知り合いの不動産鑑定士から電話が架かってきた。
私に教えて欲しいとのことだった。
「何だ?」
と問うと、
「継続賃料の従前賃料合意時点についてだが・・・」
という。
話を聞くと、裁判所を通じて、代理人弁護士から鑑定人不動産鑑定士のいう従前賃料合意時点が違うという反論が出され、裁判所から問い合わせがあったのだという。
私に問い合わせた不動産鑑定士は、裁判所の鑑定人として、継続賃料の評価をしたのである。
「あなたはどの様に判断して鑑定したのか。」
と私は聞いた。
電話の不動産鑑定士は言う。
「平成10年より賃貸借契約しており、期間2年ごとに契約更新している。
最後の契約更新は平成18年です。
価格時点は平成20年の時点の賃料を求めるものでした。
それで、私は最後の更新時に現在賃料は決められたのですから、平成18年を従前賃料合意時点としたのです。
そうしたら、代理人弁護士から、賃料は平成10年1月8日の賃貸借契約で月額20万円とし、賃貸借期間は平成10年2月1日から2年間と決められた。その後期間更新されたが、賃料は変更されていないのであるから、従前賃料合意時点は平成10年2月1日であると主張してきて、鑑定人不動産鑑定士の判断は間違っていると反論してきたのです。
私は、最後の平成18年に契約合意したのであるから、平成18年が従前賃料合意時点と思いますが、私の考えは間違っているのでしょうか。
それを田原さんに教えてもらいたいのです。」
と言う。
私は聞いた。
「現行賃料はいくらなのだ。」
「月額20万円です。」
「その前の賃料の変更は?」
「月額20万円のままで、契約当初から一度も賃料改定されていません。」
と電話の相手は答える。
「ということは、平成18年の更新時の賃料も月額20万円ということですか。」
と私は聞き直した。
「そうです。
平成18年の更新契約でその金額になっています。」
と返事する。
「悪いけれど、あなたの従前賃料合意時点の捉え方は間違っていますょ。
従前賃料の合意時点、即ち現行賃料を定めた時点と云うのは、契約で現行賃料の支払を決められた賃貸借期間の始期をいうのであり、本件の場合月額20万円の支払を行うことになったのは、平成10年2月1日ですから、平成10年2月1日が従前賃料合意時点です。
平成18年は月額20万円の賃料合意をしているが、月額賃料20万円に改定されたのでは無い。賃料の改定は行われていない。平成18年は期間更新されたのみです。
平成18年に、それまでの月額20万円の賃料が22万円になったというならば、すなわち賃料改定されたというならば、平成18年が従前賃料合意時点と言うことになるが、賃料20万円の金額は変更していない。
つまり賃料改定されていない。このことから、平成18年を従前賃料合意時点とすることは間違いです。
あなたの従前賃料合意時点の把握は間違っていることから、自分の考え方は間違っておりましたと素直にその旨を裁判所に言って、平成10年2月1日を従前賃料合意時点として、鑑定評価をやり直し、鑑定書を差し替えた方が良いですょ。
誰だって間違いをすることはありますから。
裁判所が問い合わせて来たことは、裁判官も少しおかしいと思っている証拠であり、それを平成18年が従前賃料合意時点であると頑強にあなたが主張していると、裁判所にも迷惑がかかり、代理人弁護士若しくは訴訟当事者から、不当鑑定で国交省に訴えられかねないょ。」
と私は説明した。
電話の不動産鑑定士は相当動揺している様子が、電話でも伝わってきた。
なお、従前賃料合意時点は、従前賃料を合意した契約年月日時でも無い。
契約年月日と賃貸借期間の開始年月日時点とがずれている場合の契約は多くある。
賃貸借期間の開始年月日を過去に遡る賃貸借契約もあり、そうした場合、賃貸借契約日を従前賃料合意時点とすると、論理が合わない現象が生じてくる。
その逆の場合もある。
ある別の日に或る日時点の賃料を決めた後、2年後、或いは3年後の賃料を決める賃貸借契約もある。誤解を招くと行けませんので、この場合の賃貸借契約は、長期間の自動改訂特約条項がある賃貸借契約のものでは無いとする。
上記の場合に賃貸借契約した時点を従前賃料合意時点とすると、5年後に賃料紛争が生じた時、やはり論理が合わない現象が生じてくる。
鑑定コラム868)「現行賃料を定めた時点とは現行賃料に改定された時を云う」
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