1.はじめに
不動産鑑定士になるために短答式試験、論文式試験に合格し、実務修習を終えて,最後の試験に合格して、不動産鑑定士に成れる。
その最後の実務修習に使用する評価例は、鑑定評価書の手本となる様なものである。
その手本となるテキスト記載の例題が間違っていると発言すれば、「冗談も程々にせょ。」、「馬鹿云うな。」というお叱り、批判が当然なされるであろう。
然し、論理的に求め方が間違っていたらどう反論されるのか。
2.第19回(2024年)実務修習指導要領テキストの家賃の評価例
@ 積算賃料
第19回実務修習指導要領テキスト(2024年11月1日第1刷発行 公益財団法人日本不動産鑑定士協会連合会発行)のP395の『家賃の鑑定評価(評価書編)』は、鉄筋コンクリート造9階建店舗・事務所延床面積5,430uの1階店舗300uの継続賃料を求める評価例である。
現在行われている実務修習に使用されているテキストである。
例題の1階店舗の家賃の積算賃料は、次のごとく求められている。
新規賃料の積算賃料をXとする。
必要諸経費の空室損失相当額を積算賃料の4%として、公租公課、修繕費、維持管理費、損害保険料等の必要諸経費を
9,935,000円+0.04X円
とする。
a. 価格時点における基礎価格は、859,900,000円である。
b. 期待利回りは、4.9%である。
c. 価格時点における必要諸経費は、9,935,000円+0.04X円
新規賃料の積算賃料を求める算式を、下記とする。(P414)
a b c
859,900,000円 × 4.9% + (9,935,000円+0.04X円)=積算賃料X
上記算式より積算賃料(年額)は、
0.96X=52,070,100
X=54,239,688円
である。
ここで、積算賃料が求められたのであるから、対象建物の必要諸経費が求められる。
必要諸経費は、
9,935,000円+0.04X円=9,935,000円+0.04×54,239,688円
=12,104,588円
12,104,588円である。
ここで対象土建物の必要諸経費を求めることが、非常に大切である。実務修習指導要領テキストの家賃評価演習編は、ここを見落としているのである。評価建物の必要諸経費は12,104,588円である。
A 利回り法賃料
第19回(2024年)実務修習指導要領テキストは、P422で、評価建物の継続賃料の利回り法賃料を次のごとく求める。
a. 価格時点における基礎価格は、859,900,000円である。
b. 継続賃料利回りは、4.4%である。
c. 価格時点における必要諸経費は、9,935,000円+0.04X円
継続賃料の利回り法賃料を求める算式を、下記とする。(P422)
a b c
859,900,000円 × 4.4% + (9,935,000円+0.04X円)=利回り法賃料X
上記算式より利回り法賃料(年額)は、
0.96X=47,770,600
X=49,761,042円(月額4,150,000円)
である。
ここで、上記利回り法の算式が間違っていることがわからないか。求められた利回り法賃料が間違っている事が判らないか。
積算賃料を求める時に、積算賃料をXと置いたことを忘れたのか。
B スライド法賃料
第19回(2024年)実務修習指導要領テキストは、P424で、評価建物の継続賃料のスライド法賃料を次のごとく求める。
a. 直近合意時点における純賃料は、34,557,000円である。
b. 変動率は、110%である。
c. 価格時点における必要諸経費は、9,935,000円+0.04X円
継続賃料のスライド法賃料を求める算式を、下記とする。(P424)
a b c
34,557,000円 × 110% + (9,935,000円+0.04X円)=スライド法賃料X
上記算式よりスライド法賃料(年額)は、
0.96X=47,947,700
X=49,945,521円(月額4,160,000円)
である。
ここで、上記スライド法の算式が間違っていることがわからないか。求められたスライド法賃料が間違っている事が判らないか。
積算賃料を求める時に、積算賃料をXと置いたことを忘れたのか。
3.同一時点で同一建物の必要諸経費は一つで同じである
@ 同一時点で同一建物の必要諸経費は一つで同じである
利回り法、スライド法は求める個所で間違っている事を指摘したから、何処が間違っているかは判ったであろう。
間違いである個所を以下で具体的に指摘するが、その前に重大な認識不足が、テキストを書いた不動産鑑定士達、テキストに間違いがないか査読検討した不動産鑑定士達の賃料についての致命的な知識不足が存在している事を指摘したい。
それは何か。
「同一建物の同一価格時点で必要諸経費は一つである。新規賃料、継続賃料であっても必要諸経費は同じである。」という経済現象の事実認識である。
と云っても、尚、 「本件建物でも必要諸経費は、(9,935,000円+0.04X円) 一つだょ」と反論する不動産鑑定士がいるであろう。そう主張する不動産鑑定士は、基礎から数学と賃料の勉強を仕直していただきたい。
A 積算賃料の必要諸経費
本件の場合、「積算賃料をXとおく」 とした。(P414)
そして必要諸経費を積算賃料Xを使用して、(9,935,000円+0.04X円)とした。
積算賃料の算式を
