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868)現行賃料を定めた時点とは現行賃料に改定された時を云う

 継続賃料の評価は、差額配分法、スライド法、利回り法等の手法で行うが、スライド法と利回り法で基準とする時点として「現行賃料を定めた時点」という時点がある。

 現行賃料とは、現在支払っている賃料のことを云い、「従前合意賃料」とも云う。

 不動産鑑定評価基準において、スライド法は、「現行賃料を定めた時点における純賃料に変動率を乗じて・・・・・」と乗じる現行賃料の純賃料の確定時点を、「現行賃料を定めた時点」という。

 利回り法では、鑑定評価基準は、「現行賃料を定めた時点における基礎価格に対する純賃料割合を標準とし・・・・・・」と、継続賃料利回りの確定時点は「現行賃料を定めた時点」とする。

 鑑定評価基準は、「現行賃料を定めた時点」と云うだけで、その時点の具体的定義を明確に示していない。

 その為に、この時点について、不勉強な不動産鑑定士が勝手に自己判断して賃料鑑定を行っている。

 従前賃料合意時点の知識は、賃料評価においては基本中の基本である。

 これが分からず、又、間違えて賃料鑑定評価を行った場合、その賃料鑑定は、致命的な間違いを犯したことになる。
 その行為は重過失であり、不当鑑定になり得る。
 
 間違いの多くは、例えば2年前に現行賃料は契約合意したのであるから、その時点が現行賃料を定めた時点であるという鑑定行為であり、主張である。

 支払賃料月額100万円と2年前に契約したから、その契約した2年前が現行賃料を定めた時点という類である。

 しかし、2年前に100万円の賃料になったのは、期間更新の契約によるもので、月額支払賃料の金額には変動は無く、月額支払い賃料が100万円になったのは、その2年前であったという契約経緯があったとしたら、現行賃料(従前合意賃料)を定めた時点は、4年前ということになる。

 100万円に改定されたのは、8年前であったとし、その後100万円の賃料の額が変わっていないとしたならば、現行賃料(従前合意賃料)を定めた時点は、8年前ということになる。

 現行賃料を定めた時点とは、現行賃料に賃料が改定された時点を云うのである。

 改定されていなければ、その時点は現行賃料を定めた時点にはならない。

 より分かり安く具体的例で説明する。

 賃料改定の経緯が、下記のごとくであったとする。
 月額支払賃料とする。

        平成14年1月   90万円
        平成16年1月   100万円
        平成18年1月      100万円
        平成20年1月   100万円
        平成22年1月   100万円
        平成24年1月   争い
  
 この賃料経緯の場合の現行賃料を定めた時点は、平成16年1月である。

 これを平成22年1月と評価している不動産鑑定士がいるが、それは間違いである。
 平成22年1月は、現行賃料を定めた時点ではない。

 それは、平成22年1月に100万円と改定されたのではない。
 平成22年1月では、既に賃料は100万円になっていた。
 100万円になったのは、即ち改定されたのは、平成16年1月である。
 この時点が、「現行賃料を定めた時点」である。

 上記の契約経緯で、平成22年1月が現行賃料を定めた時点であると主張する不動産鑑定士が少なからずいる。

 代理人弁護士も契約したのは、平成22年1月であるから、平成22年1月が鑑定評価基準が云う「現行賃料を定めた時点」であると主張する。

 私が、

 「それは違う。
   平成16年1月である。」

と指摘すると、平成22年1月を「現行賃料を定めた時点」として賃料鑑定した不動産鑑定士は、間違いと指摘されたことでプライドを傷つけられたのか、猛然と自分の鑑定は正しい、間違っていない、間違っているのは田原鑑定の方であると反論、主張してくる。

 自分の鑑定が間違っているにも係わらず、それが分からないのか、自分の鑑定の正当性を主張する為か、逆に不動産鑑定士田原拓治の作成した鑑定書は杜撰な鑑定だ、不当鑑定だと云ってくるのである。

 相手側に立つ不動産鑑定士の意見に力を得たのか、間違っているのにも係わらず、相手側代理人弁護士も猛然と凄まじい勢いで私に反論してくる。
 侮辱的な言葉で非難・批判してくる。

 依頼者の要望・主張を通すために、その代理人弁護士は、時として黒を白と云うのも商売の内であると嘯く弁護士業にあって、弁護士の主張は間違っていると真っ向から刃向かう私に対して口汚くののしることを何とも思っていないであろう。

 こうした時に、私は、弁護士という職業のいやらしさをつくづく見る事になる。
 相手側代理人弁護士と私の間で、大喧嘩が始まる。

 不動産鑑定士も自分の鑑定が間違っているにも係わらず、間違いを認めず、あくまでも正しいと主張することは、見上げた態度だと私は思うが、それも度が過ぎると、不当鑑定の措置請求が待っていることを充分考えておいたほうが良い。

 不動産鑑定士は、弁護士とは立つ位置、土俵が違うということを知っておくべきである。

 不動産鑑定士としての一生を、棒に振る羽目になるかもしれない。

 平成3年3月に、社団法人日本不動産鑑定協会が発表した『借地借家法改正に関する報告書(借地借家制度検討委員会検討の結果)』(飯田武爾委員長、副委員長江間博)の報告書がある。

 そのP58に、「実績利回り法」(現在の利回り法に相当、検討当時は未だ現行の改正鑑定基準が出来て居なかった) の求め方について、次のごとく述べる。

 「この手法は過去における賃料改定時期における純賃料の、当時の不動産価額に対する・・・・・

 この手法は下記により示される。

   現行家賃改定時の純賃料÷当時の不動産価額=d%

 ・・・・・・・・  」

 上記求め方の算式は、現在の利回り法の継続賃料利回りの求め方と同じである。d%が賃料改定時の継続賃料利回りである。

 鑑定協会の借地借家制度検討委員会は、現行賃料を定めた時点とは、「現行家賃改定時」と云っているのである。
 「家賃改定時」である。

 改定されていなければ、その時点は「現行賃料を定めた時点」にはならないのである。

 私も著書、『賃料<地代・家賃>評価の実際』(プログレス 2005年12月)のP181で、スライド法の変動率の基点はいつかについて、それは「従前賃料合意時点」であると云っている。

 この従前賃料合意時点について詳しく説明していないが、同頁で、

 「賃料改定が数回あった場合、現行賃料とは最終賃料改定時の賃料ということである」

と述べている。

 著書を書き直す時には、もっとはっきりと、

 「現行賃料を定めた時とは、現行賃料に改定した時のことをいう」

と、よりはっきりと書くことにする。

 鑑定評価基準も、間違った賃料鑑定の発生を防ぐために、「現行賃料を定めた時」という表現で無く、「現行賃料に改定した時」と云う表現に書き直した方が良い。

 鑑定協会、国交省は、鑑定評価基準の「現行賃料を定めた時」の個所を修正せよと私は主張する。


  鑑定コラム665)
「従前賃料合意時点とは」

  鑑定コラム646)「自らの間違いを正当であると主張する不動産鑑定士がいるいる」


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