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2868) 不動産鑑定士協会連合会の2025年実務修習テキストの地代評価の求め方は間違っている


1, 実務修習テキストの地代評価の求め方は間違っている

 @ 鑑定人不動産鑑定士の地代の求め方

 最近、継続地代増額訴訟で、東京地裁の鑑定人不動産鑑定士の不動産鑑定書を見ることになった。

 鑑定人不動産鑑定士は、継続地代を求めるのに、基礎価格を底地価格にして求めていた。

 借地権割合を80%とし、

     更地価格100%=借地権割合80%+底地割合20%

から、底地割合を20%とする。

 基礎価格を、「更地価格×0.2」と求める。即ち底地価格を基礎価格にしていた。  地代の基礎価格は、更地価格であり、底地価格は基礎価格に成り得ないが、東京地裁の鑑定人は、底地価格を基礎価格にして、地代を求めていた。

 鑑定コラムで何度も地代の基礎価格は更地価格であると私は伝えているが、頑として、私の意見を聞き入れなく、底地価格を基礎価格にして地代を求める不動産鑑定士が存在する。

 A 不動産鑑定士会連合会の実務修習テキストの地代の求め方

 東京地裁の鑑定人不動産鑑定士が、底地価格を基礎価格にして地代を求めていることから、ひょっとすると、不動産鑑定士会連合会の実務修習テキストが底地価格を基礎価格にして、新しく不動産鑑定士になる人に教えているのでは無かろうかと思い、最新の第19回実務修習指導要領テキスト(公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会 2024年11月1日発行)の「地代の鑑定評価(評価書編)」を見た。

 そのP328に基礎価格として、次のごとく記されている。

  「 建付地としての価格   底地割合    基礎価格
     3,840,000,000円   ×15%   = 576,000,000円 」

として、基礎価格を求めている。

 底地価格を基礎価格にしている。間違った求め方で地代評価を指導している。

 もう一つの間違いを犯している。

 「建付地としての価格」を基礎価格算出の価格にしている。それは更地価格に6%(使用可能容積率の未使用分相当)の建付減価があるとして求めた価格である。

 土地賃貸人にとって、建物は普通建物所有もしくは堅固建物所有の目的による土地使用を前提にして貸しており、貸地の上の建物に容積率未使用があるとか、建物が古くなったからとか等の、いわゆる建付減価発生を理由によって、地代が安くなることに同意して貸してはいない。

 土地は使用目的に応じた最有効使用に利用される事を前提に貸している。

 建付減価云々は、建物の問題である。

 建物の所有者は借地人である。建物の問題は、借地権者が処理する問題であり、地主の預かり知らぬことである。それを原因として、地代が影響を受ける事は認められない。

 連合会のテキストの建付減価で地代を求めていることは、間違っているのである。

 つまり連合会の地代評価例のテキストは、2つの大きな間違いを犯している。

 この様な求め方が模範的で適正であると、新しく不動産鑑定士になろうとする人に教えることは止められたい。後日紛争になる種を、連合会が、わざわざ作り、広める事は止められたい。

2,賃貸事業分析法は更地の収益である

 鑑定基準は、平成26年改正された。

 その改正に伴い地代の求め方に、「賃貸事業分析法」が取り入れられた。

 地代は家賃と無関係では無く、むしろ家賃より地代を求めるという考え方が、国土交通省によって示されたのである。

 平成26年改正鑑定基準は、次のごとく云う。

 「建物及びその敷地に係る賃貸事業に基づく純収益をもとに土地に帰属する部分を査定して宅地の試算賃料を求める方法」であると云う。(26年改正鑑定基準 国交省版P51)

 この求め方は、従前にあっても、収益分析法の変型として行っていた手法である。改正鑑定評価基準は、今回「賃貸事業分析法」という名称にして独立させたのである。

 この手法は、土地残余法によって土地利益を求め、その利益を借地人(建物所有権者)と土地所有権者で配分し、土地所有権者の配分部分が、地代の純地代となり、これに必要諸経費の土地公租公課を加算したものが、新規実質地代となる求め方である。

