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2024年3月15日に神奈川県不動産鑑定士協会(会長不動産鑑定士橋芳明氏)の依頼による講演を行った。
講演の内容は、「賃貸事業分析法と継続地代」と「公租公課倍率法について」で、3時間の講演であった。
その講演レジュメを3回に分けて鑑定コラムに掲載する。当初レジュメから、計算間違い等一部訂正削除・加筆の変更がされています。
****
研 修 講 演 テ キ ス ト
1部:「賃貸事業分析法と継続地代」
2部:「公租公課倍率法ついて」
講師
不動産鑑定士
桐蔭横浜大学法学部客員教授
田 原 拓 治
令和6年3月15日
主催:(一社)神奈川県不動産鑑定士協会
1部:「賃貸事業分析法と継続地代」
第1 はじめに
新借地借家法による定期借地権の土地利用も見られる様になったが、旧借地借家法による借地は依然とあり、その地代の紛争事件も多い。
それに伴う継続地代の鑑定評価の依頼も少なからず存在する。
今迄、新規地代の求め方が甚だあやふやな求め方で行われていたが、不動産鑑定評価基準(以下「鑑定基準」と呼ぶ)が部分的に改正され、地代の新規地代を求めるのに、賃貸事業分析法という手法が導入された。
それによって、新規地代が明確に求められる様になった。
しかし、折角導入された賃貸事業分析法も、鑑定基準の不正確な表現によって、誤った使い方がなされていることから、適正な賃貸事業分析法の求め方について述べ、賃貸事業分析法の求め方を援用して、土地期待利回りを求め、その土地期待利回りに更地価格を乗じ、必要諸経費を加算して積算地代(新規地代)を求める手法について述べる。
そして、継続地代の求め方で、注意するべき項目要因として、
イ、借地権価格の求め方
ロ、経済価値に即応した適正な実質賃料、支払賃料
ハ、スライド法の変動率の尺度
について述べる。
話の内容は、著書『改訂増補 賃料<地代・家賃>評価の実際』(プログレス 2017年2月 以下「著書」と呼ぶ)で地代の求め方について記述されている部分、又、私のホームページの鑑定コラムの中の地代の求め方について記述されている部分に重複します。
第2 賃貸事業分析法
1.賃貸事業分析法とは
平成26年鑑定基準の改正によって、賃料評価の部分が一部改正された。
利回り法の継続賃料利回りが、従前合意時の継続賃料利回りを「標準とする」が「踏まえて」に変更され、比較考量事項の最初に「期待利回り」が付け加えられた。
そして、地代評価において、今迄曖昧な新規地代の求め方であったのが、新規地代を求めるのに、賃貸事業分析法という新しい求め方が導入された。
それに付いて、「新規賃料を求める場合」の節の鑑定基準は次のごとく規定する。
「また、建物及びその敷地に係わる賃貸事業に基づく純収益を適切に求めることができるときには、賃貸事業分析法(建物及びその敷地に係わる賃貸事業に基づく純収益をもとに土地に帰属する部分を査定して宅地の試算賃料を求める方法)で得た宅地の試算賃料も比較考量して決定するものとする。」
(平成26年改正鑑定基準 国交省版P51)
上記改正鑑定基準を読むと、賃貸事業分析法とは、新規地代を求める地代の範疇の手法であるが、更地価格を求める際に使用する収益価格算出の土地残余法で求められる土地に帰属する純収益に公租公課を加算した賃料であるということになる。
この求め方は、収益分析法として、先人の不動産鑑定士が考えだし、採用していた手法である。
即ち、収益分析法で最も難しい純収益の経営に配分する純収益は発生しなく、その利益は不動産に帰属するとし、又、資本に配分する純収益も発生せず、その利益は不動産に帰属するとして、賃貸事業で得られる純収益は、全て不動産に属するものであるとし、建物に帰属する部分を控除して、残ったのが土地に帰属する純収益とし、それに土地の公租公課を加えて地代を求めていた手法である。
私も、昔から行っていた手法である。
昔から行われていた収益分析法を変形して使用されていた手法を、賃貸事業分析法という名称にして、手法として鑑定基準は認めたということである。
2.賃貸事業分析法の功罪
@ 賃貸事業分析法の功績
イ、地代の基礎価格は更地であるという根拠の明確化
