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831)恐山

 「はやぶさ」は速い。

 東京から新青森まで、東北新幹線の「はやぶさ」に乗った。
 速い。
 東京より3時間10分で新青森の駅に着く。
 青森から東京の日帰り出張が出来そうである。

 青森県むつ市にある山林の評価で、青森に行って来た。

 新青森駅前でレンタカーを借りて、むつ市に向かった。

 途中、長い間会っていない青森市内の知り合いの不動産鑑定士を表敬訪問し、旧交を温めたのち、むつ市に向かった。

 浅虫温泉街を抜け、野辺地の市街を通る。
 下北半島の西側、陸奥湾沿の起伏ある道を走る。
 車は少ない。
 地元のドライバーは、時速60kmを遙かに超えて車を飛ばしているものもある。

 陸奥湾に向かって大きなプロペラが廻っている。
 風力発電機のプロペラである。
 風が強い土地であるのだろう。
 どれ程の電力を産み出しているのであろうか。

 評価依頼を受けた土地はむつ市内の山林である。
 その土地が何処にあるのか、場所を地図上に特定することが何より最初に行う作業である。

 登記所で公図で所在確認をしょうとしたが、公図は対象地周辺の土地地番を示す図面でしかなく、その土地が大字のどの位置にあるのかを示してくれない。

 登記官に公図以外に対象地を含む大きな地番図は無いかと問えば、公図以外に無いという。

 山林評価で遭遇する畏れていた状況がやはり来た。
 対象地が何処にあるのかわからないのである。

 弱った。

 植林されている山林の場合は、森林組合に行って林班図を見せてもらって対象地を捜すことは出来る。但し森林組合に管理委託している場合であるが。

 対象山林は、依頼者の話では、所有者自身何処にあるのか分からない状態であることから、手入れされていない雑木林の山林と思われる。

 市の税務課に行くことにした。
 むつ市の税務課に行き、事情を話した。
 土地宝典か大字地番図を見せてもらうためである。

 税務課の人はパソコンに向かってキーをいじくっていた。
 パソコンで、航空写真と公図の地番とをマッチングする手法で対象地を捜してくれた。

 そのマッチングから推測して、1万5千分の1の地図に対象地を図示することが出来た。
 随分と便利になったものである。

 航空写真と公図をマッチングするシステムの設置には、多大な費用が掛けられたのではないかと推測する。

 課税する側としても、その課税する土地がどこに所在しているのか把握していなければ課税上問題があることから、そのシステムを取り入れたものと思う。 税金の使い方としては、良い使い方である。

 不動産鑑定士の中でも、実務で早くからパソコンで航空写真と公図をマッチングして対象地を確定している人もいる。
 確実な対象地の特定方法である。
 その手法を取り入れた不動産鑑定士は、先見の明のある優れた人である。

 役所関係の調査を取り敢えず終えた。

 その日は、むつ市にあるホテルに泊まることにした。
 ホテルは、むつ市の南東の高台にあった。
 「むつグランドホテル」というホテルであった。

 ホテルの客室の窓から、むつ市街地が一望出来、又市街地の背後にそびえる釜臥山が大きく見えた。
 むつ市の人々にとっては、この釜臥山が、朝な夕なに見て生活した心に刻まれた故郷の山では無かろうかと思う。

 ホテルの泊まり客は、ツアーの高齢者の団体が多かった。
 熟年夫婦のツアーもある。

 こちらは、同じ年代とはいえ、一人でレンタカーを借りてのハードな仕事である。
 仕事無しで、ゆっくりとツアーの温泉旅行の老後を楽しみたいという愚痴もつい出て来る。

 ホテルの人に聞けば、「恐山」は、ホテルから車で30分で行けるとのことであった。
 
 いつの頃か「恐山」という山の名前を知った。
 漢字の字面から何だか怖いところという印象が強く、訪れて見たいという気など全く起こらなかった。

 また死んだ人の霊を呼び寄せる「イタコ」という女性がいるとも聞いた。

 そんな怖ろしいところは御免と長い間思っていたが、すぐ近くに来てみると、

 「むつ市には、もう二度と来ることは無いであろう。
 怖い印象を持つところでもあるが、車で30分で行けるところならば、この際行って見ようか。
 怖いところだったら、すぐ帰ればよい。」

と思い訪ねる決意をした。

 翌朝、ホテルで朝食を早く終えて、「恐山」に車を飛ばした。

 登り坂の連続である。
 山を登るのであるから、それは当然である。

 街道沿には、市主催のマラソン大会の幟があちこちに立てられている。
 恐山マラソン大会の行事が、数日後に開かれるようであった。

 マラソンで多くの人が走る道ならば、怖いところではないであろうと思い、坂道を登った。

 途中に三つの竹樋から清水が出ている場所があった。
 駐車出来るスペースが確保されている。

 と言うことは、ここで車を停めて、口をすすぎ、手を洗って行けという手水舎ということか。

 口をすすぎ、手を洗った。

 車は登る。
 登り切ったところに恐山の霊場はあると思っていたら、道は下り坂になる。

 どうして下るのか、折角登ってきたのにといぶかった。

 あまり長く下り坂が続くので、道を間違えたのではなかろうかと思い、車を停めた。

 カーナビで確かめてみた。
 道順はあっていた。

 下り坂が続いた先に湖が見えて来た。
 大きな湖である。
 こんな山頂に湖があるのかと驚く。

 湖の水の落ち口の橋を渡った。
 この湖の水の落ち口の川は、三途の川か。

 あまり良い気持ちはしないが、三途の川を渡ると、目の前に地中から吹き出した火山の溶岩が固まって風化して出来た奇岩のかずかずの姿が飛び込んで来た。

 白い湯気が立ち上っている。
 硫黄の匂いがする。

 寺の板は、雪と風雨にさらされて、ささくれ、砂色になっている。
 寒々しい状景である。不気味さを漂わせる。

 観光客は多くは無いが来ていた。
 もし私一人であったならば、即時に帰っていたと思う。

 イタコはいなかった。
 20年程前であったか。
 知り合った千葉の工務店の棟梁が、同居している母親が恐山のイタコであると云っていた。

 あのとき、その工務店の棟梁に頼んで、棟梁の母親であるイタコに、本当に可能かどうか分からないが我が父母の霊の呼び寄せをしてもらって措くべきだったと後悔する。

 評価対象である山林を目指して山に入る。車は入らないから、勿論徒歩である。
 高圧線を目印に進む。

 途中より道はあやふやになり、雑木林をかき分けて進む。

 昨日、むつ市役所の人の、

 「キノコ取りで熊に襲われたという情報は、今年はまだ来ていませんが、熊がでるかもしれませんょ・・・・・?」

という言葉が耳に残る。


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