○鑑定コラム


フレーム表示されていない場合はこちらへ トップページ

田原都市鑑定の最新の鑑定コラムへはトップページへ

前のページへ
次のページへ
鑑定コラム全目次へ

1076)木賊葺(とくさぶき)

 平成25年度の桐蔭横浜大学の新学期の講義が始まった。

 今年も、新3年生に対して、不動産鑑定評価を教えることになった。

 今年から、大学生の就職活動は、来年3月以降になったということは、大変喜ばしい。

 大学生の就職活動が年々早くなり、新3年生になると企業廻りをする学生が多くなり、講義に出てこない学生が多かった。

 大学生活の中で、3年生という時期は、最も充実している一年間であり、思考、知識を深めるに適している時である。

 その時期に就職活動に時間を取られ、学ぶ事の時間が少なくなることは、大きな損失である。

 社会、企業は、学生を育てようという考えが無いのではないかと私は思っていた。
 
 就職活動開始が、3年生の終わりの来年3月になったことは、良いことである。

 4月から始まった不動産鑑定評価の講義は、不動産の基礎を教えている段階である。

 現在は、不動産の価格の特徴について話している。

 不動産の価格の特徴の一つとして、

     「価格は変動の過程にある」

ということが挙げられる。

 この特徴の説明として、別の言葉がある。

 「今日の価格は、昨日の展開であり、明日を反映するもの」

という言葉である。

 櫛田光男先生の言葉である。

 この言葉に接する度に、私は、鴨長明の『方丈記』の書き出しを思い出す。

 「行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。世の中にある人とすみかと、またかくの如し。玉しきの都の中にむねをならべいらかをあらそへる、たかきいやしき人のすまひは、代々を經て盡きせぬものなれど、これをまことかと尋ぬれば、昔ありし家はまれなり。」

 そこには、今から800年前、西暦1200年初めの頃の鎌倉時代の京の都の姿が述べられている。

 人生の流転を、川の流れとすみかの移り変わりに見立てて書かれている。

 800年前に世の姿を描くに、不動産を利用して描写する。

 学生に、何故、鴨長明の『方丈記』の書き出しを話すかというと、不動産は重要なものであることを知らしめるためである。

 800年もの昔の人も、不動産を使って、その時代を描写するほど不動産に存在価値があったのだと云わんがためである。

 鴨長明の『方丈記』の書き出しに出て来る不動産に関する言葉は、

   「すみか」、「むね」、「いらか」、「すまひ」、「家」

である。

 この中で、「いらか」という言葉は何かと、学生にとっては疑問が生じることになる。

 そこで、「いらか」の説明になる。

 いらかとは、棟瓦を指す場合もあるが、切妻屋根の家の妻側に出来る三角形の外壁部分をいう。

 切妻屋根という言葉が出て来たので、切妻屋根とはどういう屋根かという説明をしなければならなくなる。

 屋根の種類を説明する。

                片流れ
                陸屋根
                切妻屋根
                寄せ棟屋根
                入母屋屋根

の屋根の説明に入る。

 徐々に話が横道にそれて行く。

 「陸屋根」は、「ろくやね」と読む。

 「りくやね」とは読まない。

 「ろく」とはどういうことかと説明し、そして「ろくでなし」という言葉の語源に及ぶ。

 入母屋屋根は、日本家屋の中で最高の屋根形式であるが、何故最高なのか。

 寄せ棟屋根に「いらか」を付けたのが入母屋屋根である。

 人手、時間、費用が、寄せ棟屋根よりもより多く入母屋屋根はかかる。

 金をかけて、「いらか」を造ることは、高品等の屋根ということにつながる。

 屋根の型についての話に入れば、屋根の葺材にも話が続く。

      茅葺
            瓦葺
            セメント瓦葺
            スレート葺
            鋼板葺
            銅板葺

 そして、日本古来の屋根材の話になる。

            檜皮葺(ひわだぶき)
            こけら葺
            木賊葺(とくさぶき)
            栩葺(とちぶき)

 こけら葺の「こけら」とは、木曽五木の一つである「さわら」の1分厚の木片で、その木片を何層にも重ねて造る屋根がこけら葺である。

 漢字では、果実植物の「かき」と「こけら」の字が混同して、こけらの字を「かき」と読んで使っている。

 「柿」として使っている漢字が、「こけら」である。

 即ち、木偏の右側が上に横「一」、その下に「冂 」を書き、上から縦棒を引いた漢字である。

 果実植物の食べる「かき」は、木偏の右側は、上に鍋ぶたの「亠」、下に「巾」が、「かき」の漢字である。

 「かき」は、上の鍋ぶたの「亠」と下の「巾」の間に隙間がある。即ち離れている。

 「こけら」の縦棒は、切れていなく上から縦一本である。

 「こけら」の右側は4画、「かき」の右側は5画である。
 
 果実植物の食べる「かき」の筆順をひもとけば、違いを知ることが出来よう。

 「こけら」は、1分厚と云うことから、1分の厚さはメートル法でどの位の厚さかと言うことになる。

 1尺は30.3cmで10寸、1寸は1/10尺で10分、1分は1/10寸で10厘、1厘は1/10分で10毛と、尺貫法の説明がいる。ここより、1分は3ミリの厚さと説明する。

 木賊葺は、板厚が1〜3分の板材を使った屋根を云う。

 栩葺は、板厚が3分以上の板材を使った屋根を云う。
 
 木賊葺、栩葺の建物は現在殆ど残されていない。

 木賊葺は、京都右京区の福王子神社で見られると云う。
 その神社には「さざれ石」もあると云う。

 以前京都に行った時、祇園にある建仁寺の建仁寺垣を見てきた。
 嵐山に行った時、天竜寺の竹林の道の両側に造られている竹垣を見てきた。
 それは、簑垣とは反対で竹穂が上を向いており、一見粗雑であるが野趣ある竹穂垣であった。

 今度京都に行く機会があったら、福王子神社を訪ねて見たい。

 栩葺は、箱根関所が復元され、その復元関所建物屋根が栩葺と聞く。

 箱根に行った時、関所跡まで脚を運び栩葺を見てみよう。
 

 「こけら」と、果実植物の食べる「かき」の漢字の違い、書き順については、下記のアドレスで分かります。

     
http://kakijun.jp/page/kaki09200.html


  鑑定コラム497)
「『方丈記』と不動産」

  鑑定コラム282)「「不動産鑑定評価とは」という大学での初講義」


フレーム表示されていない場合はこちらへ トップページ

前のページへ
次のページへ
鑑定コラム全目次へ