新規賃料である積算賃料を求めるのに、底地価格を基礎価格にして求める鑑定書が未だに多くある。
新規賃料は、借地権を新規に設定して土地を賃借する場合の賃料である。
底地は、既に借地権者がいる状態の類型であり、底地価格は土地賃貸借契約が既に発生している状態のものであり、借地権を新規に設定して土地を賃借する土地状態では無い。
それ故、底地価格に期待利回りを乗じた地代は、新規賃料とは言えない。
新規賃料と言えるのは、更地を基礎価格にして求められる場合である。
改正鑑定基準は、賃貸事業分析法と云う地代を求める手法を導入したが、その導入個所の記載は、「新規賃料を求める場合」の節に入っている。
賃貸事業分析法は、更地の収益価格を求める土地残余法による地代の求め方である。更地を前提にしている。底地状態を前提にしていない。
賃貸事業分析法は、鑑定基準の新規賃料を求める節にあること、そして、賃貸事業分析法は、更地の収益価格を求める土地残余法による地代の求め方であることから、土地の基礎価格は更地であると言うことが、鑑定基準に賃貸事業分析法が導入されたことによって明確にされたことになる。
地代の基礎価格は更地である、底地であるという長い間の論争は、賃貸事業分析法の手法の導入によって、更地であるということに結論された。
ロ、新規地代の求め方が明確になった
今迄、
底地価格×0.032=純地代
のごとく、意味不明の求め方で新規地代を求めていた地代鑑定書が目についたが、その求め方は無くなることになろう。
新規地代の求め方が明確になった。
ハ、土地期待利回りが論理的に求められる様になる
今迄、
更地価格×0.035=純地代
のごとく求めるが、3.5%の期待利回りの根拠の説明がなされていないとか、曖昧な表現で文言の羅列で決定されていた。例えば下記のごとくである。
「本件においては、、地域の特性、対象不動産の個別性等を考慮し、更に広域的に賃貸市場を調査して、期待利回りを3.5%と査定した。」(第16回実務修習指導要領テキストP327 公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会)
地域の特性は何%なのか、対象不動産の個別性等は何%なのか、広域的な賃貸市場は何%なのか、それ等の具体的割合の提示もない。
鑑定書を読む人はどの様にして3.5%が求められたのか、さっぱり分からない。
この様な文言の羅列による期待利回りの決定では、4.0%でも3.0%でも、2.8%でもよいでは無いのか。何故3.5パーセントで無ければならないのかの説明になっていない。
非科学的も甚だしい。
土地利回りは単独で求められるものでは無く、総合期待利回りが求められて、それから建物期待利回り、土地期待利回りが求められるものである。
具体的な求め方は、次章の賃貸事業分析法の求め方の中で説明する。
ニ、積算賃料の土地期待利回りが論理的に求められる
積算賃料の期待利回りが論理的に求められることも、次章の賃貸事業分析法の求め方の中で説明する。
A 間違った賃貸事業分析法の求め方が流布するようになった
平成バブル崩壊後、不良債権化した不動産の処理に伴い、米国の投資銀行が日本に乗り込んできて、日本の不動産を買い漁った。その時に行った鑑定手法は、キャッシュフローのDCF法であり、その鑑定評価の価格で不良債権化した日本の不動産を買い漁った。
その評価手法を日本の不動産鑑定業界も取り入れ、キャッシュフローによる鑑定評価をするようになった。
キャッシュフロー評価で犠牲になったのが、必要諸経費の重要な構成項目であった減価償却費である。
必要諸経費の構成項目から減価償却費がハズされてしまった。
土地建物同一所有者である価格評価、賃料の場合には影響は無いが、土地建物の所有者が異なる地代の評価の場合には、とんでもない現象が出現し始めた。
借地上の建物は、借地権者の所有であり、建物の減価償却費は、建物所有者即ち借地権者が建物に投資した建設費を回収するものである。
キャツシュフローでは、減価償却費を必要諸経費に計上しないため、減価償却費が純収益の中に含まれて、土地所有者即ち地主側に渡ってしまう。
賃貸事業分析法の地代は、土地純収益が地代の純収益になるものであるから、減価償却費が地代の純収益に含まれることになる。
つまり、借地権者は自分の取り分である減価償却費を地主に地代として吸い上げられることになる。
