地方の中心都市に行ってきた。
その地方都市の代表的なホテルの鑑定評価である。
大規模な工業地帯を持つ地方の中核の工業都市である。
従前は地元では老舗の旅館であったが、平成に入って、旅館から観光都市ホテルに建物を建て替えた。
結婚式場を持つ立派な建物のホテルである。
地元利用客も多く、工業地帯に出張してくるビジネスマンの利用も多かった。
しかし、バブル経済の崩壊と工業地帯の不景気に伴い、宴会も少なくなり、ホテル利用者は減ってしまった。
最盛期には年間売上高は10億円をはるかに超える金額であったが、現在は6億円を切るまでに落ち込んでしまった。
売上高減に伴い借入金の返済も滞り、ついに不良債権化してしまった。
金融機関も多額な融資をしていた関係上、ホテルを助けるべきか、切り捨てるべきか選択を迫られていた。
地元の有力なホテルを見殺しにすることも出来ず、経営陣を一新し、債権放棄をする一方、本格的に再建に乗り出すことになった。
資産の洗い直しが必要であり、所有不動産で処分出来るものは、出来るだけ処分する。
ホテルの収益構造の見直しを行い、確実にホテルが再建できる状態での資産価値の把握を行い、それによって如何ほどの債権放棄を行うべきか決定することにした。
そして、そのホテルの資産価値の評価の依頼が、東京の私のところに来た。
評価するに1つの条件があった。
それは、DCF法を重視して評価額を出してくれと言うことであった。
大口債権者の銀行も、土地建物の価格を中心にして求める積算価格でのホテルの評価額は信用することが出来ないと、既に知っていてのDCF法による評価重視である。
ホテル開業以降の部門別売上高、原価、販管費を全て洗い出し、将来の収入予測、経費予測等を支配人、新経営陣、銀行債権者の意見を十分聞き、討議した。
今後のホテルの修繕・改良費用の見積額を、建設会社に見積もって貰った。
最近の当該ホテルの売上減の最大の要因は、工業地帯の低迷もさることながら、駅近くに出来た低額宿泊費を売り物にして全国ビジネスホテルチェーンを展開するホテルに、ビジネス宿泊客を奪われていることであった。
そして、もう一つのビジネスホテルチェーンのホテル進出が噂されている状況であった。
これらホテル戦争という状況でいかに生き抜くか、将来の収入予測、コスト削減策を関係者に話を聞き、データの分析を行い、頭をひねった。
期間10年のDCF法によってホテルの土地建物の価格を求めた。
経営配分利益も計上した。
借入金も考え、その元金・利息返済も考えた。
借入金を考えてDCF法を求めないと、銀行は求めた評価額に納得しない。
ホテルの評価で最も頭を痛めるのは、収入の予測と稼働率の予測である。
貸ビルの評価とホテルの評価とは根本的に異なる。
貸ビルの評価のつもりでホテルの評価を行ったら、失敗する。
結果としてのホテルの評価額は、年間売上高に近い金額になった。
積算価格も試算したが、積算価格はDCF法価格の倍近い価格で求められた。
地方ホテルの鑑定評価を行って、改めて肌に感じたことは、経費削減という日本の多くの企業経営の方針から、地方にある各企業の支店、営業所の多くが閉鎖された。
営業拠点の閉鎖のかわりに、出張してホテルに泊まって業務をこなすようになってきた。
これら日本の多くの企業の経営変化を敏感に感じ取って、企業の出張ビジネスマン利用をターゲットにした低額な宿泊料をうたい文句にした全国ビジネスホテルチェーンが地方都市に進出してきた。
この低額な宿泊料をうたい文句にした全国ビジネスホテルチェーンの進出に依って、地方の既存ホテルは、相当な経済的・経営的打撃を受けていると言うことである。
私はコンサルタントでもなく、公認会計士でもなくアドバイスする能力を持っていないが、銀行がホテルの再建に取り組む場合には、債権放棄する銀行は放棄する債権の幾ばくかは、株式にしていずれの日にか、配当という形で債権の回収を図っても良いではなかろうかと思う。
鑑定コラム32)「企業収益還元法」