東京から遠く離れた日本海に面する小さな町だった。
半農半漁の町であった。
土地価格の不動産鑑定評価に関係して、土地の取引事例をあちこち聞きながら捜し求めた。
旧市街地の外にある総合病院の近くに住宅地の分譲地があり、そこへ行けば取引事例が見つかるのではないかと教えてくれる人がいた。
町の旧市街地のはずれに総合病院はあった。
農地を潰して作られた総合病院の様であった。
その周りに農家住宅もあるが、農地を造成して新しい住宅が建っていた。
日中は人影が見えない。
新しい家の呼び鈴を鳴らした。
老人がドアを開け、怪訝そうに私を見る。
取引事例を捜していると言う事情を話した。
こうした取材に断る人もいるが、中には取材に応じてくれる人もいる。
取材に応じてくれた。
そして土地価格の話をしてくれた。
土地を購入したのは7年程前という。
建物もそのあと建てた。
7年前と現在も土地価格は同じという。
土地価格は日本全体では下がっているから、下がっているのではないかという問にも、この地域では変動は無いという。
上がりもしないが下がりもしないという。
近くに分譲の土地があったが、その土地の現在売り出し中の価格も、7年前と同じという。
そういうものかと思ったが、どうも合点がいかず、別の聞き方をした。
「ここの土地をどうして選んだのですか。」
「前は町の中に住んでいたが、病院に通うのに不便で、病院に近いここを選んでここの土地を買った。」
「病院に近いことはそんなに良いのですか。」
「この周辺に住んでいる人は、町中から病院に近いからと言って引っ越して来た人々が殆どだょ。
歳行くとなんだかんだと言って、病院通いになる。
総合病院の近くにいれば、何かあったとしてもすぐ病院に駆け込めて安心だ。
この町の高級住宅地は、総合病院に近いここの地域だょ。
他の町のことは知らないが。」
と老人は話す。
総合病院は病気を持ったいろんな人が集まる処であるから、避けたい施設と思っていたが、その考えは間違いの様だ。むしろ総合病院の近くに住もうという人が出て来た現象に戸惑いを感じつつ、他の取材に向かった。
地方の小さな町の不動産業、建売住宅業は、総合病院の近くに宅地開発或いは建売住宅を建てることは新しい手法かも知れない。
鑑定コラム1149) 「大手不動産業は景気が良さそうだ」
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