こうした地代鑑定書が見受けられる様になった。
地代評価の場合、必要諸経費には減価償却を含めて求めなければならないのである。
純収益は、減価償却後純収益で無ければならないのである。
平成26年改正鑑定基準は、このことを明記していない為に、キャシュフローによる必要諸経費を計上して純収益(償却前純収益)を求めて、上記の重大な間違いを引きおこす地代鑑定書が出現することになった。
平成26年改正鑑定基準は、早急に必要諸経費は減価償却費を含んだものという文言、純収益は償却後純収益であるという文言を付加しなければならない。
いつまでも放置していることは許されるものでは無い。
3.賃貸事業分析法の求め方の例
@ 設定条件
設例の条件は、下記とする。
イ、地積、道路条件等
土地面積100u、幅員20メートル道路に面する。商業地、容積率700%
ロ、建物所有目的 堅固建物所有
ハ、土地価格 420,000,000円(u当り420万円)
ニ、土地公租公課 年間760,000円
ホ、価格時点 平成28年7月1日
A 想定建物
イ、想定建物
対象地にRC造8階建延べ床面積700u(100u×7=700)の建物を想定する。
用途は1階店舗、2階以上は事務所とする。
各階の建築及び賃貸面積は下記である。
階 建築面積 賃貸面積
1階 85 50
2階 85 65
3階〜8階 85 65
塔屋 20 0
計 700 505
ロ、建物価格
対象地に想定した建物価格は、次の通り求める。
国土交通省発表の『建築着工統計調査』によると、東京都の平成27年1月〜12月1年間のRC造の事務所ビル建設統計統計デ−タは次の通りである。
棟数 61棟
のべ床面積 66,833u
工事予定額 2,311,104万円
このデ−タより、1棟当りのべ床面積は、
66.833u
──── = 1,095u
61棟
1,095uである。
u当り建築工事費は、
2,311,104万円
─────── = 34.58万円
66,833u
34.58万円である。
建築工事費が異常高になっている。これは平成23年3月の東日本大震災の復興工事が本格的に展開されて来たことによって、工賃、材料費の大巾値上りによるものである。ここ1年間で50%近くの建築費の値上りが生じている。
異常高の建築費であるからといって、その金額しか建物を建てる事は出来ないことから、上記建築費を採用せざるを得ない。
価格時点は、平成28年7月であるが、その時点の建設工事費データの発表が無い事から平成27年のデータを使用する。
想定RC造の事務所建物の建築工事費を、
u当り 34.58万円
とする。
上記RC造の工事費に次の修正を行う。
中品等の事務所ビルである。 1.0
設計監理費 1.05
34.58万円×1.0×1.05≒36.3万円
想定建物の価格を
u当り 363,000円
総額 363,000円×700u=254,100,000円
とする。
B 店舗・事務所賃料
対象地周辺の店舗及び事務所賃料の賃貸事例から比較して、対象地上の想定建物の賃料を次の通りとする。
1階店舗 u当り13,800円
2階以上事務所 u当り 3,600円
C 総収入
イ、支払賃料
1階 13,800円×50u = 690,000円
2階〜8階 3,600円×65u×7= 1,638,000円
小計 2,328,000円
年間支払賃料 2,328,000円×12= 27,936,000円
ロ、敷金
1階 690,000円×10ヶ月 = 6,900,000円
2階〜8階 234,000円×6ヶ月×7 = 9,828,000円
小計 16,728,000円
ハ、 敷金運用益
運用利回りは0.5%とする。
16,728,000円×0.005 = 83,640円
ニ、 共益費 0円
支払賃料に含まれる。
ホ、 収入合計 27,936,000円+83,640円 = 28,019,640円
D 必要諸経費
イ、 減価償却費 5,082,000円
建物の経済的耐用年数を50年とする。
減価償却費は、
254,100,000円÷50=5,082,000円
である。
ロ、 公租公課 2,460,000円
土地 760,000円
建物 1,700,000円
小計 2,460,000円
