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2760) 東京地裁借地非訟決定例に残されている地代の収益分析法


 2024年3月15日に、一般社団法人神奈川県不動産鑑定士協会(会長不動産鑑定士橋芳明氏)の依頼で行った「賃貸事業分析法と継続地代」の講演において、賃貸事業分析法の手法について、下記のごとく私は述べた。

「この求め方は、収益分析法として、先人の不動産鑑定士が考えだし、採用していた手法である。

 即ち、収益分析法で最も難しい純収益の経営に配分する純収益は発生しなく、その利益は不動産に帰属するとし、又、資本に配分する純収益も発生せず、その利益は不動産に帰属するとして、賃貸事業で得られる純収益は、全て不動産に属するものであるとし、建物に帰属する部分を控除して、残ったのが土地に帰属する純収益とし、それに土地の公租公課を加えて地代を求めていた手法である。

 私も、昔から行っていた手法である。

 昔から行われていた収益分析法を変形して使用されていた手法を、賃貸事業分析法という名称にして、手法として鑑定基準は認めたということである。」

 賃貸事業分析法は、先人の不動産鑑定士達が昔から行われていた収益分析法を変形した求め方であると、私は述べた。

 では、先人の不動産鑑定士達が収益分析法を変形して行っていた手法というものは、具体的にどういう求め方であったのか。

 その求め方が、東京地方裁判所借地非訟事件の決定例の一つとして唯一残っている。決定例では手法を「底地残余法」と呼んでいる。下記である。

****


借地非訟事件の決定例(『借地非訟便覧』3巻P1300-820 新日本法規)
 事例 増改築許可申立事件(400の45 東京地決平成3年8月5日)

 増改築予定建物
   木造亜鉛メッキ鋼板葺2階建アパート
   床面積   73.98u(1階・2階共)

1 裁判所の決定

 一 申立人が相手方に対し、本裁判確定の日から3か月以内に金1155万円を支払うことを条件として、<本件土地>上の<現存建物>を取り壊し、<  増改築予定建物>を建築することを許可する。

 二 申立人と相手方との間の<本件土地>についての賃貸借契約の賃料を前項の許可の効力が生じた日の属する月の翌月1日から月額金4万円に改定する。

2 理由の要旨
(1) 相当の理由  省略
(2)給付額の計算 省略
(3)地代の改定については、次の二つの手法を併用して相当と認める額を求めた。

 (底地残余法)

 本件増改築では、ワンルームマンション10戸が計画されている。

 近隣等の相場から一戸当り65,000円(月額)で賃貸するものとし、契約時に権利金と敷金をそれぞれ家賃の1か月と2か月相当額を受取るものとすれば(契約期間 2年)、年間収入として家賃収入に権利金の償却額と運用益並びに敷金の運用益を加えた額8,268,000円を期待することができる。

 一方、必要諸経費としては、減価償却費1,500,000円(建物建築費を30,00 0,000円、経済的耐用年数を20年として計算)、公租公課380,000円(うち土 地について126,000円)維持修繕費、管理費損害保険料等の諸経費1,500,000 円、貸倒空室損失相当額325,000円(家賃収入の半月分)を見積り、合計3,7 05,000円とすると、年間純収益は4,563,000円となる。

 このうち建物投資に対する利潤相当額を投下資本収益率を10%として3,000,000円とすれば、残余として求められる土地帰属額は1,563,000円であり、賃貸人に帰属する部分をその40%(底地割合相当額)として、625,000円(月額52,080円)を得る。
  (注)権利金、敷金の運用利回り8%として計算

 (スライド法) 省略」

(拙著『改訂増補 賃料<地代・家賃>評価の実際』p592(プログレス 2005年)より転載)

