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433)不動産鑑定士試験短答式のある出題問題

 平成20年度の不動産鑑定士の短答式の試験が、2008年5月中頃に行われた様である。

 ある人より、その中で出題された一つの問題を知らされた。
 私に解いてみよということか。

 その問題は次の様なものであった。問題の文章は、試験問題と全く同じでは無い。

 「下記条件で新築の貸家及びその敷地がある。その還元利回りを求めよ。
    (基本条件)
    1.割引率      8%
    2.純収益は一定
    3. 建物の経済的耐用年数   30年
    4. 保有期間     9年
    5. 価格時点における土地の価格   5000万円
    6. 価格時点における建物の価格   5000万円
    7. 保有期間における土地価格の変動率  +10%
    8. 保有期間における建物価格の変動率  −30%
  (選択条件)
  1. (1+0.08)の9乗=2.00
  2. (1−0.08)の9乗=0.47
  3. 0.08×(1+0.08)の9乗=0.16
  4. 0.08×(1−0.08)の9乗=0.04     」

 価格時点における土地建物の価格がどういう種類の価格か分からないが、新築の建物という課題であるから、価格時点で新築された建物と思われる。

 その土地建物価格は1億円と基本条件で設定されているが、積算価格なのか収益価格なのか比準価格なのか、それとも鑑定評価額であるのか分からない。

 割引率を使用し、還元利回りを求めよと云っているのであることから、収益価格では無いかと思われる。

 9年後の保有価格変動率によって求められる価格も収益価格でないと、整合性がとられないことから、収益価格と考える。

 収益価格の基本公式は、
     収益価格=純収益÷還元利回り
である。

 本件課題は、上記公式の中の「還元利回り」を求めるものである。

 還元利回りと割引率の間には、次の関係が成り立つ。
     還元利回り=割引率−純収益の変動率

 純収益の変動率が0であれば、
     還元利回り=割引率
ということになる。

 一方、n年後の収益が一定で、価格に変動がある場合には、
     還元利回り=割引率−価格変動率×償還基金率
という式で還元利回りは求められる。

 本課題は、上記式を利用すれば求められそうである。

 本課題の9年後の土地建物の価格は、
  土地   50,000,000円×1.10=55,000,000円
  建物   50,000,000円×0.7 =35,000,000円
    合計             90,000,000円
である。

 9年間の価格変動率は、
       90,000,000円÷100,000,000円=0.9
       0.9−1.0=−0.1
である。

 償還基金率は、『賃料<家賃>評価の実際』p258(田原著 清文社)で次のごとく説明する。

 「償還基金率とは、n年後1円にするために毎期末に預託すべき率をいう。
 耐用年数n年の建物の取得価格を、n年後に再取得するために、年利率r毎年末に一定額を償却額とし積立てる場合に使用する率が償還基金率である。
 償還基金率の算式は、

       r/((1+r)のn乗−1)

       但し、r:利率
           n:年数
である。年金終価率の逆数である。

 例えば、取得金額3000万円の建物があったとする。20年後に再取得する為の年の償却額を求める。利率は5%とする。利率5%、期間20年の償還基金率は、上記式より0.030243と求められる。

 償却額は、

      3000万円 × 0.030243 = 90.73万円

と求められる。

 利率5%、期間20年の年金終価率は33.065954である。90.73万円に年金終価率を乗ずると、

      90.73万円 × 33.065954 = 3000.0万円

となり、毎年90.73万円を年利5%で20年積立てると確かに3,000万円になる。」

 償還基金率の式は、分数式で、分子が利率、分母が複利終価率より1を差し引いた分数式である。

 本課題の償還基金率を求めると、利率は8%(割引率を利率とみなす)、期間は9年であるから、
      0.08÷((1+0.08)の9乗−1)
である。

 ここで(1+0.08)の9乗は、選択条件で2となっているから、これを使用する。
 求める償還基金率は、
      0.08÷(2−1)=0.08×1=0.08
である。

 課題の求める還元利回りRは、前記還元利回りと割引率の公式から、

 
   R=0.08−(-0.1)×0.08
    =0.08+0.008
    =0.088
 
8.8%と求められる。

 果たしてこれが正解かどうか私には分からない。
 間違っていれば、私は平成20年度不動産鑑定士試験の短答式の試験に落ちたと云うことになろう。

 一方、インウッド法によっても、還元利回りは求めることが出来る。
 インウッド法では純収益が880万円と求められる。
 元本価格が1億円であるから、還元利回りは、
      8,800,000円÷100,000,000円=0.088
8.8%と求められ、先の考え方から求められた還元利回りと同じ値が求められる。

 本課題の出題者が、インウッド法で求めることを想定して課題を作成したかどうかは私には分からない。

 もしインウッド法で求めることを考えて出題されたのであれば、私は出題者に対して、その出題の姿勢を問う。

 何故かならば、不動産の価格は収益あっての価格である。収益は価格あっての収益では無い。
 つまり、
 「収益あっての価格であり、価格あっての収益では無い」
ということである。

 インウッド法で求めた場合、価格より純収益を求めることになる。そして還元利回りを求めるのである。

 この求め方は、前記「 」した考え方の逆で有り、本末転倒している事になる。

 出題者の考え方は、価格から純収益を求めて還元利回りを求めるという考え方では無いと私は思いたい。

 実務において、そもそも割引率8%をどの様にして求めるのかが重大事である。その割引率が分からないのが現実である。

 また不動産鑑定の目的は、価格時点の不明な価格を求めるのが仕事である。
 その不明であるべき価格時点の価格が、1億円と分かっていることなどあり得ない。
 加えて9年後の土地価格の変動率など予測出来るものでは無い。

 価格時点の価格、期間の割引率、9年後の土地価格の変動率が分かった状態の不動産鑑定評価などあり得ない。

 9年という年数以外は全て未知であるのが、現実の不動産鑑定の作業内容である。その未知のもの全てを、自分で適正数値を探し求めて鑑定評価額に到達するのである。

 そう考えれば、本課題は、私にはいささか異様な出題問題と映る。

 出題の内容表現について枝葉末節の事になるが、出題問題に「結果については少数点第4位以下を四捨五入する。」と明記しているならば、出題の選択条件も同一条件で表示すべきでは無かろうか。

 出題内容に整合性がとられていないという批判はされよう。
 本件試験は、国家資格の国家試験である。もっと出題表現に注意を払うべきであろう。


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