ハ、維持管理費 1,400,000円
ニ、修繕費 1,300,000円
ホ、火災保険料 127,050円
254,100,000円×0.0005=127,050円
ヘ、合計 10,369,050円
E 純収益
純収益は、
総収入−必要諸経費=純収益
の算式で求められる。
28,019,640円−10,369,050円=17,650,590円
純収益は、17,650,590円である。
F 総合期待利回り
総合期待利回りとは、複合不動産を構成する土地建物が一体となって得られる純収益を、その土地建物の価格で除した利回りである。
算式は、
土地建物一体となって得られた純収益
────────────────── = 総合期待利回り
当該土地価格+建物価格
である。
上記で得られた純収益は、土地建物が一体となって得られた純収益である。
想定建物の総合期待利回りは、
17,650,590円
──────────────── = 0.0262
420,000,000円+254,100,000円
2.62%である。
G 土地期待利回り・建物期待利回り
上記で求められた総合期待利回りは、土地建物の複合不動産の期待利回りである。この利回りを地代の利回りには採用出来ない。
総合期待利回りから、土地期待利回り、建物期待利回りを求め無ければならない。
建物の期待利回りは、土地期待利回りよりも一般的には高い水準にある。
それは建物には耐用年数があるためと考えられる。
本件の建物の耐用年数は50年であるから
1/50=0.02
である。
利率2.0%、期間50年の償還基金率は0.012である。
建物の期待利回りが土地より高い利率は、償還基金率相当の割合とする。
土地の期待利回りをXとする。
建物の期待利回りは(X+0.012)とする。
420,000,000×X+254,100,000(X+0.012)
─────────────────────── =0.0262
420,000,000+254,100,000
上記式よりXを求める。
X=0.022
である。
即ち、
土地の期待利回り 0.022
建物の期待利回り 0.034(0.022+0.012=0.034)
と求められる。
H 建物に帰属する収益
建物価格は、254,100,000円である。
土地期待利回りを求める際に建物の期待利回りは0.034と求められた。
建物に帰属する利益は、
254,100,000円×0.034=8,639,400円
8,639,400円である。
I 土地に帰属する収益
土地に帰属する収益は、下記の算式で求められる。
土地建物の純収益−建物に帰属する収益=土地に帰属する収益
土地に帰属収益は、
17,650,590円−8,639,400円=9,011,190円
である。
J 賃貸事業分析法の新規地代
賃貸事業分析法の地代は、下記算式で求められる。
土地に帰属する収益+土地の公租公課=賃貸事業分析法の地代
賃貸事業分析法の地代は、
9,011,190円+760,000円=9,771,190円
である。
月額地代は、
9,771,190円÷12=814,266円≒814,000円
814,000円である。
第3 積算賃料(積算地代)
借地権価格が発生していない堅固建物の積算地代を求める。
1.想定建物等
対象地に想定する建物は、前記賃貸事業分析法地代を求めるのに想定した建物である。
建物価格、賃料も同じである。
総収入、必要諸経費も同じである。
純収益も同じである。純収益は、17,650,590円である。
つまり、賃貸事業分析法で想定した賃貸建物から得られる純収益と全く同じということである。
2.土地期待利回り
総合還元利回りは、純収益17,650,590円を土地建物価格で除した値であり、賃貸事業分析法で0.0262と求められている。
土地の期待利回り、建物の期待利回りは、総合期待利回りから求めるものであり、賃貸事業分析法で求められている。
土地期待利回りは、0.022と求められている。
3.積算地代
上記で求められた数値から、積算地代を求める。
純地代は、
420,000,000円×0.022=9,240,000円
である。
積算地代は、公租公課は760,000円であるから、
9,240,000円+760,000円=10,000,000円