****


 決定例において、建物の減価償却費は、はっきりと必要諸経費の一つとして経費計上されている。

 私は、神奈川県不動産鑑定士会の講演で、賃貸事業分析法を鑑定基準が新しく取り入れた事は良いことであるが、鑑定基準は説明不足であり、間違いを犯していると指摘した。

 それは、建物の減価償却費を経費計上しなければ成らないことを、完全に無視している事を挙げた。

 建物減価償却費は、建物所有権者(借地人)が建物建築の為に投下した資本回収の為に得るものである。

、減価償却費を経費計上しない償却前利益の場合、その利益中には減価償却費が含まれている。

 その利益を土地利益として配分すると、地代には減価償却費が含まれている事になり、借地人は自分が得るべき減価償却費を地代として支払うという事になる。

 そうした非論理的な償却前利益を土地残余収益として、地代を求める間違った地代鑑定書が、既に横行している事から、早急に鑑定基準の付記改訂せよと述べた。

 放置していることは許されない行為である。

 先人の不動産鑑定士達は、建物の減価償却費は経費計上して土地残余収益を求めていることを、東京地裁借地非訟決定例でしっかりと知ることが出来る。

それは、裁判所判決例と同じ重要性を持つ裁判所決定例である。

 建物減価償却費を経費計上しないで地代を求めた場合、決定先例である本件東京地決平成3年8月5日増改築許可申立事件(400の45)決定例違反ということになる。

 鑑定基準が新しく取り入れた賃貸事業分析法の求め方で地代を求めたら、東京地決平成3年8月5日増改築許可申立事件(400の45)決定例違反で、地代訴訟で負けるという事が生じる可能性が充分あることになる。

 その様な鑑定基準は存在してはいけないであろう。

 上記、東京地決平成3年8月5日増改築許可申立事件(400の45)については、 鑑定コラム1321)「借地非訟の決定例に見る収益地代」において、論述している。

 その中で本題とは少し離れて感想を述べている。2つの感想を下記に一部修正して転載する。

 (感想1)

 決定例の敷金に、「運用利回り8%」と記されている。

 現在の敷金の運用利回りは、0.5%程度である。

 8%の運用利回りなど、夢のまた夢であろう。

 当時はその利回り前後で、私も鑑定評価していた。

 金融事情の変動が、如何に激しいか改めて実感する。

 (感想2)

 本件土地の上に、1戸当り6.5万円の賃貸ワンルーム10戸の建物が計画されている。

 この計画は実現性が高い。

 何故かと云えば、そうした建物目的による土地利用であるから、増改築を承諾して欲しいと、借地人は、建物図面を付けて裁判所に、借地非訟での解決を申し立てるのである。

 10戸の賃貸ワンルームマンションの月額収入は、

      65,000円×10戸=650,000円

である。

 決定例では、2つの地代額が記されている。

 裁判所の決定地代月額4万円と、鑑定委員の不動産鑑定士が求めた鑑定地代月額5万2080円の地代である。

 収入に対する地代の割合は、

      40,000円÷650,000円≒0.062
      52,080円÷650,000円≒0.08

である。

 家賃と地代の間には関係があるのであろうか。

 前掲の拙著『改訂増補 賃料<地代・家賃>評価の実際』p567(プログレス)に、家賃と地代の間には関係があると述べている。

 地代は家賃に対して、

      商業地    0.135
      住宅地    0.072

の関係が認められると分析されている。

 本件決定例の場合には、0.062〜0.08の割合である。

 本件は住宅地の決定例である。

 地代と家賃の間には関係が認められるというデータの一つになろう。


(改めて読み直しての追加感想)

 改めて平成3年8月5日の東京地裁の借地非訟決定例(400の45)を読み直すと、公租公課倍率が求められる事に気づく。

 決定例の地代は、月額40,000円である。

 その土地の公租公課は、年額126,000円である。月額では、
      126,000円÷12=10,500円
である。

 公租公課倍率は、
      40,000円÷10,500円=3.80
3.8倍である。



  鑑定コラム2746)
「「賃貸事業分析法と継続地代」神奈川県不動産鑑定士協会講演レジュメ」

  鑑定コラム1321)「借地非訟の決定例に見る収益地代」
 

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