建設協力金とは、賃貸建物を建てるに際して、その建物に入居する予定の賃借人が建物建設に協力し、建設資金の全額或いは一部を提供するお金をいう。
建設協力金は、ある一定の期間が過ぎると、賃借人に返還される。それは無償の場合もあり、有償の場合もある。
建設協力金は、保証金とは密接な関係がある。
建設協力金の発生のいきさつについて、阿部惇先生が『不動産実務相談』p210(不動産法研究会、有斐閣、1974)で、貸ビル業界の歴史的時代背景から3つの事情を述べられている。
一つは、戦後のビル建設資金の困難性である。
それについて阿部惇先生は次のごとく述べておられる。
「戦後しばらくのあいだ銀行の融資にはいろいろの規制があり、ビル建設資金の融資順位は最下位に近くランクされていたため、銀行からの資金借入れが容易でなかったこと。」
二つ目は、地代家賃統制令の存在である。
それについて阿部惇先生は次のごとく述べておられる。
「ビルの賃料も地代家賃統制令による認可統制家賃の影響を受け、賃料相場が低かったので、たまたまビル建設資金を銀行から借りられたとしても、その金利負担に耐えうる貸しビル経営が困難であったこと。」
三つ目は、権利金が課税対象であったと云うことである。
それについて阿部惇先生は次のごとく述べておられる。
「無利子で運用できる敷金制度があったとはいえ、その額は、せいぜい家賃の6ヶ月くらいが相場であり、また権利金をとると課税対象にさせられるマイナスがあったこと。」
こうした歴史的時代背景にあったが、貸ビル需要は旺盛にあり、それに貸ビル供給者は応えるために、建設協力金という業態慣習が出来た。
それについて阿部惇先生は次のごとく述べておられる。
「貸ビルの建設すなわち供給は、需要に応じ切れなかったのです。
そこでビルの需要者側が長期・低利の資金をビルのオーナー側に貸付て貸ビルを建設させるといった協力態勢が考えられました。
したがって、その名称もその当時は「建設協力金」とされる例が多かったのです。」
この建設協力金が保証金という名称に変わっていくが、それについて阿部惇先生は次のごとく述べておられる。
「そして、協力金という名称だと、テナントに共同経営者的意識を持たせて、オーナーが賃料値上げの交渉などを行う場合に難渋するし、新築後相当期間経過した貸ビルにおけるテナント交代や、そのようなビルを新規に賃貸する場合に、この名称では実感が伴わず、また空室危険に対処して「入居期間の保証」という意味をもたせる場合に、この名称では都合が悪い、などということで、保証金という名称に代えられていきつつあります。」
建設協力金と保証金とは密接な関係があることが、上記阿部惇先生の記述から分かる。
現在は、地代家賃統制令の規制は無い。
銀行からの融資も借りやすく、上場会社の不動産会社には増資及び社債発行による資金調達の方法もあり、貸ビル建設の資金は戦後しばらくの頃と較べると雲泥の差がある。
そうしたこともあり、現在の貸ビルは、貸ビル業者が自己資金等で自ら調達してビルを建てている。
貸ビル完成後、入居者から入居時に保証金を授受している。
現在、建設協力金のシステムが利用されているのは、シッピングセンター、ビジネスチェーンホテル等の建設の場合であり、賃貸建物の全体から見れば、利用は限定的であり少ない。
その場合も、建設協力金、保証金、敷金が混在して利用されている。
鑑定コラム231)「保証金が100ヶ月とゼロの店舗支払家賃は同じなのか」
鑑定コラム1902)「著書の中の保証金についての著述」
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