年額10,000,000円である。
月額は、
10,000,000円÷12≒833,333円≒833,000円
833,000円である。
4.土地基本利回りから建物の期待利回りを求める手法は間違っている
@ 建物帰属利益を求めるおかしな例
建物に帰属する利益は、建物価格に建物期待利回りを乗じて求められる。
その建物期待利回りをおかしな方法で求めている鑑定書にかなり遭遇する。
その一例を下記に記す。
建物価格は39,400,000円とする。
建物に帰属する利益は、建物期待利回りを0.0677と求め、
39,400,000円×0.0677=2,667,380円
と求める。
その建物期待利回り0.0677の求め方は下記のごとくである。
土地期待利回りを4.5%とし、これから基本利回りを4.5%とする。
この基本利回り4.5%を採用して建物期待利回りを次のごとく求める。
建物を躯体部分と設備部分に分け、躯体の経済的耐用年数を30年とする。
設備の経済的耐用年数を15年とする。
利率4.5%、期間30年の元利均等償還率は0.0613、期間15年の元利均等償還率は0.0931である。
躯体と設備の価格割合を、躯体0.8、設備0.2とする。
上記償還率と価格割合から、
0.0613×0.8+0.0931×0.2=0.0677
の利率を求める。
この利率を建物の期待利回りとして、上記のごとく建物帰属する利益を2,667,380円と求める。
A 上記建物期待利回りはおかしいと思わないか
上記建物期待利回り0.0677の求め方は、おかしいと思わないか。
0.0677は、建物価格に乗じて建物帰属収益を求めていることから、この値は建物期待利回りである。
躯体は利率4.5%の期間30年の元利均等償還の利率、設備は利率4.5%の期間15年の元利均等償還の利率である。
0.0677は、その求められた躯体と設備の元利均等償還率を価格割合で按分して求められた割合である。
元利均等償還率の算式は、年利をr、年数をnとすると下記である。
r(1+r)n
─────────
(1+r)n−1
rが利率である。本件の場合、土地期待利回りを基礎利率にした4.5%である。
求められた0.0677という値は、4.5%という土地の利回りを、金利に見立て、期間27年(躯体の耐用年数相当の30年×0.8+設備の耐用年数相当の15年×0.2=27年)で土地購入資金を借り入れた場合の元利均等償還率であると考えられるだけである。
その値が、類型の異なる建物の期待利回りにどうして変換するのか。
土地の4.5%の利回りが、期間を考えることによって値が変わるのは、4.5%の利率の期間に対応する利息分が上乗せされるだけで、土地の利回りであることには変わりは無い。
それが、類型の異なる建物の期待利回りになるという論理である。
もし建物の期待利回りに変換するというならば、その土地の類型がどの様な論理で建物の類型に変換するのか、論理的に説明する必要があろう。
その不動産鑑定書には、その変換する論理の説明は全く無い。
4.5%が6.77%になり、その差の2.27%が建物の類型に変換する値であるという説明がなされるかもしれないが、2.27%は利息であり、建物の類型要因によるものでは無い。
土地の利回りの利息が加算されると建物の期待利回りになるという論理は、理論として通用するであろうか。私には理解し難いことである。
例えは悪いが、牛が27年経ったら突然馬になるがごとくの論理である。
その様な論理など通用することなど無いが、それが何故か堂々と現在の不動産鑑定業界では罷り通っている様である。
5.借地権価格割合
@ 借地権価格とは
借地権の価格割合を国税庁が発表している相続税路線価割合を採用して、それが借地権割合としている不動産鑑定書に遭遇する。
鑑定基準に、借地権割合は、相続税路線価の借地権割合で決定せょと一言も書いてない。
鑑定基準の借地権価格の求め方は、下記である。
「借地権が付着している宅地の経済価値に即応した適正な賃料と実際支払賃料との乖離(以下「賃料差額」という。)及びその乖離の持続する期間を基礎にして成り立つ経済利益の現在価値のうち、慣行的に取引の対象となっている部分」
という。
具体的には、その土地の新規地代と現行支払地代の差額の乖離が持続する期間の現在価値と言うことになる。