 「賃貸事業分析法」の求めている収益は、更地の収益である。

 更地の収益であるということは、地代の基礎価格は更地価格であることを改正鑑定基準は明言していることになる。

 土地残余法は新築建物を想定するのである。既存建物が立っている場合でも、その建物の新築を考えて行うものであり、既存建物が建っているから土地残余法は行えないとか、賃貸事業分析法は行えないという主張は通らない。

3,正常実質賃料は新規賃料である

 鑑定基準は次のごとく云う。

 「正常賃料とは、正常価格と同一の市場概念の下において新たな賃貸借等(賃借権もしくは地上権又は地役権に基づき、不動産を使用し、又は収益する事をいう。)の契約において成立するで在ろう経済価値を表示する適正な賃料(新規賃料)をいう。」

 そして「対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料は、価格時点において想定される新規賃料であり、積算法、賃貸事例比較法等により求めるものとする。 対象不動産の経済価値に適応した適正な実質賃料は、契約に当たってと一時金が授受されている場合については、実質賃料から権利金、敷金、保証金等の一時金の運用益及び償却額を控除することにより求めるものとする。」(26年改正鑑定基準 国交省版P34)

 地代の場合、実質地代(実質賃料に同じ)は、積算法、賃貸事例比較法等で求めよと鑑定基準は云う。

 そして、その実質地代より、権利金が授受されていれば、それを控除して支払地代を求めよと云っている。

 権利金は償却されるものではないことから、その割合相当を控除することになる。

 権利金が授受されていなく、借地権割合相当の価格が発生しておれば、それを権利金相当とみなして控除することになる。

 このことから考えれば、実質地代を求める基礎価格は、更地価格と云うことになる。

 底地価格では、底地価格より権利金相当あるいは借地権割合相当を控除した場合、基礎価格はマイナス金額になってしまう。

 より詳しく云えば、権利金の授受の無い場合の新規地代は、更地価格に期待利回りを乗じて求めるから、基礎価格は更地価格である。

 一時金(権利金)の授受のある場合には、権利金を支払って支払う賃料が新規賃料である。更地の土地を権利金を支払って借りるわけであるから、基礎価格は更地価格である。

 借地権価格が既に発生している場合或いは借地権割合相当の借地権価格が発生している場合には、その借地権割合相当の借地権利金相当の金額を支払ったとみなして支払う賃料が新規賃料である。権利金相当の一時金を支払ったとみなす事から、基礎価格は更地価格である。

4, 新規地代と基礎価格

 新規実質地代とはどういうことかというと、その土地を新規賃貸借する場合の地代ということである。

 「その土地を新規賃貸借する」ということは、新しく借地権を設定し、一時金の授受が必要であれば、一時金(権利金と呼ばれるもの)を支払って、土地を借りるということである。

 そうすると、そこには「底地価格」という概念が入る余地はない。

 何故かなれば「底地価格」は、借地権が既に発生している状態の所有権土地価格であるから、「底地価格」という概念が生じる前の状態で、後で生じることになる底地価格を基礎価格とすることは出来ない。生まれていない赤子を生まれているとして扱うごとくのものである。

 新規実質地代とは、価格時点で、土地の賃貸借契約を新しく結び、権利金の支払が必要ならば、権利金相当を支払って成立する地代をいうのである。

 そうすると、地代を求める基礎となるのは更地価格にならざるを得ない。

 底地価格に期待利回りを乗じて求めた地代は、新規賃貸借契約の地代ではない。

5,地代の基礎価格は更地価格である

 上記より、地代の基礎価格は、更地価格である。

 更地価格より借地権価格を控除して求めた底地価格を地代の基礎価格にして良いとは、鑑定基準は一言も云っていない。

 底地価格を基礎価格にして期待利回りを乗じ、土地公租公課を加算して求めた地代は、新規賃料(新規地代)では無い。

 そもそも継続賃料は、新規賃料あっての継続賃料である。

 適正な継続賃料を求めるには、新規賃料を知り、その新規賃料と比較して現行賃料が高いのか、低いのか、適正かと判断するのである。

 判断指標となる新規賃料が無くて、どうして適正な継続賃料を求めることが出来るのか。そして、それが適正であると云えるのか。

 底地価格を基礎価格にしている地代鑑定は、新規地代を求めずに、新規地代がどれ程か分からずに、地代評価を行っている事になる。


  鑑定コラム2869)
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