859,900,000円 × 4.9% + (9,935,000円+0.04X円)=積算賃料X
とする。
上記算式より積算賃料(年額)Xは、
X=54,239,688円
と求められた。
積算賃料が求められたことから、対象建物の必要諸経費は、
9,935,000円+0.04X円=9,935,000円+0.04×54,239,688円
=12,104,588円
12,104,588円と求められる。
同一時点で同一建物の必要諸経費は一つであるから、この求められた必要諸経費が評価対象の建物の必要諸経費であるから、継続賃料の利回り法、スライド法の必要諸経費にも使われなければならないのである。
それをテキスト作成者は、(9,935,000円+0.04X円)の必要諸経費算式が、どの手法の場合にも適応出来ると信じ込み、Xをある時は利回り法賃料、ある時はスライド法賃料として使用した。
Xは積算賃料とおいたのであるから,それが何故利回り法賃料、スライド法賃料になり得るのか。
浅はかな数学の知識である。
B 利回り法の必要諸経費
本件の利回り法賃料の必要諸経費は、利回り法賃料が、49,761,062円と求められていることから、
9,935,000円+0.04X円=9,935,000円+0.04×49.761,062円
=11,925,442円
利回り法の必要諸経費は、
11,925,442円
となる。
C スラド法の必要諸経費
本件のスライド法賃料の必要諸経費は、スライド賃料が、49,945,521円と求められていることから、
9,935,000円+0.04X円=9,935,000円+0.04×49,945,521円
=11,932,821円
スライド法の必要諸経費は、
11,932,821円
である。
Dまとめ
評価手法による必要諸経費は、下記である。
積算賃料 12,104,588円
利回り法の賃料 11,925,442円
スライドの賃料 11,932,821円
金額の差は大きく無いから、手法による必要諸経費の金額の差は大袈裟に問題にする必要性は無いと、求め方の論理の間違いのミスの責任を問われるのを避けようと、もみ消したい人々は必ずいるであろう。
新規賃料と継続賃料の開差が少ない時は、必要諸経費の金額の開差は少ないが、新規賃料と現行支払賃料が30%とか半値と云う大きな開差のある時には、必要諸経費が手法によって違うと云うことは、適正賃料との間に大きな賃料の開差を生じさせることになる。
同一時点で同一建物の必要諸経費は一つである事が、賃料の原則である。賃料評価手法によって異なると云う現象が起こることが間違っている。
もう一つの間違いが、第19回(2024年)実務修習指導要領テキストの『家賃の鑑定評価(評価書編)』にはある。
それは、空室損失を必要諸経費に計上していることである。
空室損失は必要諸経費の性質では無い。
空室損失を経費とすると、空室が多くなれば成る程賃料は高くなるという事になる。
その様な経済現象は無い。
この空室損失について、不動産鑑定士の西田紘一氏が、不動産鑑定の実務理論雑誌の『Evaluation』30号(プログレス 2008年8月15日発行)掲載の論文「判決を歪める不適切な鑑定」P65で、次のごとく述べる。
「空室損に費用性はない。総収入の修正項目である。費用とは収益獲得のための犠牲である。空室を増大させることによって収益が増加する関係にはないので、費用性は否定されている。空室損を費用にしているのは、不動産鑑定士(と地価公示)だけであろう。」
(注 田原記入 地価公示価格は、平成22年よりそれまで必要諸経費としていた空室損失を費用項目から収入に変更した)
間違った鑑定評価例では、実務修習をすることは出来ないであろう。修正されたい。
困った事に、上記実務修習テキストの求め方をそっくり真似して、必要諸経費を
****+0.04X 或いは****+0.1X
等として、利回り法、スライド法の賃料を求めた賃料鑑定書が、賃料裁判の証拠としてあがってくるのである。
不動産鑑定士会連合会はもっとしっかりしなければダメであろう。
これを放置し、修正できない様な連合会会長は辞められた方が良い。
追記 2025年8月26日 空室損失を必要諸経費に入れている事も間違っている
上記第19回実務修習指導要領テキスト(2024年11月1日第1刷発行)は、必要諸経費の空室損失相当額を積算賃料の4%として計上している。
空室損失は経費項目ではない。空室損失を必要経費項目にしている事は間違っている。実務修習指導要領テキストは2つの大きな間違いをしている。
鑑定書例題の模範例とは成り得ないものであろう。即刻修正もしくは削除されたい。専門家としとて恥ずかしいという気持ちが無いのか。
なお、空室損失については、鑑定コラム2900)「まだ空室損失を必要諸経費に計上している不動産鑑定書が流通している」に記した。そちらを読まれたい。
鑑定コラム2883)「地代の基礎価格は更地価格とする2025年不動産鑑定士短答式試験問題」
鑑定コラム2868)「不動産鑑定士協会連合会の2025年実務修習テキストの地代評価の求め方は間違っている」
鑑定コラム2900)「まだ空室損失を必要諸経費に計上している不動産鑑定書が流通している」
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