A 借地権価格の具体的な求め方
イ、新規地代
更地価格を420,000,000円とする。
更地の期待利回りは2.2%とする。
純地代は、
420,000,000円×0.022=9,240,000円
である。
必要諸経費の公租公課は、760,000円とする。
借地権価格が発生していない場合の地代(新規地代 年間)は、
9,240,000円+760,000円=10,000,000円
である。
ロ、現行支払地代
現行地代は、月額360,000円とする。
年間支払地代は、
360,000円×12=4,320,000円
である。
ハ、地代差額
地代差額は、
10,000,000円−4,320,000円=5,680,000円
である。
ニ、借地権価格
この差額が30年間続くとする。
5,680,000円×30=170,400,000円
これが借地権価格である。
更地価格に対する割合は、
170,400,000円
─────── ≒ 0.406
420,000,000円
40.6%である。
なお、30年間の複利現価率で求めるべきと云う主張があるかもしれないが、割引の利率をどれ程にするかの問題が生ずることと、期間30年の現在価値となると、現在価値は甚だ低額になる。
その間に地代の増額も充分考えられる。
地代の増額を考えずに、利率と長期期間のみによる現在価値の把握は、一方的な求め方と思われる。
割引率と同じだけ地代が上昇すると考えれば、現行差額の期間を乗じた金額が現在価値とも云える。
こうした考え方から、複利現価率による現在価値の求め方は行わなく、年間の差額を30倍して求めることにした。
本件の借地権割合は、差額地代より分析すれば、40.6%である。
B 相続税路線価からの検討
相続税の路線価の借地権割合から借地権価格を不動産鑑定評価の専門家であれば求めるべきでは無いと記したが、訴訟にあっては、相手側代理人弁護士から、必ず路線価の借地権割合が持ち出されて、不動産鑑定士が求めた借地権価格の妥当性について、批判・検討の意見が出される。
そうしたことが、現実の訴訟にあっては充分予想されることから、その面からの検討も行っておくべきである。
本件借地権割合は40.6%と求められたが、相続税路線価の割合は、対象地の前の相続税路線価はu当り3,600,000円で、借地権割合は「B」のクラスである。借地権割合80%である。
この借地権割合より、借地権割合は、80%であると主張されるかもしれない。
しかしその主張は失当である。対象借地権には次の負担が付随している。
イ,更新料
土地賃貸借契約を続ける場合には、更新料を支払って更新しなければならない。更新料を更地価格の3.0.%とする。 ( −3.0%)
ロ,増改築承諾料
対象建物は築61年経過している。建物の設備等を考えると建替ることが必要と思われる。この増改築承諾料は更地価格の10%である。 (−10%)
ハ,名儀書替料
借地権を売却するには、事前に土地所有権者の承諾が必要である。この承諾料は借地権価格の10%である。
借地権割合は80%であるから、
80%×0.1=8%
8%である。 ( −8%)
ニ,地代の増額
新しい建物になれば、家賃の増額となり、そのうちの幾ばくかは地代の増額となる。家賃の増額はおよそ35%程度の増加が見込まれる。
必要諸経費率を36%とすれば、純収益の増加は、
35%×(1−0.36)=22.4%
22.4%の純収益の増加である。
ここから建物利益相当分を18%(路線価借地権割合を80%とすれば22.4×08≒18%)、そして残りの半分の50%を土地所有権者の取り分、即ち、地代分とする。
(22.4%−18%)×0.5=2.2%≒2%
2%の地代増額となる。
この分相当が借地権売買においてはマイナス要因となる。 (-2.0%)
ホ、まとめ
更新料 −3%
増改築承諾料 −10%
名儀書替料 −8%
地代増額 −2%
計 −23%
現行借地権を購入する人は、借地権を最適使用の状態で利用する場合には、上記要因による金銭対価を土地所有権者に支払わなければならない。
そうすると当然借地権売買価格より、購入後予想される負担額を控除した金額でないと、借地権の売買は成立しない。
80%−23%=57%
