている。
 昔は手作業で金額を記入し帳簿をつけていたが、今は会計ソフトを利用して、パソコンで勘定科目に金額を入力すれば、自動的に貸方・借方に振り分けられ、関係する諸帳簿を作ってくれる。
 貸借対照表、損益計算書の決算書までたちどころに作ってくれる。
 計算には間違いはない。
 誠に便利になったものである。

 副知事が平成18年から東京都の会計に複式簿記を導入すると発言したのであるから、導入は本当であろうと思い、東京都のホームページを覗いてみた。

 平成18年2月15日付の『財務諸表を活用した都政改革の推進』という記事があった。
 主管は東京都財務局主計部財政課である。

 そのホームページを読むと、平成11年より公認会計士5人を含む東京都専門委員によって、議論とモデル実験を繰り返し、複式簿記による公会計導入が出来るようになったようである。

 官庁会計は、明治22年(1889年)に当時のプロイセンのカメラル式簿記(単式簿記・現金主義)が移入されて、現在まで使われているらしい。

 この方式も良い会計方式であり否定されるものではないが、ストック情報・コスト情報が不足しており、正確なコストの把握が出来ない欠点を持つという。

 これら欠点を克服するために、民間企業が採用している複式簿記を取り入れて「機能するバランスシート」にして、東京都の財務状況を公表するというのである。

 「機能するバランスシート」である財務諸表は、
      ・貸借対照表
      ・行政コスト計算書
      ・キャッシュフロー計算書
の3つを指す。

 「行政コスト計算書」とは、損益計算書に相当するものであろうか。

 東京都が公会計の改革に踏み切って目指すものは何かというと、同ホームページによれば次の3つである。

1.自治体を経営するという考え方に立つこと。
2.都民からの行政情報公開の需要に対して、説明責任を持ち、それを果たすため。
3.新しい会計手法の導入によって、職員にコスト意識を植え付ける等の意識改革を行うため。

 東京都は、
「企業会計を真似るだけでなく、従前の単式簿記は現金ベースの管理は極めて厳格に行われており、その方式による官庁の決算書は現金収支の全てを網羅しており、優れたものであるから、その良い面も最大限生かしてゆく。」
と云う。

 この都の発言は、ちょつと待って欲しい。
 現行の方式は、「現金ベースの管理は極めて厳格におこなわれており」というが、それは当然のことであろう。厳格に行われていなかったとしたらどうするのだ。
 複式簿記は厳格に行われないとでも云うのか。

 貸借対照表の「資本の部」そして「資本金」は、どういう用語になり、どういう類の数値が入ることになるのか、少し興味が湧く。

 そして有形固定資産の項目の「土地・建物」勘定は、時価評価の数値が計上されるであろうか。
 どの様に資産が時価評価されるのか。新宿の都庁舎の土地建物の時価は、誰が評価しどれ程になるであろうか。興味が湧く。

 もっとも東京都は、直轄で23区内の都民所有の各筆の土地・建物の固定資産税価格を評価する膨大な組織・職員を抱えていることから、都所有の土地建物の時価評価にはさほど困らないと思うが。

 東京都が貸借対照表等を導入して公会計を行うことになったら、他の地方自治体も税金の使い方の有効性・明瞭性と行政サービスと云う理由から、「出来ません」と云って逃げている訳には行かないであろう。

 遅かれ早かれ、各地方自治体である道府県市町村も、東京都に右習えと云うことになろう。

 そうすると、公認会計士の新しい活躍の分野が広がるということになる。
 東京都の新しい公会計への道筋を作った5人の公認会計士は、日本公認会計士協会から表彰されても良かろうと、畑違いの職業域にいる私には思われる。

 それと、公会計に企業会計の方式を導入して実行した石原慎太郎東京都知事は、先駆者として優れた功績を残した知事として、永久に名前を残すことになるであろうと私は思う。


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