相続税路線価の借地権割合から検討した借地権割合は57%である。
80%の借地権割合の主張は失当となる。
相続税路線価の借地権割合からの検討では、57%程度の借地権価格割合程度と思われる。
C 借地権割合の決定
上記より2つの借地権割合が求められた。
イ、差額地代から 40.6%
ロ、相続税路線価の借地権割合から 57%
両賃料の価格形成要因をそれぞれ尊重し、概ね中央値の割合
(40.6%+57%)×1/2=48.8%≒50%
50%を借地権割合とする。
6.新規賃料と経済価値に即応した適正な実質賃料
鑑定基準は、継続賃料の差額配分法の項において次のごとく述べる。
差額配分法の意義について、
「差額配分法は、対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料又は支払賃料と実際実質賃料又は実際支払賃料との間で発生している差額について、契約の内容、契約締結の経緯等を総合的に勘案して、当該差額のうち賃貸人に帰属する部分を適切に判定して得た額を実際実質賃料又は実際支払賃料に加減して試算賃料を求める手法である。」(平成26年改正鑑定基準 国交省版P34)
そして、適用方法について、下記のごとく規定する。
「対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料は、価格時点において想定される新規賃料であり、積算賃料、賃貸事例比較法等により求めるものとする。
対象不動産の経済価値に即応した適正な支払賃料は、契約に当たって一時金が授受されている場合については、実質賃料から権利金、敷金、保証金等の一時金の運用益及び償却額を控除することにより求めるものとする。」(平成26年改正鑑定基準 国交省版P34)
「経済価値に即応した適正な実質賃料又は支払賃料」という新しい概念が差額配分法に登場する。
それ故、「経済価値に即応した適正な実質賃料又は支払賃料」という新しい概念・専門用語は、差額配分法に関係するものと云える。
その新しい概念である「経済価値に即応した適正な実質賃料」とはどういうものかについて、「価格時点において想定される新規賃料であり、積算法、賃貸事例比較法等により求めるものとする」と述べる。
経済価値に即応した適正な実質賃料とは、新規賃料であり、それは積算法、賃貸事例比較法等により求められるものということになる。
経済価値に即応した適正な支払賃料ついては、基準は「契約に当たって一時金が授受されている場合については、実質賃料から権利金、敷金、保証金等の一時金の運用益及び償却額を控除することにより求めるものとする。」という。
権利金の要因は、実質賃料を形成していると解釈される。
権利金は償却するものではないことから、権利金要因相当を実質賃料から控除することになる。
権利金が授受されていることは、権利価格が発生していることになる。
ここで権利金については、権利設定のために授受されている権利金が当然含まれるが、借地権の場合、自然発生的に形成されている借地権価格も含まれる。
鑑定基準を読むと、「経済価値に即応した適正な賃料」は新規賃料であり、それは積算法と賃貸事例比較法等より求めるといっていることから、それは新規賃料であり、「経済価値に即応した適正な実質賃料」という用語による賃料を作る必要は無いのではないか、という疑問が基準を読む人には当然生じる。
しかし、新規賃料であるという一方、敢えて「経済価値に即応した適正な実質賃料」と区分することは、違いがあるということを意味する。
その解は、「実質賃料より権利金」と云っている個所にある。
経済価値に即応した適正な実質賃料、支払賃料とは、権利価格が発生している状態の実質賃料、支払賃料をいうのである。
家賃の場合には、借家権価格が発生していることは少ないことから、積算法、賃貸事例比較法の賃料は、新規賃料となり、それはそのまま経済価値に即応した適正な実質賃料、支払賃料になるが、地代にあっては借地権価格が発生しているのが一般的であることから、借地権価格要因を新規賃料より控除したものが経済価値に即応した適正な実質賃料、支払賃料ということになる。
鑑定基準は継ぎ接ぎした為か、甚だ分かり難い表現になっている。もっと分かり易く記述すべきであろう。
地代における「新規賃料」と「経済価値に即応した適正な実質賃料、支払賃料」の概念をまとめると、下記である。
地代における新規賃料とは、借地権価格が発生していない状態の新規地代である。
地代における「経済価値に即応した適正な実質賃料、支払賃料」とは、新規地代であると鑑定基準が云っていることから、価格時点で、借地権設定の権利金を支払い、新規賃貸借契約する賃料ということになる。
自然発生的に借地権価格が発生している場合も同じで、その価格相当の権利金の授受が価格時点でなされていると考えて、その状態の新規地代をいうのである。
更地価格の50%の価格程度が借地権価格とすれば、借地権割合は50%ということになる。
借地権価格が発生していない堅固建物所有目的の新規実質地代が、前記賃貸事業分析法で求められた新規賃料月額814,000円、積算法で求められた積算賃料月額833,000円より、月額820,000円であったとする。
つまり更地価格を前提にして、その土地利用で求められた地代が月額820,000円である。
借地権割合50%ということは、その産み出された土地利用のうち、50%の利益配分を借地人が持つと云うことになる。
そうすると、この借地権が付着する土地の経済価値に即応する適正な実質地代は、
820,000円×(1−0.5)=410,000円
410,000円ということになる。
この月額地代が、経済価値に即応した適正な実質賃料である。
借地権割合50%は、前記6章の借地権価格割合で分析された差額地代より求められた40.6%と、相続税路線価の借地権割合より求められた57%とを勘案して50%と決定された割合である。
求められた月額410,000円から、一時金の運用益等を控除して、支払地代を求める。
この求められた支払地代と、現行授受されている支払地代との差額を1/2法で求め、1/2差額を現行支払地代に加減算して差額配分法の地代を求めるのである。
7.スライド法の変動率
地代変動率とは、従前地代合意時点(直近合意時点)から価格時点までの、地代の変動している率を云う。地代の時点修正率である。
鑑定評価基準は、変動率に使用する種類として、下記を挙げている。
・土地及び建物価格の変動
・物価変動
・所得水準の変動
・整備された不動産インデックス等
上記種類は、家賃の場合も適用されるものであって、地代の場合に全て適用されるものでは無い。
土地価格の変動率を地代の変動率には採用すべきものではない。
土地価格が下落しているのに、地代は上昇していたという事実があることから、その事実を突きつけられた場合、土地価格の変動率を採用した場合、その採用に合理性が無いと判断される。
建物価格の変動率の採用は問題外である。
所得水準の変動として、GDPの指数を採用しているのを時々見かけるが、それが当該地代とどのように相関関係があるか不明であり、もし採用するのであれば、その相関関係を数値で立証する必要があろう。
同じ様に、公務員の給与の変動率を採用しているものを見かけるが、公務員の給与の変動率と当該地代の変動率とが、どの様に相関関係があるのかを客観的に証明するか、証明されたものが無ければ、その採用は不可であろう。
根拠ないデータの採用として、信頼を失うだけである。
相関関係があるということが立証出来ない場合、変動率での使用は不可であろう。
駐車場の料金の変動率を採用しているのを見受けられるが、駐車場の料金は建物所有目的の土地使用では無い。
建物所有目的の土地使用の地代とは性格が全く異なることから、その変動率を地代の変動率として採用することは不可である。
地代の変動率で最も良いのは、地代の変動をデータ分析したものであろう。
東京の場合には、日税不動産鑑定士会の『継続地代の実態調べ』による地代から求められる変動率である。
地代と家賃は無関係では無い事から、家賃の変動率は参考として使用出来る。但しストレートにその変動率を使用してよいと云うものでもない。
過去の家賃と地代の関係を分析して、その相関関係を充分見極めてから、合理的に地代変動率を決定すべきと思われる。
地代を分析したデータも無く、家賃との関係もはっきりと分からない場合は、消費者物価指数(総合)の変動率を採用する。
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